◆読書感想◆
幽霊―或る幼年と青春の物語
北 杜夫(著)
価格:\420(税込)
評価:★★★★☆
名作は書き出しが肝です。川端康成の雪国−「国境の長いトンネルを抜けると雪国だった」のように、本を読まなくとも書き出しの魅力で名作古典になります(「雪国」全体が良くないと書いている訳ではありません)。
その意味で北杜夫の処女作「幽霊―或る幼年と青春の物語」の書き出しは、極めて印象的です。「人はなぜ追憶を語るのだろうか。どの民族にも神話があるように、どの個人にも心の神話があるものだ。その神話は次第にうすれ、やがて時間の深みのなかに姿を失うように見える」。
なんと美しい文章!天才のみに許された表現がここにあります!この一文を読むだけで、本書を読む価値があります。本書の後に執筆される「どくとるマンボウ」シリーズのユーモアセンスも、著者の天分にあることが伺えます。
しかし本作は名作とは思いません。名作と呼ぶには小説としてのストーリー性が乏しいのです。本書は「心の神話」と表現されているとおり、主人公の心の追憶をスナップショットとして描いています。別な言い方をすれば、小説の題材を提供するデータベースのような作品に思えます。「楡家の人々」「どくとるマンボウ昆虫記」などの北作品は、幽霊というデータベースによって生まれた名作といえます。(2008/02/27)
◆読感履歴◆
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点と線
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