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2005年3月
   断熱/気密・結露・換気との関係


 断熱の程度の目安は、気候条件によって全く異なるので、なかなか厄介なものでした。それまでの住宅設計者は、過去の経験に頼っていました。
 昭和55年、通商産業省・建設省合同の告示第1号が発行され『住宅に係るエネルギーの使用の合理化に関する建築主の判断の基準』として、熱損失係数の指針値が定められました。さらに平成4年に改訂され、下記の地域(都道府県別の他、さらに詳細に定められている)に応じた熱損失係数の目安が定められたほか、年間暖房負荷、隙間面積、防露性能の指針等が定められ、住まい手が断熱を行う際の目安が明らかになりました。
 本ページは、関わりの深い断熱・気密・結露をひとつにまとめて関係と対策を出きる限り解り易くまとめてみました。
 断熱の意味を考えるとき、住まい手が最も解りにくい住宅性能は結露だろうと思います。結露防止を考えるとき、2つに分かれると考えられます。ひとつは、住まい手側が、生活や運用の弱点を補うために、24時間換気の高断熱・高気密住宅に頼る場合と、二つ目は、結露のしくみを良く理解し、こまめな窓の開け閉めで四季の移り変わりを感じながら、建物の健康も考えて住みたいというケースです。その場合には、もう少し選択の幅が与えられるでしょう。

地域

区分
都道府県名 熱損失係数
I 北海道 1.6
II 青森県 岩手県 秋田県 1.9
III 宮城県 山形県 福島県 栃木県 新潟県 長野県 2.4
IV 茨城県 群馬県 埼玉県 千葉県東京都 神奈川県 富山県 石川県福井県 山梨県 岐阜県 福岡県 愛知県 三重県 滋賀県 京都府 大阪府 兵庫県 奈良県 和歌山県鳥取県 島根県 岡山県広島県 山口県 徳島県 香川県愛媛県 高知県 福岡県 佐賀県 長崎県 熊本県 大分県  2.7
V 宮崎県 鹿児島県
VI 沖縄県 3.7
住宅に係るエネルギーの使用の合理化に関する建築主の判断の基準(平成4年通商産業省・建設省告示第2号)別表



2.断熱とは

 断熱とは、人間にとって心地良いと感じる室内温度をできるだけ少ないエネルギーで維持することと、外気の温度差によって伝わるエネルギーの量を少なくするための工夫ということができます。
 建物全体の断熱性が高ければ、すこしのエネルギーでもほど良い温度環境が得られます。
 高断熱・高気密化は時代の趨勢です。今、住宅メーカーは、高断熱・高気密を歌い文句にしのぎを削っています。それに計画換気を加えて、24時間換気の考え方が主流になっています。



3.昔の住まい

1)昔の住まいに学ぶ
 日本の旧来の家屋は、大きな屋根を分厚い萱(断熱性能が高い)で構成していながら、その下は極めて通風が良く(隙間風どころか殆ど全体が開放されていたも同然でした)、内部と外部との温度差は、昼間は日影の涼しさ、夜は殆ど外気同然でした。夏は構造上の理由から虫や蚊をよけるために蚊帳が必要でした。寒い冬を過ごすためには、分厚い綿のはいった半纏が常備品でした。長い経験のなかで培った知恵です。

2)冷ショックの防止

 東北北部や北海道地域では、高断熱・高気密があたりまえで冬の室内は関東圏より温かいといわれます。一方、夏を旨とした関東以西の住まいは、残念ながら冬には弱く、今高齢化社会になって、クール(冷)ショック防止が話題になり、冬季の室内温度を均一化する傾向は、ますます大きくなっています。高断熱・高気密住宅の実現は国の施策の一つにもなっており、性能に応じた融資も得ることができます。
 高断熱・高気密は適切な機械換気システムとの併用が求められますから、二次的にシックハウス防止の機能もそなえられます。
 



4.気密、結露、換気との関係

1)気密性との関係
 断熱性は、気密と深く関係があります。住まい全体の断熱性能を向上させるためには、建物を取り囲む屋根・壁・天井・床・窓の断熱性を向上させるだけでは不充分で、隙間風すなわち気密性が低いためにおこるエネルギーロスを少なくしなければなりません。
 鉄筋コンクリート造や鉄骨造は極めて気密性の高い建物です。次に2×4住宅が挙げられます。在来木造でも工夫次第で高気密の性能を得ることができます。

