昔の茨城弁集
昭和35年〜45年頃の茨城弁集
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 この幼児語集は、方言が持つ訛の発生原因は、口から耳に伝わり、それに対して答える際のミスコミュニケーションにあると言う仮設のもとに、幼児語を収集した結果から訛の傾向を掴んでみようという新しい試みです。文字の表現は、50音の昔の茨城弁集に準じています。
 一般に幼児語と言われているものの中には、その地方特有の言葉を親が子供に植え付けているものが多数あります。本サイトでも『茨城弁集』の中に掲載した幼児言葉のほぼ全てがそのような擬似幼児言葉です。そのため、そのような擬似幼児言葉は避けています。
 当面は、我が子が生まれた時から概ね2歳半まで収集した幼児語を紹介して考えてみます。当然ですが茨城弁の影響を受ける環境にはありません。年齢を限定したのは意図的なものではなく、2歳半を過ぎると爆発的に語彙が豊富になり、長文も語るようになるため、記録が追いつかず単に止めてしまったものです。
 
幼児語の特徴
 幼児言葉と茨城弁の訛にはかなりの共通点があることが解りました。勿論茨城県民は幼児性が高いといった結論を出す人は誰もいないと思います。
1)幼児語の初期段階
 幼児が初めて覚える言葉は、基本的に2文字(長音便・促音便・撥音便は数に含まない)言葉から始まる傾向があるようです。そのため、1文字の言葉は繰り返し言葉になる傾向があることが解りました。この段階では、茨城弁の訛との関係はあまり見出せません。
2)『し』が『ち』、『しゃ』が『ちゃ』になる
 少し長じて語彙が豊富になると様々な傾向が出て来ます。もっとも頻度が高いのは『し』が『ち』、『しゃ』が『ちゃ』になる傾向です。次いで『つ』が『ち』になります。茨城弁でも同様の傾向があります。幼児の耳は出生段階で唯一成人と同じ大きさのある器官だと言われています。そのため、耳に聞こえいる音が成人の音と異なる可能性は低いと考えられます。そうなると、『ち』とは発音し易い音であると言えるでしょう。
3)拗音化
 サ行音やタ行音が拗音化する傾向が高いようです。拗音化する訛は茨城弁の特徴でもあります。
 す→ちゅ、せ→ちぇ、ぞ→じょ、そ→しょ、そ→ちょ、つ→ちゅ、と→ちょ
4)格助詞の省略
 格助詞は外国人にとって日本語を学ぶ時の最も難しい部分であると言われています。幼児にとっても省略してしまうのは当然だと思います。茨城弁で格助詞を省略する傾向がありますが、使い方を知らなくて省略するのではなく、知ってて省略しているところが異なります。
5)短縮化
 幼児語で短縮化が発生するのは、悩の発達や言葉の習熟度と関係していると思われます。習熟度の問題は、成人でも知らない長い言葉を聞かされると最初の3〜4文字しかつぶさに言えなかったりするのと同じで、意味を理解していけば、長い言葉も間も無く言えるようになって行きます。
 茨城弁の短縮化の傾向は、格助詞の省略の理由と同じと推測されます。
6)『ラ行音』が『ア行音』になる:r音が省略される
 ラ行音がア行音になる傾向は茨城弁にもあります。特に幼児にとっては口の周りの筋肉はまだまだ未発達ですから他の音に比べ発音し難い傾向があるのだと思われます。
 余談ですが、幼児にとってラ行音は苦手のようですが、我が子の最初のラ行音は英語のR音に近かったのです。『タンクローリー』を見事に英語に近いRで発音していたのです。ところが今はさっぱりです。筋肉が特化して行くのでしょうか。
7)h音の省略
 h音を発音しないのはフランス語の特徴ですが、幼児にとってもh音の発音は苦手のようです。そのため『は行音』が『ラ行音』に変化する傾向があります。これはどうやら幼児語に特徴のある傾向のようです。
8)『ま行音』が『ば行音』になったり半濁音になったりする
 今の所事例は少ないのですが、『ま行音』が『ば行音』になったり半濁音になったりする傾向があります。茨城弁でも似た訛があります。
 一方、半濁音は確実に発音されるのが不思議です。
9)倒語
 単語の一部が入れ替わる倒語現象があります。

