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  2005年3月
   トイレの作り方


1.トイレの意義
 トイレは、かつてご不浄と呼ばれ、不潔な場所の代表でした。多くは家の北側の隅にあり、母家から外れた小さな小屋や物置の一角に設けられることもありました。今でも地方の農家ではそんなトイレを見ることができます。当時は汲み取り式で、悪臭を伴っていたことが最も大きな理由でしょう。
 今では、下水道の普及と様々な技術革新、洋式トイレの普及によって、臭いもせず、大変清潔なスペースとなりました。面積に余裕がない場合は、最小限のトイレも仕方がありませんが、これからのトイレをここで考えてみます。

1)化粧室を兼ねたトイレ

 下の写真は、ほぼ3畳大のトイレです。化粧室を兼ねているため大型のカウンターとカガミを用意してあります。スツールを利用すると大変便利です。
 この家では、同じ大きさの洗面カウンターが3台用意してあります。トイレに2台と脱衣室に1台という構成です。朝の洗顔の混雑を考えての工夫ですが、実際非常に使い易い構成になっています。

バリアフリー対応と化粧室を兼ねたトイレ

2)ゆったりと過ごすトイレ

 トイレに雑誌や新聞を置いて、ゆったりと過ごす方がいます。欧米ではよくあるようですが、日本人もそろそろそんな時代を迎えるのではないかと思います。また来客者への心遣いとしてのBGMを流したり、ちょっとした飾り棚を作ったりするのも楽しいと思います。
 また、外が眺められる大き目の窓を設けて、四季の移り変わりや緑や風景を眺められるようなトイレを考えても良いと思います。窓の外には、外からの視線を浴びない工夫が必要になります。

3)高齢者対応
 上記の化粧室を兼ねたトイレは、介助を前提にした結果としての広さですが、実際に出来あがると、大変気持ちの良い空間になっています。右側には、ペーパーホルダー付きのL型手摺が見えます。
 家族の障害の程度が解っている場合は、症状に応じた工夫が必要になります。



2.トイレの設置位置
1)設置個数
 1箇所設置の場合は、居間と同じ階に設けるのが基本です。客用を兼ねる必要があるからです。しかし、2階建てで高齢者がいる場合や、夜間の歩行距離を考えて、各階に設ける傾向が多くなっています。家族のスペースと来客スペース、個室(寝室)ゾーンとリビングゾーン等が明快に分けられたプランならば、ゾーン毎に1個所設置すべきです。

2)設置位置

 トイレは頻繁に利用しますから、なるべく便利な位置を考えます。臭いの心配もほとんど無くなりましたので、設置位置はあまり制限がなくまりました。設備配管を伴うので、なるべく水周りゾーンに設けると合理的です。2階建てで2箇所設ける場合は、上下同じ位置に設けると排水が縦配管に直接接続できます。
 ライトコートに面した開放的なトイレも気持ちの良い場所になるでしょう。
 よく階段下を利用した窮屈なトイレを見かけますが、なるべくなら避けたいものです。

3)広さ
 トイレ面積は、作り方で多少異なりますが、手洗い兼用の便器を使用した場合、最小で80cm×120cm程度は欲しいところです。配管のライニングスペースを考えると80cm×140cm必要です。特に巾が狭いトイレは隅のほうに手が入らず、掃除するのも困ることになります。
 介助を考える場合は、相応の広さを確保します。効率の良いトイレも大切ですが、化粧スペースとしたり、ゆとりのスペースとして作ることも大切です。




3.トイレの形式
1)様式の種類
@和式便器
 大便器は、日本古来の伝統的な便器をベースに陶器を用いたものに変わっています。非接触式なので不特定多数が利用する公衆便所などでは、まだまだ利用されています。小便専用の場合は、形状だけの違いで和洋とも大差はありません。
A洋式便器
 住宅では、今や完全に主流になっています。大小が兼用できてスペース的に有利なこと、人間工学的にも楽な姿勢で用足しができるため、高齢者にはうってつけの便器です。
 洋式の場合でも大型施設では、大小を分離するのが原則です。
 僅かですが、他人の座った便器を嫌う方がおられるために、公共施設やオフィスビルでは、大便器の少なくとも1つだけは和式便器を残しているところもあります。
B和風両用便器(汽車式便器
 和風でありながら、大小兼用できるものです。住宅ではあまり用いられなくなりました。

2)大小便のプラン形式
@単独式
 洋式便器を用いた現代住宅の一般的形式です。トイレには手洗いが不可欠なので、手洗い一体型便器を使用する場合と小型の手洗い器や本格的洗面カウンターを設置する場合があります。
A分離式
 古くからの日本の住まいでは、分離形式が一般的でした。分離した場合のメリットは、男性の特性に応じた小便器の便利さでしょう。しかし、分離すればそれだけ主婦の清掃負担も増えるし、面積も大きくなりますから、良く話し合って決めましょう。
 子供がいる場合の小便器は、ストールタイプといって床まであるものを設置すれば、踏み台が不要になります。

