港北ニュータウンの家々を眺めるといくつかの特徴があげられます。
家々は比較的均一な環境の中で都市インフラが合理的に整備され、交通問題や都市防災問題が既存の都市に比べて格段に生活環境が向上し、他の規範となる都市に作り上げられています。様々な都市施設、利便施設、公共公園も計算に従って用意されています。古い住宅地よりは敷地面積規制があり、従来型の狭隘な住宅地よりはるかに優れた景観が構築されています。もうひとつの生活上の印象の大きな点は、道路が広いことでしょう。港北ニュータウンエリアからその他のエリアに入った瞬間、車同士の行き違いに苦労するのは確実です。
一方、もともと丘陵地帯であったため、土地の高低差を吸収するための擁壁が多いこと、古い家並みが殆ど無いため、多くは新しい材料で建てられていること、一般の都市型住宅地同様に屋敷という概念が無くなってしまっているのも残念です。都市化のひとつの現象だと思います。また均質であることの違和感もあります。
家々を眺める行為はあまり住人の方々には望まれないこと思いますが、バーチャルな住宅展示場を見に行くよりも大きな収穫があります。
まず、以上の理由から、×としての代表的な阻害要因は擁壁と車庫であることが解ります。○としての要因は、実は建築本体ではなく、建築物によって刻まれた狭間の空間にあることが解ります。そこはちょっとしたガーデニングの空間であったり、屋外バーベキューの空間であったり、演出としての緑化空間であったりします。そこに建築行為を超えた生活行為が存在し、住まい手の意思や生活思想を○として感じることがあります。
意外にも、新しい住まいより歴史のある古い家に景観性を感じることが多いのは何故でしょうか。住宅設計に携わる者が住宅地の景観を論じる時に、ジレンマにも似た感覚を覚えてしまうのは不思議です。実は住宅地の景観は建築物によるのではなく、その隙間をいかに作ったかにあると言っても過言ではありません。ここに建築設計と、都市計画の接点があるとも言えるし、建築設計がややもすると建築だけに捕らわれ易い傾向があるために都市的な景観をないがしろにし易いということもできます。
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1.擁壁の隠し方
写真1は、負の要素である高い擁壁を建物の外壁と同じレンガタイル貼にした好い例です。擁壁の取り扱いについては、@取り去って置き換える、A緑化するという2つの方法しかイメージしていませんでしたが、こんな方法もあったのかと感激しました。長期に渡っては、タイルの剥離が懸念されますが、漏水するわけでもないし落下による人身事故の危険性は、高さが押さえられているのであまり心配することはないでしょう。
擁壁は、土地の有効利用の観点から無くてはならないことだけは確かです。しかし、そのままでは、町の景観を阻害する要因になっていることだけは確実で、これは実に参考になる住まいです。 |
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写真1 タイル貼の擁壁の家
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2.土地の高低差が生み出した不思議な建物
敷地に高低差がある場合の典型例が写真2と3です。賃貸の低層マンションのようです。この写真は全く別の建物のように思われますが、実は同じ建物の表と裏の写真です。
このようになってしまう理由は、建築基準法によるものと推測されますが、北側にも玄関を設けて、敷地を有効に利用しているのが良く解りますが、我々設計を業とするものから見るとさぞ面倒な設計だったろうと思ってしまいます。
法律上は地下1階地上2階の建物なのに、正面は3階建て、裏は平屋建てに見える不思議な建物です。
写真2 表(南東)の風景
写真2 裏(北西)の風景
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3.素材が持つ印象の強さ
良く、住まいの最後に行き付くところは、平屋建てではないかと言う人がいたり、木やレンガ等の自然素材の家が最もあきないなどと言われたりします。もともとレンガは日本には無かったわけですが、1枚1枚の微妙な色ムラや自然なテクスチャーが、近代的工業製品にはない温かみのある素材感があって、木材に似た素材感がありいつまでも廃れることのない材料の一つだと思います。
写真4は、そのレンガタイルを建物だけでなく塀にも用いて、敷地内の構築物が一群・一体に構成されたものです。こうなるとかなりのインパクトが感じられるようになります。地域景観形成に貢献しているかというより、この建物のアイデンティティの方が勝ると言えるでしょう。住まい作りの一つの解と言えるでしょう。
写真4 レンガの洋館
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4.迎え入れる演出
様々なページで紹介している迎え入れる心の表現を持った建物を3件紹介します。
写真5は、農家の門の横にあった見事なヒバの巨木です。ベースのツツジも良く刈り込まれています。この木を大事にしている住まい手の心が見て取れます。
写真6は、鉄筋コンクリート造の住まいですが、1度建物を閉じて作りながら、尚玄関廻りに工夫がされています。
写真7は、木造住宅の玄関アプローチです。決して大きなひきがあるわけではないのですが、手入れの行き届いたオカメズタが自然な状態で繁茂し、目を楽しませてくれます。
写真5 見事なイブキの大木
写真6 閉じて迎える
写真7 見事なオカメズタ
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5.屋敷杜