幼児語と茨城弁の訛の関係
 幼児語と茨城弁には多くの共通点があることが解りました、しかし、まだまだ事例が少ないので、明解な結論は出しにくい情況にありますが、茨城弁は、発音し易い音を選んで話している傾向があるということだけはある程度断言しても良いのではないかと思います。曖昧な発音をする傾向が生んだ現象だと言えると思います。

訛のかたち
 幼児の言葉を通じて、訛の図式は、@伝言ゲームに見る曖昧な発音の聞き違いと、A話しやすい言葉への転換の二つにあると考えています。まだ推測段階ですが、例えば、標準語でも『い』と『え』、『ひ』と『し』が混乱した言葉があります。茨城弁に限らない訛の図式です。@曖昧な音韻が明解な音韻に変わってしまうという仮設と、A話しやすい音韻に転嫁する傾向があるのではないかという仮説です。
 さらに前後のつながりの代表である連母音変形の面白さがあります。これは日本語に限ったことではありません。
注)幼児語をを募集しています。県や地域には全くこだわりません。投稿内容は必ず掲載しますのでどしどしここにメール下さい。出来れば年齢情報もお知らせ下さい。
子供の言葉 大人の言葉 備考
あいすくむり アイスクリーム ?/倒語現象
あお 1歳後半
あーおいち ああ美味しい 2歳2ヶ月/『し』→『ち』、茨城弁にも同じ特徴がある。
あか 1歳後半
あっかたーい 温かい 1歳後半/倒語現象+長音化
あかちゃん 赤ちゃん 1歳後半
あかちゃん、えんえんて 赤ちゃんがえんえんって(泣いている) 2歳2ヶ月/格助詞の省略
あご あご 2歳2ヶ月
あった、あったー あった 2歳2ヶ月
あったかーい 温かい 1歳後半/長音化は可愛らしさの象徴でもあるのだろうか
あたま 1歳後半
あたまごちーんて 頭をごつんて(ぶつけた) 2歳2ヶ月/『つ』が『ち』に変化、茨城弁にもある訛
あち 1歳前半/『し』→『ち』
あっち 熱い 1歳中盤/『つい』→『っち』、連母音の促音化で標準語や茨城弁にも見られる訛形
あっち あそこ 2歳2ヶ月
あっちあったー あそこにあったー 2歳2ヶ月/格助詞の省略長音化
あとで 後で 1歳後半
あな 1歳前半/h音の省略、フランス語ではH音が発音されませんが、幼児にはH音が発音しにくいのでしょうか
あり、おり あれ! 1歳後半/段の変化
あんーまん アンパンマン 1歳後半/んの長音化、複雑な言葉を自ら簡略化してしまう傾向があるようです



いーこ 良い子 1歳前半
いーなー 良いなあ 1歳中盤
いちこ イチゴ 1歳中盤/清音化、茨城弁にもある訛形です



うえ 1歳後半
うーき ゆうき 1歳後半/『ゆ』『う』、『ゆ』は聞き取りにくいのか発音しにくいのか?



おい、かーちゃん 2歳1月/このような言い方は使っていなかったし教えたわけではないのでTVの影響か?
おいちーね 美味しいね 2歳2月/『し』→『ち』
おいで 来なさい 1歳後半/親の言った言葉のオーム返し
おい、とーちゃん 2歳1月/このような言い方は使っていなかったし教えたわけではないのでTVの影響か?
おえーちゃん お姉さん 1歳後半/n音の省略、発音の難しいものが曖昧になってしまう現象か、一部の子音の省略は茨城弁にもある
おおきー、おおきーの 大きい、大きな物 1歳半
おかーちゃ、いっちょ お母さんと一緒 2歳2月/短縮化と『しょ』→『ちょ』
おこさらまんち お子様ランチ ?/倒語現象
おしり お尻 2歳2月/最初は『おちり』だったと思うが記録が残っていない
おーばーきよ オーバーを着よう 2歳1月/短縮化
おぶ お湯 1歳半/どうしてこんな変化が起こるのか解らない言葉
おもい 重い 1歳後半
おわった、おわっちゃった 終わった、終わっちゃった 1歳後半