2)換気との関係

 断熱性向上には、気密性向上が不可欠であり、気密性を向上すると、特に閉めきりになる冬季の換気をどのようにとるかという問題が残ります。気密性が不充分だったかつての住まいは、少ししずつ隙間風が入ったのですが、高断熱・高気密の場合は、機械換気設備による計画換気が必要になる理由がそこにあります。




3)結露との関係

 それでは、結露との関係はどうなるでしょう。そこに少しややこしい話があります。結露が発生する理由は、断熱と気密性を上げて室内と外部の温度差を上げているために発生しているとも言えるからです。実際、今までの多くの住まいは、断熱性があるからエアコンを運転し、室内外の温度差と室相互の温度差が生まれ、それが実は冷ショックの原因にもなっていたわけです。
 冬季の十分な暖かさを確保しながら万全(100%ではない)な結露防止のためには、高断熱・高気密・計画換気住宅によって室内の温度分布を均一にすることが条件となります。
 結露原因はその他にも様々な要因があって、温度と相対湿度の関係の中で、条件が揃えば必ずおきるものなのです。設計行為の中では、結露発生を極力少なくなる工夫をするほか、それでも可能性が高い場所は、起きても問題にならないようにします。







・表面結露

壁の表面温度が低くなって、表面付近の温度と相対湿度の関係が露点に達して結露するもの。

・内部結露
壁の中や床下、小屋裏等の見えない部分で発生する結露です。表面結露も内部結露も原理的には全く同じです。



5.壁・床等の断熱の方法

 断熱の方法には、@ログハウスのように構造材そのものが断熱層を形成するもの、A断熱材を壁の内側または外側に構成するもの、B断熱性能のある板やパネル類を用いるもの、C上記の複合工法があります。また、建物工法や施工部位によっても様々な方法があるため、代表事例のみ紹介します。

1)断熱材の種類
夫々の性質を良く理解し、適切な使い分けをします。 
@無機繊維系断熱材
・グラスウール

 木造住宅で最も代表的なものです。充填する工法をとります。軽量で施工性がよいのですが、壁の中で沈んでしまったり薄くなったりします。水を含むと断熱性能が低下してしまうので必ず防湿材付きの製品を用います。確実な防湿層形成のために別に設ける場合もあります。厚手で高密度のものが断熱性能は高い。現場では、隙間が確実に埋められているか、つぶれていないかのチェックが必要です。
・ロックウール
素材が異なるだけで、概ねグラスウールに似ています。板状の高密度タイプもあります。
A木質繊維系断熱材
・軟質繊維板(インシュレーションボード)
 リサイクルした木材を繊維状に加工の後、板状にしたものです。一般に断熱材としての性能に劣るため厚手の製品を用いて複合的に用いることが多い。なかには、
・木繊セメント板
 木質系セメント板のうち、特に独立気泡体を含んだ繊維板です。発泡プラスチック断熱材同等の断熱性があり、コンクリート打ちこみにして用いると、コンクリート中の水分を吸収し放出するといった優れものです。

神戸不燃板工業の資料より
・セルロースファイバー
 植物繊維を用いた吹付け用断熱材。吹付けなので、屋根裏や施工困難な不正形な部分に用いられる。
B発泡プラスチック断熱材
・フォームポリスチレン・押し出し発泡ポリスチレン・高発泡ポリエチレン

製造方法が異なる他は、3つとも似た性質をもっています。板状で厚密に強く吸水しにくいため、鉄筋コンクリート造の断熱材や、木造の外断熱に用いられます。堅いため、柔らかい構造体の場合変形に追従できません。そのため端部の隙間埋めは変形に追従できる工夫が必要です。また、溶剤に侵され易く燃え易い欠点がありますから、2×4工法の場合にこれを用いる場合は、内側に石膏ボード等を増し貼すれば安心です。
・硬質ウレタンフォーム
 ポリスチレン系の断熱材より3〜4割性能が良い。そのため同じ断熱性能なら薄くできるというメリットがあります。また板状製品の他現場で発泡する製品がありますから、隙間埋めに有利です。熱に強く準不燃の認定製品があるのが強みです。
・フェノールフォーム
 発泡プラスチック系では、最も耐熱性が高く、複合材の充填材にも用いられている。準不燃認定品。
最近注目されている断熱材です。
・ユリアフォーム
 壁内の隙間等にあとから充填できる断熱材。リフォームにも適しています。

