建物内の事故で記憶に新しいのは、2004年六本木の超高層ビルの回転ドアで起きた子供の痛ましい事故があります。
事故には様々なものがあります。2004年の新潟西部地震やスマトラ大津波が上げられます。これは地震に伴う災害ですが、異常気象によるここ10年前後の様々な災害は目をみはるものがあります。
その中でめったに話題にされないのが、住宅の内部での事故です。調べて見るとその実態には驚くべきものがあります。
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国民生活センターの調査結果を簡単にまとめました。
1.家庭内の事故の実態
1)不慮の事故死/交通事故との比較
不慮の事故死はと聞けば誰もが交通事故を連想しますが、交通事故は、少しずつ少なくなる傾向にある中で、住宅内で発生する不慮の事故死は、交通事故に匹敵する件数があると報告されています。
その中で注目すべきは、乳幼児や高齢者に限定すると交通事故より多いことです。
2)乳幼児の家庭内の事故死は2位
乳幼児の事故死は、癌や交通事故を抜いて2位になっています。1位は先天性の疾病ですから、家庭内事故の重要性が浮かびます。
3)事故死の原因
調査によると、家庭内での発生する事故のトップは、@誤飲によるものが約30%、A溺死が30%弱、B転倒・転落が約20%、C火災に関るものが約10%となっています。
これを見る限り、火災を除いて、日常生活で発生する事故のうちの半数が溺死・転倒・転落事故によることが解かります。
4)年齢別事故の原因
年齢別に見ると、乳幼児では誤飲、高齢者では溺死が多いことが解かっています。
5)人口割合で突出する0〜4歳児
人口割合では5%に満たない0〜4歳児が40%を占めています。
6)事故発生場所
事故の発生場所は、@居間36%、A台所23%、B階段13%、C浴槽・風呂場8%になっています。居間が最も多いのは、そこで生活する時間が最も多いからでしょう。台所は、刃物類による怪我やコンロによる火傷等があるからだど推測しています。
7)具体的な事故内容
具体的な事故内容は、@擦過傷・挫傷・打撲傷が30%強、A刺傷・切傷が22%、B熱傷20%、C異物混入11%、D骨折7%となっています。
8)建築物の構成材を原因に起きた建築事故の内訳
住宅を構成する建築的要素に限定して集計した場合の報告です。階段と浴室、床の滑りだけで事故の60%以上を占めることが解かります。
@階段
建築事故の35%を占めます。転倒・転落が圧倒的で下りるときが上がる時の4倍を超えます。具体的には、@滑り・つまづき、A物の運搬中、B階段の不具合(急なこと、手摺の折れ、滑り止めのつまずき)、C幼児が歩行器ごと転落、D照明不十分(夜暗くて、昼間暗くて)というような構成になっています。
A浴室
建築事故の15%強を占めます。事故原因の個所はく@浴室、A浴室のドア、B風呂蓋・浴槽に分かれます。@浴室内の事故の大半は滑りによる転倒事故で、入口の段差によるつまずきも含まれます。A浴室のドアによる事故は、大半がガラスに関る事故でその他手を挟んだりぶつかったりする事故になっています。B浴槽に関るものは、蓋にからんで浴槽に転落する場合と、蛇口等に当たる事故が占めています。
B床
床に関する建築事故は11%を占め、大半が転倒事故です。そのうち高齢者の割合が最も高くなっています。原因は、滑りやつまずきが圧倒的です。
滑りの原因は、濡れたり生乾きのワックスによる場合、スリッパや靴下による場合、置いてある新聞やマット等です。
つまづきの原因は、敷居等の段差や、置き敷きカーペット等によるものです。
Cトイレと玄関
玄関の事故は割合はさほど多くはありませんが、高齢者の割合がトイレに次いで多くなっています。段差の影響でつまづき事故が多く、ついで滑りも多く、踏み外しもあります。
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2.誰のための安全か
成人にとっては、何の問題もない階段や床の滑りや段差が、幼い子供や高齢者にとっては大きなバリヤ(障壁)となります。最近は、ユニバーサルデザインが叫ばれる時代になりましたから、さらに一歩進んだことになっていますが、私達は住まいの安全性について、もっと真剣に考えるべき時代に入っていると言えます。中でも、高齢者対策がもっとも大事になります。