屋敷杜という言葉が相応しい2つの家の写真(8、9)です。写真8は、農家と思われる旧家で、建物より樹木の生育ぶりに歴史の長さを感じさせます。
写真9は、実は上の写真6の別の外観ですが、新しい建物のわりに樹木が見事に繁茂しているので、既存の樹木を残したか、または相当な造園費用をかけたものと思われます。見事という他はありません。
写真8 屋敷杜の民家
写真9 新しい屋敷杜
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6.大地の起伏
写真10、11は、ちょっと変わった建物です。余程ガウディに惚れ込んだ方なのでしょう。公園に面しているので、地域でもかなり目立つ存在です。
ところで、ここで見ていただきたいのは、建物ではありません。建物の足元です。普通は擁壁になるわけですが、公園という性格のためか、斜面がそのまま残されています。公共公園ですから決して良い管理がされている斜面ではありませんが、ここが擁壁であったことを考えた時の様子をイメージしたら今のままが良いのは明らかです。
写真12の北山田地区センターにも、比較的気持ち良い斜面を見つけました。
写真10 緑のマウンド1
写真11 緑のマウンド2
写真12 北山田地区センターの緑の斜面
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7.閉じられた風景/○と×
住まいの作り方の一つの方法に周囲との関係性を断つ方法があります。『関係性の検証』には、敢えて断つことも有り得るということです。特に都市型住宅で敷地に余裕が無い場合は、内向きの家を作ってプライバシー優先の建物にします。
以下の写真(写真13〜18)はその典型的な事例です。写真18は、大地主と思われる大規模な屋敷を囲んだ堅固な要塞にも似た塀ですが、それ以外は一般的な住まいです。偶然のことですが、いずれも鉄筋コンクリート造の近代的な住まいという結果になりました。良く見ると大変な力作ぞろいで、建築的な作り込みもレベルの高いものになっています。
ところが、そうしたプライバシー確保を旨とした近代性によるのか、もっと別の理由によるのかは良く解りませんが、このような閉じた建物作りには注意しなければならないと思います。住まいには生活があり、仕事上の先輩・同僚のほかにも、隣人・知人、さては子供の友達まで含めて関係先は雑多です。閉じることに拘って本当によいのか、もっと中長期的に考える必要はないのかどうか。建物は、常にバランスが大事だと思います。突出した理念やデザインのプロジェクトは、様々な特化された業界で話題になりますが、話題性を提供することは、商業・経済主義、あるいは学問の世界では評価されても、実用や現実的な生活の上では異なる評価がされることがあります。さらにこのような傾向には、設計者の意思や思想が深く関わっているのではないかとも思われます。狭隘な敷地条件や様々な住まい手の意向の中で、結果として導き出された最適解なのかもしれません。当該住まい手はこれを○としたものでしょう。いずれもプランを見たり、中に案内されれば、素晴らしい内部空間が設けられているのは優秀な建築家の手によれば確実に実現されていると思います。
住まいは、出来あがった時が完成の時ではないとよく言われます。人間と同じように竣工時がこの世の生の始まりです。地域環境だけでなく次世代のことも良く考え、敷地条件に対する考え方の余裕やこれからのあるべき未来を考えた工夫が欲しいと思います。
一方、規格型のハウスメーカーの住まいは、次元が異なります。敷地に見合う住まいを商品の中から選び決定します。そこには都市の景観性に対する配慮は、まず無いと考えても良いでしょう。現状の住宅地の実態がそれを証明しています。さらに今後、各種条件をあらゆる視点から整備し、それに見合う間取りシリーズを整備すれば、可能性の開ける世界でもあります。
これらと比較すると、写真6に挙げた住まいは、閉じた風景を構築しながら、入り口廻りに工夫がありました。
住まい手の中には、マンション住まいの感覚で、『うちは昼間いないから。』、『来客が少ないから。』、『室内がよければ外はどんなでもかまわない。』等、様々な考え方もあるでしょう。しかし、入り口廻りの構えは、ほんの僅かな工夫で対処可能なのですから、閉じて尚開き、迎え入れる心は忘れないようにしたいと私は思います。
写真13 研ぎ澄まされた感性によるコンクリートボックスの家。シンプルさは、優秀な設計者の究極の表現と思われます。
写真14 対比の素晴らしいコンクリートとガラスの家。
写真15 コンクリートの質感を大事にしたカーポートが顔の家。わずかに見える中庭は、実に気持ちが良さそう。
写真16 住んでみると使い易いと思わせる家。地下車庫に加え玄関アプローチもカーポートとして利用されていた。
写真17 シンプルイズベスト。内部はきっと光にかこまれて素晴らしい世界があるのでしょう。
写真18 格式を再重要視したと思われる石の擁壁と生垣の家。ここまで徹底すると、納得できる部分もある。
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8.歴史の記憶
庚申信仰は、田舎には必ずありました。その大きな催しとしての庚申講は、単に宗教的なものだけでなく、地域の取り決め事を決定する重要な位置ずけにあったと言われています。
この庚申塚(庚申供養碑)は、さりげなく民家の一角にありました。はたして庚申講は今も行われているのでしょうか。
写真19 庚申供養の碑
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