2)断熱工法の分類

@鉄筋コンクリート造
・内断熱工法

 外壁の内側に断熱材を設置する工法です。断熱ラインが切れ易いのでヒートブリッジ(断熱材の途切れた部分から冷気が伝わること)が発生するため、断熱材を延長して対応するのが一般的です。内側に断熱層があるので、外部周りの細かな装置の設置の影響を受けず、鉄筋コンクリート構造の最も一般的な工法です。
・外断熱工法
 壁の外側に断熱材を用います。建物を覆うようになるので、断熱ラインは連続します。以前から、美術館博物館等、湿気や温度の影響を浮け易い建物では、高レベルの温湿度環境を維持するために日本でも用いられて来た工法です。
 そのような建物でも、さらに文化財や写真、和本等の収納場所では、完璧な温湿度を制御する空調システムを導入しても室内気流を確保するのは無理なので、さらに必要に応じて、部屋全体を二重構造(ハウスインハウスと言い、部屋のなかに床を浮かしてもう一つ別の環境を構成する箱を作ります)にして、さらに室内仕上げをスギやヒノキのムク材やゼオライト版等を多様して調湿します。
 外断熱工法は、外部周りを出きる限りシンプルに設計するようにするのが性能を発揮できるポイントです。外部周りに大型の付属構造物(バルコニーや庇)が多く取り付くと、内断熱同様断熱ラインが切れてヒートブリッジが発生しやすくなるからです。住宅では、夏の陽射しの防御を別の方法で施して、夏冬の空調を狙う場合は適していると思います。露切り程度の庇なら断熱層の外側に設置できます。
・内外断熱工法
 次世代型の断熱工法で、断熱層を2層構造にしたもの。
A木造
・充填断熱工法
 柱や間柱あるいは、2×4住宅の枠組み内に断熱材を入れるのでそう呼ばれます。断熱層が、柱や間柱部分で欠損しますが、木材自体に断熱性があるので、一般の断熱材と組み合わせでは、柱の半分の厚さの断熱材とほぼ同じ程度の性能を持っています。
 建物の内側には、床や梁等の構造材があるので、さらに高断熱仕様にする場合は、断熱材の不連続面でのヒートブリッジ対策を施します。
 設計段階から、暖房機の利用予定や、換気習慣の状況を良く話し合って、適切な断熱材を選定します。日本では庇等の外部付属物が多様されるので、適切な利用環境であれば、今でも十分有効な工法です。
・外張り断熱工法
 板状またはパネル状の断熱材を外壁や屋根の外側に張る工法です。ヒートブリッジしにくい工法です。外部に突出する構造物を設ける場合は、ヒートブリッジ対策を施します。
・外断熱工法
 木造住宅で、特に高断熱・高気密を旨とした住宅で、構造体の外に断熱材を設置する場合は、外断熱工法と呼ばれています。 一般にヒートブリッジが発生しにくいといわていますが、外壁面の付属構造物が多いと鉄筋コンクリート構造の外断熱同様、ヒートブリッジが発生しやすくなります。生活パターンに応じて、夏季の日射遮蔽を別の方法で対処すれば、極めて良好な室内環境が得られます。。
・内外断熱工法