3)他室との複合形式
@独立型
 独立してトイレを設ける方法です。
A洗面複合型
 西洋式浴室の場合、しばしば見られる形式です。洗面脱衣室に便器を併設し、浴室を別に設置するものです。浴室との間は、多くはガラスでし切ります。コーナー的に作って一体的に使う場合も考えられます。欧米の場合、寝室毎に浴室とトイレを設置するのが一般的ですから、効率良く収めるための結果と考えられます。
B浴室複合型

 Aに対してさらに複合化の度合いが進んだものです。
 日本のように浴室がひとつしか無い一般的な住まいでは成立しません。1ルームのマンションや若年夫婦の小型住宅では、面積効率を良くする手法として利用できます。



4.各部の設計・機器の選択
1)各部仕上げ
@床仕上げ
 床材は、ある程度の耐水性が求められます。清掃のし易さも大きなポイントです。クッションフロアーが最も一般的に用いられています。塩ビシート、ホモジニアスタイル、タイル、石も使われます。木質系の床材では、コルクタイルも考えられますが、私の経験では、ワックス掛けが大変なので、コーティング仕様のものの方が良さそうです。フローリングを用いる場合も同様です。 
A壁仕上げ
 男性の小水の飛び散りが多少発生するので、防汚性が求められます。雑巾がけで汚れがふき取れるのが前提です。腰壁を作って腰部分を防汚性の高い仕上げにしてもかまいません。防汚タイプのビニールクロスが代表的です。腰壁には、床材に使えるものであればいずれも問題ありません。その他様々な木質系の化粧材も利用できます。
 手洗い器周りは、水の飛び散りがあるので、部分的に仕上げを変える必要もありますから注意が必要です。

2)出入り口
 出入り口は最低60cm、できれば75cm程度は欲しいと思います。狭いトイレでドア形式の場合は、外開きにします。ドアにはガラスの小窓や欄間を設け、照明の消し忘れを防止します。内側から施錠する場合は、非常開錠できるものにします。部屋面積に応じた換気扇をつけるのが一般的なので、換気のための隙間(小さなトイレでは、ドアの隙間で十分、ガラリやスリットなど)を設けます。 
 車椅子対応を考える場合は80cm程度、できれば有効で85cm欲しいところです。扉は、ドアがア主流ですが、引き戸がベストです。ドア下はフラットにします。

3)窓
 古い家では、トイレの窓は地窓と高窓で構成されていました。自然換気の知恵です。今では、臭気も少なくなり、住まい全体で換気を考えるようになってきましたので、あまりこだわる必要はなくまりました。
 むしろ、一戸建てでしかできない、たっぷりと大きな窓にしてアメニティスペースを構築することを考えましょう。

4)便器のその他の機能
@便器洗浄方式の分類

 便器の洗浄方式は、ロータンク方式フラッシュバルブ方式があります。
 
ロータンク方式は、住宅の主流になっているものです。タンクに一時的にためた水を利用するもので、さらに、サイホンボルテックス式サイホンゼット式サイホン式セミサイホン式洗い落とし式等の種類があります。この順番が洗浄能力の順番になっており、高級な程複雑な機構を備えています。洗浄・排出能力が高く静かで、大きな水たまり面によって臭気が出ない構造になっています。後の方ほど簡易な形式になっています。このうち、サイホンボルテックスは、性能が高いだけでなく、タンクの高さが低いために、便器背後に大きな窓を作ることができるメリットもあります。和風便器には、洗い出し式があります。
 
フラッシュバルブ方式は、大規模建築物に用いられます。間断なく利用されるので、ロータンク方式ではタンク給水が間に合わないため直接洗浄する方法です。
A便座の機能
 洗浄便座は、今や当たり前のものになりました。ビデ機能、便座の暖房、脱臭装置、便器周りの暖房、ノズル洗浄装置、多機能シャワー等、ますます多機能化の方向になっています。カタログの内容を良くチェックして選択するようにします。
 温水洗浄機能は、気持ちが良いばかりでなく、健康にも良く、不可欠な機能と言えるでしょう。
B排水管の位置/下出しと後ろ出し
 少々技術的な内容になりますが、便器の排水管は、下出しと後ろ出しの2種類ががあります。
 下出しの場合の排水管は、下の階の天井内か床下を横引きすることになります。将来何かあったときを考えると、点検方法や交換ルート(スペース)を考えておく必要があります。

 後ろ出しの場合は、背後にライニングスペース(配管スペース)を設け、縦管に接続することになります。特に2階の場合は、その下の階の天井裏での横引きがないので、将来を考えると後ろ出しにメリットがあります。


