耐久性は、建物の居住性や使い勝手と並んで、住まい作りの3大要素です。
高耐久住宅と良く言われますが、高耐久とはいったいどういう意味でしょうか。一般には、構造材や外壁材に耐久性の高い材料が使われていて、耐久性の高い住宅と理解できます。しかしそれだけでは、長生きするとは限りません。
耐久性は、住まいの存続を拒むものを排除する性能と定義すれば、材料耐久性以外にも沢山あります。
|
|
|
|
1.長生きの条件
長生き住宅とは、単に耐久性の高い材料を使うことだけではありません。例えば、材料がどんなに良くても地震に弱い住宅では、地震のたびに補修しなければならなくなります。また、建物を構成する要素には、自ずと短命なものがあります。代表的なのは設備機器や配管、防水材等は概ね15〜20年で寿命が来てしまします。その時容易に交換できるようでないと、出費がかさむだけでなくその他の部位にまで悪影響を及ぼすことがあります。
また、長い生活の間には、子供の成長と共に条件が変わっていきます。新たな住まい方のニーズに対応できるようでないと、手放したり、建てかえられたりということになってしまいます。 |
|
1)良質な地盤
地盤の状態は、耐震性ばかりでなく耐久性にも大きく影響を及ぼします。良質な地盤の敷地を選定するのが原則ですが、軟弱地盤の場合は、地盤改良したり杭を打ちます。 |
・地盤の知識へのリンク |
2)高耐震
耐震性をどのように考えるかが大事です。耐久性に乏しいのに耐震性が無用に高いのはバランスが悪い建物です。地震には再現期間があるので、建物寿命を決めたら、それに応じた耐震性能を考えることが基本です。
|
・構造計画へのリンク |
3)高耐久
耐久性は、多くは構造材を指して言われます。構造体の耐久性は、建物の寿命そのものです。状況によっては延命も考えられます。
次に、外装材の耐久性も、重要です。外装材の補修は足場を伴い高価になります。材料毎に耐用年数が異なるので、足場も含めた費用を耐用年数で割って、年間費用に換算したものが最小になるのが、理想的な外壁材です。
耐久性の高い建物が良いのはあたりまえですが、性能上、防水や設備機器類のように15年程度で寿命を迎えるものもあります。これらは、次の高度修繕性で解説します。 |
|
4)耐火性能
意外に忘れ易いのが、この耐火性能です。関東大震災の時は、地震で倒壊した建物より火災で焼失した建物の方が4倍近くあったのです。耐火性は、長く使うための大きな条件なのです。 |
|
5)高度修繕性
設備機器、設備配管が特に重要です。15〜20年毎に定期的な交換が必要になります。交換工事の際、道連れ工事の発生を最小限に押さえる設計でないと、改修費がかさむことになります。配管スペースと点検口は必ず設けましょう。また機器の搬入ルートや点検ルートを確保しておきましょう。
|
・将来対応へのリンク
|
6)フレキシビリティ
長生き住宅の条件のひとつに、ライフサイクルの変化に応じた、間取り変えが簡単に行える設計が求められます。木造では比較的簡易にリフォームできる傾向がありますが、設計段階で考えておいたのとおかなかったのでは全く異なります。住まいでは、子供室周りやバリアフリー対応が代表的です。予測できることは出きるだけ先に考えておくと、簡単な工事ですみます。
また、さらに発展したシステムとして、鉄筋コンクリートを用いて、構造体と内装を完全分離するSI住宅方式や固定部分と自由な部分を分けて他を自由に変えられるようにするフリープランニング、部品化や寸法体系を構築したモジュールプランニングを積極的に導入する方法があります。 |
・子供室の作り方へのリンク
・バリアフリーへのリンク
・将来対応へのリンク
|
7)適切な施工
特に構造材や屋根、外壁周り、床下の施工が重要です。材料の持てる性能を十分に生かすためには、適切な施工が必要条件です。
木造では、木材の乾燥状態、雨天時の管理、適切な固定金物の選定と施工、断熱材の入念な施工、外壁の雨仕舞等、細かく考えて行くと床下を含めた構造と外周部の全てにあてはまります。
RC造では、コンクリートの調合管理に始まって、強度管理、型枠や鉄筋納まりとかぶり、配筋状況、コンクリート打設、養生等に気を配ります。
鉄骨造では、材料管理に始まって、接合部の納まり、溶接管理、ボルト及び摩擦面の管理、防錆塗装やメッキ、耐火被覆等の管理が重要です。 |
|
8)適切な利用
建物は、間違った利用がされると不具合が生じることがあります。特に結露に関わる問題には、住まい手の適切な利用がされないと、建物の寿命が縮むことにもなりかねません。構造体を腐らせるカビ、そしてシロアリが代表的です。鉄骨造の場合錆も大きな要因になります。
また、構造の想定設計荷重をはるかに超えるような使い方も、耐震性能に悪影響を及ぼします。 |
・断熱・気密・結露との関係へのリンク |
9)適切な維持管理
構造体が建物寿命を決めているとすると、その他の部分には、部位や材料に応じた耐用年数があります。耐用年数に応じて、時期が来たら計画的に修繕することを計画修繕と言います。例えば、防水は、年数が来たらその瞬間に漏れるわけではありませんが、場合によると、漏水部の内装材のやり替えに大きな出費を伴うことがあります。そのようなことが起きないよう計画的に修繕することが求められています。