 鉄筋コンクリート造の場合と同様、断熱層を2層構造にしたもの。コストがかかるほかは完璧な工法です。

3)壁・床の結露対策
@表面結露対策
 表面結露の発生し易い場所は、ヒートブリッジが発生している個所や空気の流れの悪い室のコーナー部分等が代表的です。
 特殊な例ですが、旅行などで長く使用していなかったために建物全体が冷たくなってしまったような室を、いきなり高温の暖房を行うと発生します。また、梅雨時期の限られた条件で、主として鉄筋コンクリート造の場合ですが、天候によって構造体が低温度状態にあり、高温高湿の外気がコンクリート直貼りのビニルタイルやタイル面に触れると発生することがあります。この場合は、換気が悪さする例で、内部より外部の方が湿度が高い場合は、換気をしてはいけません。地下室でも似た現象が発生します。
 一般に、冷気は室内の低いところにたまるので、壁の下や床面が発生し易くなります。
・結露しにくい表面材料を選ぶ
 木質系材料や珪藻土等は効果があります。床面では、
フローリングの他、カーペット類も有効です。
・表面結露しても問題にならない材料を選ぶ。
 表面結露してカビが発生しても除去できる材料を選びます。水周りのタイル類が典型的です。塗装の場合も塗装などは、後に残りません。
・適切な断熱と除湿
 上記のほか、適切な断熱を施すこと、過剰な暖房は避けること、除湿等により室内相対湿度を押さえることなどが挙げられます。
・室内の上下温度差の解消
 通常の暖房では、室内の自然対流によって上下の温度差が発生してしまいます。窓ガラスの結露が下から始まるのを見ればそれが良くわかります。
 室内の上下の温度分布を解消するためには、床暖房や天井プロペラファンが有効です。
A内部結露対策
 内部結露の発生によって最も怖いのは、木造住宅で発生した場合です。特に防湿層の位置を取り違えて施工した実例では、木材や合板類が腐り、構造耐力が激減してしまうことにあります。
 内部結露は、防湿層の適正配置のほか設計・施工に十分注意し、適切な使い方によってかなり防止できます。開放型暖房機の使用はしないのが鉄則です。

6.開口部の断熱

1)ガラス・サッシュ以外で対処する。
 カーテンブ・ラインド等のウィンドウトリートメントでもかなりの断熱効果が得られます。特に内障子や、二重吊り(ドレープ+レース)したカーテンの熱貫流抵抗は、0.2〜0.3になり、断熱複層ガラスに匹敵する断熱性能があることになります。ただし、カーテン裏は気流が遮断され、表面温度がさらに下がるので、開けている時より閉じている時の方が結露は発生しやすくなります。
 複層ガラスと併用すれば万全です。

2)開口部断熱の意義

 関東以西では、開口部の断熱は冬季が主眼になります。住まい方(冬季の暖房稼働率や暖房範囲)も良く考え無駄な出費は避けたいものです。

3)ガラスによる遮熱・断熱

@ガラスの種類
 ガラスは、多種多様な商品が用意されています。詳しくは、ガラスの項を参照下さい。住宅の場合は外装面積に対するガラスの見付け面積が少ないので、断熱複層ガラス二重サッシュ等を採用しないと、ガラス単体での大きな効果は得られません。
 ちなみに、通産省が開発したの熱負荷熱負荷プログラムによって、モデル住宅を設定し、単板ガラスとの比較を試算した結果によると、断熱複層ガラス(3+A6+3)仕様の場合は、冷房負荷で3〜6%、暖房負荷で17〜19%、さらに断熱複層ガラス(3+A12+3)を用いたの二重サッシュでK=2.7の場合は、冷房負荷を3〜7%、暖房負荷を23〜27%のエネルギー節減が期待できる結果が得られています。この結果から特に冬季に顕著であることが解ります。 
A夏の熱輻射の遮断

 夏季の熱輻射の遮断は、庇やルーバー、カーテン・ブラインドをうまく開閉することで、効果が期待できるでしょう。
B冬季の断熱
 冬季の日中は、太陽熱を取りこんだ方が有利です。夜間は、断熱複層ガラス二重サッシュによって20%前後のエネルギーが削減できます。
 冬季で、断熱性能の劣る開口部の存在と内外温度差が大きいことによって発生する現象にコールドドラフト(冷輻射)があります。これは、暖房していても開口部の表面空気が冷やされて近傍に下りてくる現象です。室内の温度分布はどうしても開口部側が低くなります。そのような理由で、暖房機が窓側になるわけです。エアコンの設置位置の大半が窓側になる理由はそこにあります。





 大きな室になると、室内の空調計画上のゾーニングを行い
ぺリメータゾーン(窓側)、インテリアゾーン(内側)に分けます。簡単に言えば、ぺリメーターゾーンは外部の活況に拘束される部分、インテリアゾーンは、比較的温度条件が安定している部分を指します。
真空ガラス
複層ガラスは、2枚のガラスの間に乾燥空気層を設けたものですが、真空ガラスは、2枚のガラスの間に極小の金属チップをはさみ、それによってできた空隙内の空気を抜いたもの。総厚が薄いので、既存のサッシュをそのまま利用できる。