1)乳幼児
乳幼児の対策は、実際は保護者の人的な対応が主になるでしょう。誤飲防止のために低い場所の収納扉や引き出しに鍵を付けるのも一策ですが、現実的ではないでしょう。
扉の簡易なロック装置やコンセントの塞ぎ材はホームセンターで簡単に入手できます。
2)高齢者
建築基準法は、最低限の法律です。様々な家庭内の事故を見ると、新たな品確法をもってしても万全ではありません。住宅での高齢者の事故が多いのは残念ですが、工夫によって防止できるものが沢山あります。
すでに高齢者がおられる家族の場合は、可能な限りの対策を施すようにします。そうでない場合でも、高齢になった場合を想定して対応ができるようにするのが良いと思います。
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3.住宅の具体的安全対策
住宅は乳幼児や高齢者がもっとも多く時間を過ごす場所です。私達は特に高齢者に対して配慮した設計にしなければならないと思っています。
1)段差解消
成人にはなんともない段差が、『摺り足』になった高齢者には大きなバリアになります。自分はまだ若いと思っておられる方もいずれ『老人』になります。段差解消は住宅の安全確保の基本的な条件です。
玄関等でどうしても段差ができてしまった場合は、その部分に縦の手摺を設けるだけで、大きく改善されます。
意外なのは置き敷きカーペットでのつまづきです。そんな僅かな段差でも転倒することがあるのです。
2)滑り対策
浴室の床は、滑りにくい材料を使う他、日常的な『手入れ』もまた重要です。
玄関の床は、浴室同様滑りにくい材料とする他、玄関の庇を充分にとって、雨水を中に持ち込まないようにすることが大切です。
滑らない材料を使っても、実は滑る材料と滑らない材料が隣接すると事故が起きることもあります。
3)落下対策
住宅での落下事故の一番は階段です。階段の事故防止のためには、@法律ぎりぎりの勾配ではなく可能な範囲で緩やかな勾配にすること、A手摺を設けること、B可能なら踊り場を設けること(転倒しても小さな事故に抑えられる)、C蹴込みを設けない納まりは登る際のつまづき防止になります、D夜間の対策としてフットライト等の常夜灯をつける等が考えられます。
また、幼児が窓から落下するケースもあります。窓に面してベッドや物を置かないようにするか、窓面に手摺を設けます。
4)日常行為にも役に立つ手摺
高齢になると、筋肉が弱くなり関節等の疾患が多くなるため、体の起き上がりが面倒になります。そのため、転倒しやすくなります。トイレや浴室等の起き上がり行為のある場所には、手摺を設けるのが鉄則になります。
在来木造住宅で将来取り付ける場合は、取り付け場所を決めておき、予め下地を補強しておく必要があります。下地無しで無理に取り付けると手すりが引き抜けてかえって事故につながることもあります。
5)転倒時に開かないドア
浴室やトイレ内でもし高齢者が転倒し動けない状態になると、場合によってはドアが開けられないことがあります。そのような場合を考えると、浴室は引戸、トイレは外開きが望ましいことになります。
6)その他の安全対策
@引戸類の指詰め防止
引戸類で框戸タイプやガラスが入っている場合やサッシュ等では、子供や高齢者が指を挟まれる事があります。引戸はなるべく指が挟まれない平坦なものにするか、引き残しをとるようにします。サッシュは、指詰め防止金物をつけるようにします。
A大型ガラス付きドアの安全
居間や浴室ドアには大型ガラスを入れるケースがありますが、風で煽られたりすると割れることがあります。ドアチェックをつけたり割れないガラス(強化ガラス、飛散防止フィルム貼、合わせガラス、樹脂ガラス等)を採用したりすることを考えます。
B熱傷対策
旧型の給湯器で温度設定が高すぎる場合にお湯による火傷や高温になった水栓に接触して発生する事故です。最近の全自動型の給湯器なら給湯温度設定を45度程度にしておけば、このような事故はまず起きません。
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