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2003年10月4日
  横浜市内某診療所
建物配置

 国の医療制度改革の一環として、健康保険の患者負担割合が増え、患者の足が遠のいて医療施設の経営は以前より厳しくなりつつある。一方では、医療行為の相互連携の考え方が浸透し、診療所の医療方針は益々地域密着型の診療形態を求められつつある。
 この診療所は、そのような社会環境の中で、25年築の鉄骨ALC構造の既存建物の建て替えを目的として始まった。

◆事業計画支援
 医療施設の設計は、総合病院ともなると、病室の単位計画を基本に規模計画を行い、専任の機材担当者を設計スタッフに置き、概ねのプランが決まると一つ一つの部屋毎に医療機材や家具を配置し、『スペーススタディ』の作業から、基本設計が始まる。プラン形の作り方はホテルと良く似た傾向があるが、特に医療機材の存在は重要である。
 ところが、本プロジェクトでは、事業計画構想自体が定まっておらず、マスタースケジュールも予算も未確定な環境からスタートしたため、実質的に事業計画支援業務と医療コンサルティング業務も含めた設計・監理業務となった。
 敷地は市街化調整区域内にあり、周辺は畑と駐車場になっている。院長先生の個別の要望をそのまま伺って最初に出来上がった案は3階建てとなり、厳しい日影規制の適用を受けること、延べ面積は軽く500uを超えてしまうことを理解していただくことから始まった。現実の壁をどう打ち破るかという厳しく辛い割り切りのプロセスを覚悟しなければならなかった。幸い幅員22mの都市計画道路に面し、容積率には十分な余裕はあったが、事業予算がかなり遅れた段階で見え始め、計画の後半はプログラムの見直しと面積減の作業となった。
 一方では、新たな医療事業展開も求められ、24時間診療や訪問看護、リハビリ室等のニーズもあり、医療施設専門担当も加えて、事業の可能性について様々な検討を行った。最終的に、訪問看護を中心にした暫定事業方針に落ち着いた。この間の実働作業は約6ヶ月、業務開始から10ヶ月が経過していた。

 ◆事業コンセプト設定支援
 市街化調整区域での建築物の建設には制限がある。都市計画法が施行されたとき、この診療所は駆け込み申請で成立した経緯があった。民法上の既得権があるといっても建築基準法、都市計画法の要件を全て満たすとは限らない。様々な必要要件の中で許可申請に必要な事業コンセプト策定の支援も行った。

 ◆コンセプト策定の支援
 当初提案した設計コンセプトは、明快な診療動線の構築と、地域医療に根ざした親しみ易さ、そしてバリアフリーを提案したが、事業計画方針が定まっていなかったため、対話の中で個々のニーズが少しずつ明らかにして行った。代表的な条件は@明るい待合室、A受付から良く見える待合室、Bカルテ動線(=看護婦動線)確保に伴う受付と診察室の連携、C尿検査室と受付の隣接、D診察室とX線室の隣接等がメインのニーズであったが、優先順位が整理されていなかったため、コンセプトレスの中で漂流することになった。
 最終的に決まったプランは、@明るい待合室、A受付から良く見える待合室、Bカルテ動線(=看護婦動線)確保に伴う受付と診察室の連携だけに絞られた。
 事業の成功も失敗もコンセプト策定によって決まる。本件の様に迷いの沼に入り込んでしまった顧客を専門的立場から様々な判断要素を提示し、的確な判断へと導くことも設計事務所の仕事である。

◆建物の基本平面

 敷地形状が整形でないために、敷地に素直になじむ平面形としてV字形平面とした。V字の付け根に当たる部分を待合室として、中央の吹抜けになった中待合からは、中庭を臨むことができるようにした。診療所入口と住宅入口を明快に分け、1階は診察・検査部門、2階は管理部門と住宅として明快なゾーニングを行った。

◆外観
 患者の多くが高齢者であるため、できる限り落ち着いた外観として港横浜のレトロな建物イメージと、モダンな要素の対比を狙った。
 基本的な材料は、茶系の45二丁磁器タイルを採用し、白い横ストライプによって古典的な表現とすると同時に、R部分の外壁は、小幅板型枠コンクリート化粧打ち放しと細溝のアルミスパンドレルを採用したモダンな表現とした。
南側外観
南東側外観

◆別途工事調整

 別途工事とは、顧客(住まい手)が本体工事とは別に直接業者やメーカーに発注する工事のことである。
 別途工事の設計上の取り扱いには、3つのケースがある。@特約業務として本体設計に含める場合、A本体設計とは別に設計・監理契約を結ぶ場合、B顧客(住まい手)が、直接業者やメーカーを使って設計図を整備する場合である。@・Aの場合の設計・監理責任は、設計事務所に帰属するため相応の責任を設計事務所が負うことになる。@とAの違いは工事の請負者が異なることにある。Bの場合は、業者やメーカーの設計・施工になるため、設計事務所は本体工事との調整業務を負う。
 これを顧客(住まい手)の立場に置き換える場合、@は設計事務所に依頼すれば足り、Aは発注業務が顧客の仕事になる。Bの場合は、設計・監理責任は、業者やメーカーに帰属する。
 別途工事の取り扱いについては、話し合いの中で決めて行くことになるが、本質論から言えば責任問題になった時の対処方法が異なることにあり、一般には、別途工事を増やした方が、設計報酬額は少なくて済み、責任問題処理を簡潔にしたい場合は、可能な限り設計事務所の業務範囲に加え、本体工事に含める方が良いことになるが設計・監理報酬がその分負担しなければならないことになる。
 本件の場合は、一般的な区分に従って、既存建物解体工事、置き家具や家電製品、医療機器、カーテン・ブラインド、サイン(看板類)、電話器、ホームセキュリティ(機械警備設備)、消火器等は別途工事として説明して進められた。
 しかし、住宅同様、個人に近い顧客(住まい手)の場合は、予算策定や計画のタイミングの判断は難しい。そのため、特に高額となる既存建物解体工事の見積依頼、仮設診療所の計画と見積依頼(リース・買取)、カーテン・ブラインドの計画と見積依頼、サイン(看板類)計画と見積依頼、電話器配置と見積依頼、ホームセキュリティ(機械警備設備)の計画と見積依頼等について実質的に無償の支援を行なうことになった。

◆構造計画

 一般に医療施設は公益施設であり、構造計画上の重要度係数は1.25〜1.5が設定されることが多い。このプロジェクトの場合は、事業プログラム設定が遅れ、コストを押さえる必要があり対話を通じて法律上の最低性能を確保することで決まった。
 構造形式は、白紙のままスタートしたが、敷地形状が不整形であったこと、R形状にこだわりがあったこと、木造の選択肢が無かったことなどから、結果的に鉄筋コンクリート造となった。
 ボーリング調査の結果、支持地盤は概ね17m下にある軟弱地盤であったため、杭基礎で計画を進めた。
 構造架構は、耐震壁をバランス良く配置するよう心がけた。
構造架構CG

◆建物概要

・構造:鉄筋コンクリートラーメン構造、地上2階
・敷地面積   :399.43u
・建築面積   :230.76u
・延床面積   :420.27u
・容積対象床面積:395.00u
・外壁:45二丁時磁器タイル、一部ラスタータイル、小幅板型枠(一部合板型枠)コンクリート化粧打ち放し、フッ素樹脂塗装、アルミスパンドレル仕上げ
・概算コスト  :1億4千万円