4)ガラス面の結露対策

 ガラス面の結露は、カーテン類が結露に接してカビが生えたりするほかは、結露水が室内に流れ出すようなことが無い限りさほど大きな問題にはなりません。寝室で夜間発生するガラス面結露は、人体から発生した水分が付着しますから、高湿度になっている警告であり、結露によって空気中の余分な水分を取り除いてくれていると考えることもできます。ただし、壁の断熱が不充分の場合は、壁体内で内部結露が同時に発生している警告とも言えます。
 カーテン類のガラス面からの離隔をとること、結露水の排水を考えるか、排水ができない場合は結露受け皿を設けること等で対処できます。 
 万全を帰する場合は、複層ガラスを採用します。
リフォームの場合は、少々高価ですが、真空ガラスがあります。

5)サッシュの結露対策

 サッシュは、ガラスに比べて面積が小さいため、結露対策の方がウエイトが高くなります。地域によって対策の程度は異なりますので、W地域(関東から九州北部地域)を中心に解説します。
 また、タイトルで敢えて結露防止対策としなかったのは、ある程度の結露はやむを得ないという考え方に基づいています。例えば、就寝時は、カーテン・ブラインドを閉めますが、実はこれも結露原因のひとつになります。また、サッシュ障子の下部框周りは、最も結露し易い部分です。
@設計・施工上の注意点
・内外が熱的に絶縁された断熱サッシュを選定する。
・結露受け皿があり十分な容量のあるものを選ぶ。
・サッシュ回りの壁の断熱ラインが連続するよう、断熱材で隙間を埋める。
・水周り(特に浴室やキッチン)には換気扇を付ける。
・サッシの外側を雨戸やシャッター等で覆い、サッシュの温度低下を防ぐ。
・除湿装置をつける。
A日常生活の注意点
・適切な換気を行う。
・室内に水分を放出する開放型暖房機の使用は避ける。
・結露した水分は、できる限り早期に除去する。




7.部位による断熱効果のウエイト

 断熱処置は、壁・屋根・最上階の天井(鉄筋コンクリート造の場合は通常やらない)、再下階に施します。建物全体を覆うようにします。
 一般に、エネルギーロスを数値で表した時、壁と開口部と隙間風がほぼ同じといわれていますが、これは一般の木造住宅をベースにした平均的な数字であって、知識程度にとどめておけば良いと思います。
 その際、さらにきめ細かく建物全体のエネルギーコストを考えた時に、建築のどの部位を重点的に高断熱化すれば良いかという課題があります。厳密にシミュレーションを行う場合は、間違い無く高層ビルより難しいと思います。階数、平面形状、庇の有無、開口部面積、方位、気候、空調エリア、使い方等変数が多過ぎるからです。
 昭和55年、住宅に係るエネルギーの使用の合理化に関する建築主の判断基準に基づいて住宅に係るエネルギーの使用の合理化に関する設計及び施工の指針』が、全国の地域に応じた指針として制定され、以降2回の改定を経て来ました。今までは経験等に頼って来た断熱に関する設計と施工が、体系的な指針としてまとめられています。
 下は、そのうち構造躯体に求められる熱貫流率の基準値です。数字が小さい程断熱性が求められます。これによると木造の場合は、厳しい順に屋根、床(1階)、壁になります。

