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   2012年4月
   地震の知識


 地震は、住まいの構造体を決定づけるもっとも大きな要素です。また、地盤状況によって建物の構造形式や形状まで影響する場合があります。当然なことですがそれらが建設コストに大きく影響します。
 阪神大震災以降、地震や地盤に関する学問は、さらに発展して、活断層の分布マップが完成したほか、地震の波動は津波のようなもので深層地盤の状況が地震波の伝達に大きく関わっており、震源との位置関係で地震波が伝わり易いところとそうでないところができます。また、平地が山に接している部分では、震源から直接伝わって来た地震派と山にぶつかって跳ね返って来た地震波が共鳴して局地的に大きな被害を受けるベルト状の地域があることまで解って来ました。
 横浜市では全国に先駆けて、市内の深層地盤を調査し、想定される大規模地震に応じてどのような揺れが発生するかをマップにして公開しています。興味のある方は一度右の横浜市のホームページをご覧下さい。
 2011年の東日本大震災は、津波災害と原発災害を伴った複合災害でした。東京都や千葉県を中心に液状化災害も見られました。これ以降、地震に対する備えの考え方が一変しました。


















・横浜市地震マップへのリンク



1.地震の種類
 地震は大きく、プレート境界型地震と活断層型地震に分けられます。プレート境界型地震エネルギーの巨大地震で震源が深く広域が揺れ、活断層型地震は主に直下型地震で震源が浅く、エネルギーは小さいものの揺れは決して小さくない地震です。
1)プレート境界型地震
 地震は、地球の構造と深く関係しています。地球は、プレートと呼ばれる十数枚の厚さ100kmほどの殻で覆われています。その下にあるマントルの動きに応じて、プレートも動いています。
 日本は、ユーラシアプレートと北米プレートの上に位置していて、その東側にある大平洋プレートやフィリピン海プレートがその下に潜り込んでいます。時間とともにひずみが大きくなり限度を超えると一気にずれます。その時地震が発生します。
 プレート境界型地震は、エネルギーが大きく、約百年毎に発生する東海地震関東大震災が代表的です。

2)活断層型地震

 プレート自体にもひび割れがあります。それを断層と呼びます。そのうち数十万年前までにできた断層は、再び活動する可能性が高いので活断層と呼んでいます。淡路島の野島断層は阪神大震災の原因となりました。
 阪神大震災の後全国的な調査が行われ、活断層マップとして公開されています。活断層は全国的に分布しているので、震源が直下にあるため、エネルギーの割りに被害が大きく出易いのが特徴です。

3)その他の地震

 ある地域で頻繁に地震が発生しやがて沈静する群発地震や火山活動に伴う火山性地震があります。



2.過去に発生した日本の大型地震一覧

 20世紀に発生した、過去の地震を一覧表にしました。死者・行方不明者、建物全壊数は、文献調査によっていますが、文献によって多少ばらつきが見られたことを合わせて付記しておきます。。




・国立化学博物館地震資料室へのリンク

発生年 名称 死者・行方不明者数 建物全壊数
2011 東日本大震災 9.0 15,914 129,500
2004 新潟県中越地震 6.8 40 2,842
2000 鳥取県西部地震 7.3 0 360
1995 阪神・淡路大震災 7.2 6,435 100,282
1994 北海道東方沖地震 8.1 10 9
1994 三陸はるか沖地震 7.5 3 72
1993 北海道南西沖地震 7.8 230 594
1993 釧路沖地震 7.8 1 12
1984 長野県西部地震 6.8 29 13
1983 日本海中部地震 7.7 104 994
1978 宮城県沖地震 7.4 28 1,183
1978 伊豆大島近海地震 7.0 25 96
1975 大分県中部地震 6.4 0 58
1974 伊豆半島沖地震 6.9 30 139
1968 十勝沖地震 7.9 52 673
1964 新潟地震 7.5 26 1,960
1952 十勝沖地震 8.2 33 815
1948 福井地震 7.1 3,858 36,184
1946 南海地震 8.0 1,443 11,591
1945 三河地震 6.8 2,306 5,539
1944 東南海地震 7.9 998 26,130
1943 鳥取地震 7.2 1,083 7,085
1923 関東大地震 7.9 99,391 128,266
1891 濃尾地震 8.0 7273 142,177



3.マグニチュードと震度階


1)マグニチュード
 震源での地震の大きさを示すのがマグニチュードです。マグニチュードが大きくても震源が深かったり遠ければ揺れは一般に少なくなります。
 マグニチュードが1増えると、エネルギーは32倍となります。