|
・計画修繕へのリンク |
|
|
2.長生きを阻害する要因/建物存続には阻害要因だらけ
1)実は解らない住まいの寿命
ここまで順調に進んできましたが、さて実は大変な問題があります。実は、建物の寿命がはっきりしていないのです。例えば、江戸時代や明治期の木造住宅ではまだ健在なものがあります。ところが最近の住宅は。平均で25〜30年、件数では20年位で建てかえるのが多いそうです。鉄筋コンクリート造は、50〜60年と言われていたのが、実際は中性化が進んで30年位で取り壊されているものがあります。鉄骨造は、解体し易いという性質から、仮設的に考えておられる方も多いようです。
これは、一体どういうことなのでしょう。実は良く考えてみると簡単なのです。実は前項の一つ一つに重大な欠陥があると、建物の存続に関わる問題になってしまうということです。さらに夫々の項目の中身も複数あり、特に施工に関わる問題は、その数を数えていったら限りがないと言えるでしょう。台風や水害等の災害、塩害も時には致命的な要因になることがあります。
このように考えると、耐久性に関わる課題は、居住性や快適性以上に重要な問題を抱えていると言えます。
ちょっとした欠陥がいくつも重なると由々しい結果に繋がる可能性があることを、理解する必要があります。 |
|
2)建物の解体・倒壊原因
構造体の寿命には、もうひとつ大切な側面があります。建物は、寿命が来ると自然倒壊するわけではなく、それでも大地震が来ない限りは使用できます。一方、生活に追いついていけない建物は、取り壊されることがあります。以下に建物が解体されたり倒壊する時の要因を考えてみました。
@震災による倒壊
A火災による焼失
B台風による倒壊
B耐震基準の改正による見かけ上の短命化
C社会ニーズ・生活ニーズに対応できなくなった建物の解体
D容積率アップ等の法改正による、建物収益・建物価値の低化に伴う解体
E耐震診断結果に伴う解体
F買収・地上げ・再開発等の経済活動に伴う解体
G道路、鉄道等の都市計画決定に伴う行政施策に伴う解体
H住み替え原因による解体
I構造体以外の致命的老朽化による解体
I建物欠陥による解体
これらを見るとどうでしょう。実は、構造的な寿命が来て解体に至る建物は、むしろ少ないのではないでしょうか。
|
|
3)寿命の意味
@大壁になって寿命が解らなくなった
特に住宅の場合の寿命の意味は何なのかと考えると、さらに良く解らなくなります。古来の日本の住宅では、真壁造と言って構造体が外部に見えていたため、構造体の状況をつぶさに確認できました。しかし今は、大半が大壁造になってしまったので、内部の状況が解りません。住まい手の意識が高く、行政の奨励金でもない限り、耐震診断をする方は少ないでしょう。簡単な壁量程度のチェックなら図面でできますが、中に隠れている柱や梁の状況チェックは、仕上げ材を取らなければ見えません。大地震でも起こらなければ、どの程度の耐震性能があるのか解らないのです。もともと耐震性が高く、使い方の良い住まいならしっかり耐えるのでしょうが、世の中のかなりの割合の住宅は、すでに寿命が来ているのに、知らずに生活しているのではないでしょうか。
A耐震診断結果が全てか/延命措置がある
運良く耐震診断を行った場合はどうでしょう。耐震診断は、図面による診断と現地調査やサンプリングによる診断に分かれます。その結果、明らかに現行法令基準と大きな差があるものや劣化状況が激しいものは別にして、かなりのものは、状況が良くなくても中規模地震に耐えられる能力を持っていると考えられます。
そのような場合は、期限を決めて存続させて(例えば5年)、建て替える方法と延命措置としての改修工事が考えられます。ここでの5年を置いての建て替えは、多少のリスクを伴っても価値あるものだと思います。また、特に近々大規模地震が予測されている地域の場合は、改修による延命措置を施すことをお勧めします。むやみに建て替えることは、控えた方が良いと思います。 |
|
4)一般的に言われている寿命
そのようなことを考えてくると、一般に言われている建物寿命の目安は、実は目標値であることが解ってきます。
一般には、木造で30年、重量鉄骨造、鉄筋コンクリート造で60年、さらに高耐久コンクリートを使用した鉄筋コンクリート造で100年と言われています。これは目安であって、例えば木造であっても設計内容や利用状況が良く手入れが行き届いていれば、50年以上ももつものもあるでしょうし、100年コンクリートは理論に基づいた新技術ですから、絶対的なものではありません。
私の実家は構造耐力がどの程度あるか定かでありませんが、もうすぐ100年になろうとしています。冬場が寒くて、家の中のタライの水が凍る家ですから、今ではとても住めるものではないと言われるでしょう。実際、温暖化が進んだ今でも寒さはひとしおですが、脱衣室や浴室の補助暖房を考えればもうすこし長生きできるのではないかと思います。
|
|