がー 掃除機 1歳後半/擬態語の発生
がうわうわう ブルトーザー 2歳2月/擬態語の発生
がおー 掃除機 1歳後半
がーおわっちゃった 掃除機掛けが終わった 1歳後半/擬態語の発生
がごんちゃ ワゴン車 2歳2月/濁音は幼児に比較的はっきり伝わる傾向があるようで、近傍の言葉まで濁音化している
かた 2歳2月
かって、かってよ 貸して、貸してよ 2歳2月
からっぽぽ 空っぽ 2歳2月/『ぽいっと』投げて『空っぽ』になったと表現しているものと思われる
かんぱい 乾杯 2歳1月/半濁音は聞きやすく話し易いのか確実に発音されています。



きいよ 黄色 1歳後半/『ラ行音』→『ア行音』またはR音の欠落、ラ行音は発音しにくい傾向があるようでア行音に変化しています、茨城弁でもその傾向があります
きいんちゃんだっこ キリンさんだっこ 2歳2月/『ラ行音』『ア行音』r音の省略
きえいね 綺麗ね 1歳後半/『ラ行音』『ア行音』r音の省略
きゅーきゅーちゃ 救急車 2歳2月/『しゃ』→『ちゃ』



くえーんちゃ クレーン車 1歳後半/『ラ行音』『ア行音』r音の省略
くち 1歳全般
ぐーちょきぱー ぐーちょきぱー 1歳後半
くっく 1歳半/代表的な幼児語
くった、くつった 靴下 1歳後半/短縮化促音便
くび 2歳2月
ぐー グーフィー(ディズニーのキャラクター) 2歳2月/『ふぃ(fi)』→発音し易い音に置き換えたものだろう
くーま、くるま 1歳後半/『ラ行音』『ア行音』r音の省略



こああちゃん コアラちゃん 2歳2月/『ラ行音』『ア行音』r音の省略
こーき 飛行機 1歳後半/省略形
ここたい ここ痛い 1歳中半/省略形
こっち こっち 1歳中盤:『あっち』は熱いと混同して言えず
これなーに これなーに 2歳2月
こわいちゃった 壊れちゃった 1歳後半/『ラ行音』『ア行音』r音の省略。茨城弁の訛形と酷似。
こわっちゃった 壊しちゃった 1歳後半/『しゃ』→『ちゃ』
ごわん ごはん 1歳中盤/h音の省略



じーじー ラジコンカー 1歳後半/擬音語の発生
じーちゃ おじいちゃん 1歳中盤/短縮化、『お』と『ん』が省略されています
じーちゃんおあよーって おじいちゃんがおはようって 2歳2月/格助詞の省略h音の省略
じーぷ ジープ 2歳2月
じょーず 上手 2歳1月
じょーちゃん 象さん 1歳後半/拗音化『ぞ』→『じょ』
しょーぼーしゃ 消防車 2歳2月
しょれだめ それ駄目 2歳2月/拗音化『そ』→『しょ』



たい 痛い 1歳前半/省略形
だいこん 大根 2歳1月
たいまー ただいま 2歳1月/省略形
たいや タイヤ 1歳中盤
たかい 高い 2歳2月
たーちゅ 二つ 2歳2月/促音の長音化拗音化、『つ』→『ちゅ』
だっこ だっこ 1歳前
たって 立って 2歳1月



ちいたー (照明が)ついた 1歳中盤/『つ』→『ち』
ちーかーちぇん 新幹線 2歳2月/長音化、『つ』→『ち』拗音化『せ』→『ちぇ』
凄い 2歳1月/『す』→『ち』
ちちぽぽ 機関車 1歳後半/直音化『しゅ』→『ち』『ゆ』は発音し難いのだろうか
ちゃちん、ちゃちんちーんて 写真、写真をぱちんと(撮る) 1歳後半/『し』→『ち』
ちゅっーちゅ 出発 2歳2月/『し』→『ち』
ちょーだい 頂戴 2歳1月
ちょちょ 蝶々 1歳半/短縮化
ちょっちょってー ちょっと待って 2歳1月/拗音化『と』→『ちょ』『ま』



でーちゃ 電車 1歳中盤/長音化n音の省略
てって 1歳前半/これは、教えたわけではなく自発的そうなってしまったものである、繰り返し言葉促音化



とけい 時計 1歳後半
とーちゅ 一つ 2歳1月/長音化は教える側に原因があったように思う、拗音化
とっと 1歳中盤/繰り返し言葉促音化
とーて 取って 1歳後半/長音化
どな ドナルドダック 2歳1月/省略形