住宅の種類

断熱材の
施工法

部位

熱貫流率の基準値

地域の区分

I

II

III

IV

V

VI

鉄筋コンクリート造等の住宅

内断熱工法

屋根又は天井

0.27

0.35

0.37

0.37

0.37

0.37

0.39

0.49

0.75

0.75

0.75

1.59

外気に接する部分

0.27

0.32

0.37

0.37

0.37

その他の部分

0.38

0.46

0.53

0.53

0.53

土間床等の外周

外気に接する部分

0.47

0.51

0.58

0.58

0.58

その他の部分

0.67

0.73

0.83

0.83

0.83

外断熱工法

屋根又は天井

0.32

0.41

0.43

0.43

0.43

0.43

0.49

0.58

0.86

0.86

0.86

1.76

外気に接する部分

0.38

0.46

0.54

0.54

0.54

その他の部分

土間床等の外周

外気に接する部分

0.47

0.51

0.58

0.58

0.58

その他の部分

0.67

0.73

0.83

0.83

0.83

その他の住宅

屋根又は天井

0.17

0.24

0.24

0.24

0.24

0.24

0.35

0.53

0.53

0.53

0.53

0.53

外気に接する部分

0.24

0.24

0.34

0.34

0.34

その他の部分

0.34

0.34

0.48

0.48

0.48

土間床等の外周

外気に接する部分

0.37

0.37

0.53

0.53

0.53

その他の部分

0.53

0.53

0.76

0.76

0.76

「熱貫流率」とは、土間床等の外周以外の部分にあっては、内外の温度差1度の場合において1平方メートル当たり貫流する熱量をワットで表した数値であって、当該部位を熱の貫流する方向に構成している材料の種類及び厚さ、熱橋により貫流する熱量等を勘案して算出したものをいい、土間床等の外周にあっては、内外の温度差1度の場合において1メートル当たり貫流する熱量をワットで表した数値であって、当該土間床等を熱の貫流する方向に構成している材料の種類及び厚さ等を勘案して算出したものをいう。



8.断熱設計・結露を含めた注意点
 断熱設計は、単なる材料選定だけではなく、気密性の向上、室内温度分布の偏在防止、適正な換気計画、専門的な知識を要する細部の納まりも重要な役割を果たします。また施工段階の気遣いがあまいと、完成後のしばらくの期間、結露に悩まされることになります。それに加え、住まい手の使い方に起因する結露もあります。これまでの説明内容も含めて注意点を列挙しました。多くは冬季がテーマになりますが、夏季の場合もあります。
@地域の気候条件にに応じた適切な換気
・自然換気

 夏季や春秋の時期は、窓を開けての通風によって換気するのが一般的です。また雨の日は、湿気を入れない程度に僅かに開けて換気します。そのため、雨水が進入しないよう庇があったほうが万全です。
・機械換気
 問題は冬季です。また秋の台風シーズンや梅雨等の湿気る時期のしのぎかたもあるでしょう。高断熱・高気密仕様とした場合は、その性能を発揮させるため、暖房を行っている居室から外気を取り入れ、キッチン・浴室・トイレ・納戸などの非暖房調室から排気させるやりかた(第3種換気)が一般的で、全室に給排気をとる方法(第1種換気)は特殊な例になります。必要に応じ給気個所には、除湿や熱交換を行います。
A断熱層の連続

 断熱層は連続し、閉じられているのが原則です。ヒートブリッジ(熱橋)が発生しないよう対策を施します。
B防湿材
 防湿材の設計・施工にあたっては、住宅に係るエネルギーの使用の合理化に関する設計及び施工の指針』の内容を吟味し、同等または同等以上の性能が確保できるようにします。
 特に繊維系断熱材を使用する場合は、防湿層は完璧といえる位に施工しないと、断熱材に水分がたまり、断熱効果が激減するだけでなくずり落ちてしまうことがあります。
C小屋裏換気・床下換気
 木造住宅の小屋裏は湿気がたまり易い部分です。必ず換気するようにします。床下は、地中の湿気を避けるためには、ベタ基礎の方が勝っています。
 ベタ基礎の場合、設計内容や周辺環境によっては床下換気は避けた方が良い場合があります。特に夏の場合はベタ基礎で断熱措置を施しても低温傾向になるてめ、弱風で湿気が高い外気を導入すると、かえって結露を招く場合が考えられます。
D断熱材施工時に発生する隙間
 窓や庇、その他外壁に面して取り付けられるものがある場合、断熱ラインが不連続になり隙間ができて金属類だけで内外が繋がってしまう部分があります。そのような個所の隙間には、断熱材を充填するとともに、気密層を連続させます。
E材料中の湿気や施工時に残留した水分
 水分含有量の多い材料を選定したり、施工時の材料保管状態が悪かったり、養生期間が不足して水分を含んだまま、次の工事に入ると水分が内部に隠蔽されて、結露の原因になることがあります。これらを防止するためには、余裕のある工事期間と適切な監理が必要になります。
F室内の温度分布
 室内の温度分布は、コーナー部や部屋の下部は低くなる傾向があります。上下を繋ぐ階段室や吹きぬけ部分は特に温度差が発生し易いので、床暖房の導入や、気流を発生させ、温度分布を均一にする方法があります。
G北側の納戸、押し入れ等の扱い
 北側の納戸や押し入れは、外壁面が太陽光に当たらないために温度が低い傾向があり、また寝具に含まれた湿気によって湿気がたまり易い場所です。こまめな寝具の乾燥と合わせて室内の換気に心がけるとともに、押し入れ等の収納方法の工夫をしましょう。
 方位から45度に振れた住宅は、夏季の熱輻射条件が厳しくなりますが、冬季は結露しにくくなります。
H完成後の水分の進入