5)手洗い器(洗面器)の種類
 手洗い器は、便器に一体になったものと、小型の壁付き型、カウンター設置型等があります。カウンター形式にした場合は、清掃作業や汚物洗浄(おもらしの下着等の汚物を便器に捨てたあとの洗浄)作業を考えてなるべく大型の洗面器をお薦めしています。
 材料は、大半が陶器ですが、ステンレス、ホーロー等もあります。
@便器一体型
 洗浄水をタンクに溜める前に、一部の水を一旦水栓からタンク上部の小さな皿で受ける工夫によって、手洗い兼用にしているものです。水量が少ないので、指先しか洗浄できず、極めて簡易な形式です。
A壁掛け・壁埋め込み型・小型カウンター型
 小型のものが大半で、壁掛けや壁埋め込みタイプがあります。スペースに限りがある場合は有効です。小型のカウンター型もあります。
 脚のついた大型のペデスタルタイプは、据え置き型の浴槽との組み合わせで海外のホテル等で良く見かけます。。
Bカウンター型
 カウンター型の特徴は、大型のものが多いこと、下部を収納に利用できることが挙げられます。
・カウンター一体型

 洗面器とカウンターを一体にしたものです。シーリング材が無いので、カビの心配が少なくなります。カウンターと同じ樹脂が用いられています。
・アンダーカウンター型

 カウンターに開けられた開口の下から取り付けるタイプです。取り付け部分のシーリング材が見えないのですっきりした見え方になります。
フレーム型

 カウンターと洗面器の間の隙間にステンレス等のフレームを取り付けて納めるタイプです。フレーム周りが若干汚れ易い傾向があります。
・オーバーカウンター型 
 カウンターの開口に上からかぶせて取り付ける方式です。かぶせた部分の周りが汚れ易い傾向があります。


6)手洗いカウンター
 手洗いカウンターについては、『洗面脱衣室の作り方』を参照下さい。右からリンクできます。
・洗面脱衣室の作り方へのリンク

7)収納

 トイレには、意外に沢山の収納が必要です。使い方を良く考えて計画します。トイレットペーパーのスペアや生理用品、タオル、掃除用具類程度が必要になります。扉の付いた吊り戸棚があると便利です。
 化粧コーナーを兼ねたり、大家族で洗面を兼ねたスペースにした場合は、さらに収納が必要になります。その場合は、カウンター下の利用を考えます。小物も多くなるので、引出しが重宝します。

8)その他雑備品
 トイレには、ペーパーホルダーやタオル掛けが必要になります。また、アメニティ空間やバリアフリーを考えれば、化粧カガミや手摺も必要になります。
 ひとつひとつが空間形成の要素になりますから、注意して選定するようにします。




5.トイレの設備
1)暖房
 パネルヒーターや電気ファンヒーターを用いて暖房する場合は、電源を用意します。高齢者の住まいの場合は、冬季に他室との温度差をなるべく少なくするために、冬季は24時間運転するのが望ましいと思います。床暖房の併用も考えられます。
 建物の断熱性能や気密性能を上げて、室内気流を作り、トイレや浴室等で排気するようにすると、トイレも相応の暖かさを保つことができます。換気を兼ねた間接暖房です。
 

2)換気
 臭気が少なくなったとは言っても、換気は必要です。ジャロジー窓は、開口率が良く換気に適した窓で、良く使われて来ましたが、気密性に乏しく冬季の暖房効率が悪くなるのが難点です。高断熱・高気密化した住宅には向いていません。
 換気窓を設けた場合でも、トイレ面積に応じた天井換気扇を設けます。消し忘れ防止のため遅れスイッチがあると便利です。

3)水栓金物
 手洗いだけならば、簡単なシングルレバー水栓でかまいません。洗顔をする場合は、給湯が必要になります。セントラル方式と電気温水器を利用する方法があります。その場合は、シングルレバーの混合水栓が便利です。
 洗面の排水部分は、ポップアップ金物付きにすると、清掃が楽になります。


4)照明
 なるべく明るいトイレにしましょう。化粧カガミがある場合は、ブラケット照明が必要です。消し忘れ防止のため人感センサーを設置することもあります。

5)コンセント類
 暖房便座用、暖房用、ドライヤー用などが考えられます。トイレの生活イメージをよく考えて場所と設置個数を決めます。

6)非常押しボタン
 機械警備システム(ホームセキュリティ)を導入した場合は、非常押しボタンの設置が考えられます。

本ページは、作成者が20年間の建築設計監理の業務を通じて得た情報と経験をもとに作成したものですが、不具合やご意見・ご要望がございましたら、お手数ですが下記までご連絡下さい。
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