港北ニュータウンは、昭和40年に構想が発表され、今でも事業継続している巨大事業です。単一事業では、日本最大の土地区画整理事業といわれています。
港北ニュータウンの最大の特徴は、横浜市と都市公団と地域住民が一体となった住民参加型町作りに特徴があります。また、道路や公園等の都市施設に総面積の35%を充て、公園のネットワークや外部車両を通さないクルドサック方式によって良好な都市居住環境が図られています。完成予定は平成18年、いまでもあちこちで建設工事が進行しつつあります。
実際にこのニュータウンに住んでみると、道路が広く、住宅地の土地面積の最小限度があることから、古い市街地のような雑多な印象がなく、緻密な計画に基づいて計算されつくした都市であることが良く解ります。
環境・都市・建築デザインサーベイの第1段として、まず港北ニュータウンに以前からあった風景と最近できた公園の事例を観察してみます。
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写真1と2は、私の自宅からものの2〜3分のところにある民家です。今時珍しい南京下見板貼りの外壁の物置件住居らしい建物が出迎えて、奥にお母屋があります。お母屋へは、長い坂道のアプローチが見えます。見事に刈り込まれたツツジの老木が両側を飾っています。5月になれば見事な花を咲かせるのでしょう。
このような構えは、ニュータウンには全く無いものです。それもそのはずで、緻密な計画には合理性が必要で、写真のような風景は事業に伴う権利変換のプロセスの中で、より効率の良い土地利用計画が求められ、土地の高低差を吸収するための擁壁が巡らされていきます。
けれどもこの住まいのアプローチには、示唆があります。土地の起伏を良く利用して、見事に作り上げた屋敷の一例です。住まいはここまで来ると建築物の世界を越えて環境設計そのものになって行きます。地場に根ざした大工さんと造園屋さん、そして住まい手そのものの努力によって形作られた環境です。
写真1 南京下見板貼りの民家
写真2 同上坂道のあるアプローチ
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写真3〜5は、上記の住まいから1分とない限られた地域に見られた民家です。いずれの住まいも緑が見事に生活環境の中にあり、熊笹の家は、建物は遠い奥に見え隠れしているだけです。ニュータウンの昔はこのようだったと推測できる一角です。
写真3 ふきと杉の屋敷
写真4 熊笹の屋敷
写真5 シダレモモ、大根の花、フキの屋敷
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遠くから見たら、何故こんなところにお墓がと思ったら、道祖神と無縁仏らしきものがありました(写真6)。昔は、けっこう行き倒れがあったと聞きます。道祖神の傍らに氏素性の解らない気の毒な人の亡骸を埋めて供養した心持がしのばれる風景です。
その下の写真(写真7)は、東善寺にある巨大なケヤキの木に寄生した見事なヤドリギの写真です。樹木もここまで大きくなると環境要素そしてかなりの位置を占めるようになります。そこに取り付いた直径1mにもなろうと思われる4っつのヤドリギが見事です。
写真6 道端の道祖神
写真7 東善寺のケヤキとヤドリギ
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港北ニュータウンは、南北に大きく2つのエリアに分けられます。その中央を流れる早淵川(写真8)。鶴見川の1支流です。さらにこの川に流れる沢筋が公園のネットワークを形成するせせらぎの小道として開発の大きなコンセプトのひとつになっています。
肝心の早淵川周辺は、開発留保地区として市街化調整区域になっています。周辺には、水田が多く残って今でも農業が営まれていますが、早淵川の川辺は下の写真のように他の多くの川と同じようにコンクリートの土留めによって覆われ、さらにフェンスで立ち入れないようになっています。そのため、ここはニュータウンの古き良き時代の姿を留めているというより、河川行政の不思議さを物語る悪い例のように思われます。
敢えてフェンスを乗り越えて川面を覗くと、40〜50cm大の鯉が悠々と泳いでいるのが良く見えます。
写真8 早淵川
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写真9〜12は、昨年工事が完了し一般公開された八幡山公園です。 ニュータウンの中では、公園のネットワークから外れたいくつかの独立型公園のひとつですが、この公園の魅力は地形をそのまま残した展望の良さでしょう。
一件塚のような小山で、周辺の急斜面一部に樹林を残しながら、開放的で見晴らしの良いものになっています。頂き付近は、ほとんど平で50〜100mの楕円形の芝生のマウンドがあり、一部に十数本の桜が残されていて花見の時期になると知る人ぞ知る花見の行楽地になっています。ここからは、港北ニュータウンが一望でき、東には港北阪急の観覧車や横浜市歴史博物館のピラミッド屋根、遠く横浜駅付近の高層ビル群も眺めることができます。自宅に近いこともありますが、1番好きな公園です。
秋には、桜の見事な紅葉を楽しむことができます。一部にタケノコが取れる公園としてうわさされていましたが、最近全面的に採取が禁止されました。
写真9 八幡山公園の頂上広場
写真10 八幡山公園から北望
写真11 八幡山公園の大地の起伏
写真12 八幡山公園の遊歩道
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写真13は、北地区の比較的早い時期に開発された地区の住宅です。このお宅の敷地にも道路との高低差が2m近くあって、他の建物が擁壁を剥き出しにしているのに対して、ちょっとした工夫によって緑化し、周辺環境に貢献されている住まいです。カーポート上にバスケットゴールが備え付けられていて、クルドサック方式の道路の魅力をさらに生かしています。
写真14は、コンクリート打ち放しの近代的なお宅です。やや閉鎖的な構えをしていますが、デザインも良く練ってあって、ひときわ目立つ存在になっています。隣地にはコンクリートの擁壁が見えますが、ここではその擁壁を取り去って、道路との関係性を復活しているのが良く解ります。
写真13 擁壁を緑化した新しい民家
写真14 コンクリート打ち放しの家
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