・防湿層からの侵入
 防湿層は、断熱材の内側に設け、断熱材の中に水分の侵入することを防ぎますが、100%というわけにはいきません。そのために、壁の外側にさらに通気層を設ける工法を、通気層工法と呼んでいます。
・乾燥のための通気層

 専門家間では、防水と止水は違うなどと言われることが言われたりします。防水は、雨漏りがしないことですが、止水は、雨漏りにならない程度の僅かな水分の進入も押さえることです。止水は、一次、二次のバリアを設け、室内への侵入を避けます。(超)高層ビルになると、外壁のバリアは二重にするのが一般的です。これは、柔らかい構造のため、外壁を動きに追従するよう乾式(カーテンウォール類:ガラス、Pca版)のため、シーリング材ガスケット材(パネル類の隙間を埋めて止水する)を使います。シーリング材やガスケット材は、100%の完全止水は無理なため、二重にすると同時に、間に等圧空間(外部と等圧になることによって雨水は、侵入する勢いを失って等圧空間を通じて下に流れ、最終的には排水する)を設けることもあります。
 外壁から侵入した水分は、通気層を設けて排水すると同時に、濡れた部位を乾燥し湿気を防止しますす。通気層の内側にさらに透湿層(水蒸気は通すが水分は通さない、防水シートと呼ばれたりしていますので注意が必要です)を設けることもあります。
・夏季の断熱材・構造材面の冷却
 また、この通気層は、特に夏季にその本領を発揮します。夏季の太陽に熱せられた外壁や屋根は金属系の材料でなくともかなり高温になります。その熱は断熱材を敷設してもかなりの負荷を伴います。通気層を設けて外壁を冷却すると、かなりの負荷を軽減できます。





・地下の結露は地下のページを参照下さい。  



9.高断熱・高気密の判断基準は?
 高断熱・高気密住宅については、どこまでが高断熱でどこまでがそうでないかが明快でないのが、業界の実態です。ハウスメーカーは全国展開しているので、従来型の断熱仕様を超えて、行政が定めた『判断基準』に指定された地域に該当する性能があるか、さらに1ランク上の地域に対応しているから高断熱というのが一般的なようです。
 少エネルギーを考えることは大切なことですが、現実に、地球環境問題まで発展すると、ことはかなり複雑になります。また、次世代を飛び越して次次世代を先取りしようとするのもひとつの思想です。いずれ環境意識が高くて経済力のあるハウスメーカーがLCCやLCCOまでシミュレーションして、適切な判断基準を示してくれることを期待しています。




10.判断は住まい手に
 夏涼しくて、冬暖かいのが良いのはあたりまえです。日本のシックハウス問題は、始まって10年とちょっとですが、企業の努力は大変なもので、ここ2〜3年の住宅はかなり改善されている調査報告があります。また冷ショック問題を含め、医学上の問題では、これからさらに調査研究が進むでしょう。
 住まいの室内環境は、相応の費用を投入すれば、必ず実現できるものです。しかし、これに関わる問題は生きる思想にかかわる事だと思います。統計学的な判断を超えて各々の生活事情に合わせて良く検討し、結論を出しましょう。
 以下に、高断熱・高気密・計画換気住宅の推進派と反対派の意見をまとめてみました。各々的を得た考え方です。全て正解と言っても良いでしょう。
 建築は、時代性の産物であると良く言われます。時代環境を素直に受け入れるか、時代を超えて将来を先取りするか、判断は住まい手の考え方次第です。