ないね 無いね 1歳後半
なにこれ 何これ 2歳2月
なんたちょれ 何だそれ 2歳2月/清音化拗音化『そ』→『ちょ』



にゃーにゃー 1歳中盤
にんじん 人参 2歳1月



ねこ 1歳中盤
ねみ 眠い 2歳2月/標準口語でも聞かれる訛、連母音の短縮化
ねんね 寝ること 1歳前半/これは教えたものである、代表的な幼児言葉



ばいく バイク 1歳後半
はいどーじょ はい、どうぞ 2歳2月/拗音化『ぞ』→『じょ』
はち 1歳半/『し』→『ち』
はちちゃ はしご車 2歳2月/『し』→『ち』
ばーちゃ おばあちゃん 1歳中盤/短縮形、『お』と『ん』の省略
ばちゅ バス 1歳後半/拗音化『す』→『ちゅ』
ぱってー 待って 1歳後半/『ま』
はっぱ、はっきえいね 葉っぱ、葉っぱが綺麗ね 1歳半/『ラ行音』→『ア行音』r音の省略
はな 1歳半
ばなな バナナ 1歳半
ぱぱ パパ 1歳前
ぱぱ、あっちょーんて パパがくしゃみした 1歳後半/『ラ行音』→『ア行音』r音の省略、『し』→『ち』
ぱぱうび 親指 1歳後半/『ゆ』『う』
ぱぱ、ぱちーんて パパが写真を撮った、撮って 1歳後半/格助詞の省略
はやい 速い 2歳2月
はよ おはよう 2歳2月/省略形



ぴかぴか ぴかぴか 1歳半
ーく ピンク 2歳1月/長音化n音の省略
ひーこーき 飛行機 1歳後半/これは長音化と言うより長音の繰り返し言葉と思われる
びっきー ミッキー 1歳後半/『マ行』→『ば行』、一部の標準語や茨城訛にもある
びてー 見てー 2歳2月/『マ行』→『ば行』、一部の標準語や茨城訛にもある
ぴーぽーぴーぽー 救急車の音 1歳後半/半濁音は確実に発音される



ーちゃ プーちゃん(ディズニーのキャラクター) 1歳後半/『ん』の省略形
ぶーぶ 自動車 1歳中盤/繰り返し言葉
ぶーんぶーん 自動車の音 1歳後半



ぼういっかい もう一回 1歳中盤/『マ行』→『ば行』
ぼーう ボール 1歳中盤/『ラ行音』→『ア行音』r音の省略
ぼたん ボタン 1歳中盤
ぼーち 帽子 1歳中盤/『し』→『ち』
ぼっとおおきいの もっと大きいの 1歳中盤/『マ行』→『ば行』
ほっぺ ほっぺ 1歳後半
ぽんぽん おなか 1歳後半
ぽんぽんいたい お腹痛い 2歳2月



まま ママ 1歳前



みっきー、きよう ミッキーのリュックを着けよう 2歳2月/格助詞の省略
みっきーちゃーちゃ ミキサー車 2歳1月/散々教えても『し』→『ち』の現象はなかなか直らなかった
みっちゅ 三つ 1歳後半/拗音化『つ』→『ちゅ』
みみ 1歳前半
みみー ミニー 1歳後半/『に』が『み』に変わったというより繰り返し言葉に変形しているように思える
みよ、でーちゃみよ 見よう、電車見よう 2歳1月/『し』→『ち』n音の省略形
みんないっぱい 皆いっぱい 2歳1月



めめ 1歳前半/最初は何故かイ段をウ段で発音したのですぐ矯正した、『イ段』と『エ段』は幼児も間違う
めんめ 1歳前半/繰り返し言葉



もーいっかい もう1回 1歳後半
もっとおおきいの もっと大きいの 1歳後半



やったー やったー 2歳2月



よこったね 良かったね 2歳2月/変則的な変化
よっちゅ 四つ 1歳後半/拗音化『つ』→『ちゅ』



らいおん ライオン 2歳2月
わんわん 1歳中盤
 本茨城弁集は、昭和40年前後の茨城方言を中心に茨城県全域の江戸時代まで遡る言葉を集めたものです。他県の方言との関係を重視し主要なものについては他県の方言も紹介しています。また、近年使われなくなってきた標準語や語源考察、また昭和30年代の風俗・文化等を紹介するために、合わせて標準語も掲載していますのでご注意下さい。
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