A.推進派の考え方
@省エネルギー
 高断熱・高気密住宅は、省エネルギーの決め手だ。
A化学物質過敏症
 快適な温度環境の中で、化学物質過敏症が防止できる最高の住まいだと思う。そう考えると先行投資は仕方がない。化学物質過敏症は、いくら建築的に対処しても日用品の中に沢山あるのだから24時間換気が鉄則だ。
B冷ショック
 高齢者のいる家なので、冬のトイレや廊下が寒いのはご免だ。また脳卒中は、夜のトイレや浴室で起きると聞いた。室内全体が暖かければ、長生きできる。
Cアレルギー
 子供がアトピーとダニアレルギーで鼻炎がひどいのでうってつけの方式だ。
D木造の大敵:カビ
 結露でカビがはえ、ぼろぼろになった木造住宅があった。高断熱は、高耐久の決め手だ。
E快適性
 心地よい住まいを求めるのはあたりまえ。欧米諸国は、あれほど寒冷地に住んでいながら、我々よりもっと暖かい家に住んでいる。日本人に昔からある贅沢をしないという古い慣習は捨てて、欧米並の気持ち良い家にすべきだ。
F住まい方
 これからは、必ず人工的な環境が必要になる。家の中も同じで、そこでの生活形態に応じた気持ち良い環境を確保されれば色々な娯楽が楽しめる。
Gコスト
 高断熱・高気密は、これからの住まいの決め手だ。あと10年もすれば、主流になるのは明らかだ。住まいを長く使うためにも絶対必要な条件だ。借り入れ金を多くしてでも実現すべきだ。

B.従来派の意見
@省エネルギー
 省エネルギーの真髄は、『省く=はぶく』という言葉にもあるように使わないことが最も有効だ。自然のエネルギーを使って、窓の開け閉めやエアコンの温度設定、家電品のまめな点滅で随分削減できる。贅沢をするつもりはないので今の普通の家の延長で十分だ。
A化学物質過敏症
 室内汚染物質は、温度が低ければ発生量は少ないと聞いている。冬の室内が熱すぎるのは嫌いで、ちょっと寒いくらいが好きだ。健康材料を使えば大丈夫。
B冷ショック
 冷ショックは死因のトップでもないし、若い世代には関係ない。多少寒くても良いから我慢して、投入コストの分外で遊んだほうが良い。
Cアレルギー
 ダニやカビは、こまめに除去すれば、大丈夫。アレルギーは、鼻炎程度であれば病気ではないでしょう。
D木造の大敵:カビ
 高断熱にすれば良いのは解っているが、今までの住宅は、全部カビが生えて腐っているということでもないだろう。開放型のストーブを使わないで、換気をこまめにすれば、防げるはずだ。
 高断熱住宅にしたって怪しいものだ。今までそうやって売りこまれた住宅が欠陥だらけじゃないか。何かあったらそれは使い方が悪いと言われたんじゃ元も子もない。10年の実績がなければ怖い。

E快適性

 1年中良い思いをするのが住まいではない。いくら計画換気などと言ったって、やっぱり外の空気がおいしい。初夏の風を楽しむのが私の人生の楽しみだ。それを考えれば冬寒いのは冬眠期間のようなものだ。
F住まい方
 なにも住宅だけが、人生の全てではない。生活環境の中で、住宅の占める割合は決して大きくはない。コストパフォーマンスを良く考えて過剰投資はしない方が懸命だ。
Gコスト
 高断熱・高気密・計画換気住宅にして、さらにVOC対策のために最上級の材料を使ったら、坪15万円はアップする。私達はまだ若い。なにも30〜40年先まで考える必要はない。ローコストこそ大事だ。住まいのニーズが変われば、住み替えすれば良い。
H地球温暖化の波
 地球が温暖化するのは確実。高断熱・高気密住宅は、寒さ対応の手法だ。当面そこまでの対処は必要ない。

I今の省エネルギー基準は政府の架空施策の結果
 今の省エネルギー基準は、エネルギー政策に失敗した政府の短視眼的な視点から導き出された不完全な基準だ。私たちは不必要に高い買い物を強要されているだけで、住まい方の方法を見直せばいくらでもエネルギー削減はできる。
 社会情勢や売り手の論理に騙されないようにするべきだ。


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