2)震度階級

 震度は、その場所での地震の揺れを階級で現したものです。以前は8階級でしたが、現在では、震度5と6を強と弱で分け、10階級表示になっています。また計測も体感から機械式に変わりました。






・気象庁震度階数解説一覧表

3)マグニチュードと震度階の関係
 マグニチュードは、地震のエネルギーで、震度階は、実際に揺れた時の状況の状況によって区分しています。したがって、一般に震源地から遠いと揺れが少なく、近いと揺れが大きいことになります。
 最近では、深層地盤の構造も揺れに影響していると言われ、地震工学はさらに進化しています。




4.地震の特性と再現期間

1)地震波の特性

 現在の建築物や土木構造物は、関東大震災クラスの地震に倒壊しないという考え方で、構造基準が定められてきました。さらに超高層建築物では、地震波の記録がある著名な大地震の波形を設計段階で、コンピューターシミュレーションによって建物に加え、建物がどのように挙動をするかを階層別に解析しています。
 住宅で、そこまでのシミュレーションをすることはありませんが、巨大プレート型地震のデータが少なく、また深層地盤の影響によって、地域によって揺れの状況が異なり、実は地震にはまだまだ解らないことが沢山あるのです。

2)地震の再現期間
 また、地震は、ある期間をおいて発生することが知られています。これを地震の再現期間と言います。
活断層付近で発生する地震は、長いものは、1000年単位で発生すると言われ、概ね再現期間毎に下記のように予測されています。
 再現期間が長いほど地震のエネルギーは強く、阪神・淡路大震災がM=7.2だったことを考えれば、1000年再現の活断層型地震のエネルギーは、阪神・淡路大震災の何と30倍、その恐ろしさを予測できるでしょう。
活断層型地震の再現期間とマグニチュード
再現期間(年) マグニチュード
100 6.56
200 7.06
500 7.72
1000 8.21



5.入力加速度と応答加速度

1)入力加速度

 地震は、震源地のずれのエネルギーが振動として伝わり、縦横の地盤のずれが建築物を揺らせます。この時の揺れを地震の入力波といいます。その時の入力される力を入力加速度として、ガル(gal)で表します。関東大震災では、500gal程度だったと言われています。それが、阪神・淡路大震災では、800galを超えていたことが報告され、建築業界が大騒ぎになりました。

2)応答加速度
 建物に地震波が入力されると、建物はそれに応じて揺れが発生します。その時の建物内で発生する加速度を応答加速度といいます。建物には、構造体の特性、剛性(硬さ)、高さ等によってそれぞれ特有の動きをします。その特有の動きによって応答加速度が発生します。超高層建築物の耐震工学は、建物を柔らかくすることによって、固有周期(固有の動きを周期で表したもの)が長くなり、地震波を受け流すことによって発展してきました。実は、五重の塔にヒントがあったことが良く知られています。
 良く中層(30m前後)建築物があぶないと言われた理由はそこにあります。
 超高層建築物では、コンピュータに実際にあった著名な地震を360度方向から入力し、その応答加速度と変形をシミュレーションし、建物が地震に耐えられるかを検証します。
 1〜2階建ての木造住宅の場合は、応答加速度はかなり小さいので、構造設計は、壁量や筋交いの本数・サイズで略算設計されます。その最も大きな理由は、木造住宅の重量が極めて軽いためです。



6.地震による災害と当面予測される地震、高層ビルの盲点


 地震による災害は、地震動による家屋の損壊や崩壊をまず考えますが、実際は間接的に発生する火災を中心に津波岩雪崩竜巻等を無視できません。さらに阪神大震災以来、被災直後の現地への交通網の確保や医療体制の問題が明らかになっています。今や、建物単体で耐震性を語る時代でななくなくなり、広域防災とか広域災害が叫ばれるようになりました。

1)損壊・崩壊
 地震が発生した場合にまず始めに地震による建物の損壊や倒壊による怪我や圧死が重要になります。そのため、現在の建築基準法では、主要な構造部分が倒壊しないことが前提条件として法律が作られています。
 しかし、ここで注意しなければならないのは、地震が発生した時に建物がどのように動き、どのような理由で崩壊に至るかの技術革新は、日進月歩で、さらに個別の建物に対応するための共通の基準は、大きな地震が発生するたびに新たな法令ができ、厳しくなって行く積み重ねになっています。従って、古い建物程耐震性が低いため、全国的に自治体の災害拠点や避難場所になる庁舎や学校の耐震改修工事が進められていますが、まだまだ不十分であることが報告されています。
 耐震改修工事は、耐震補強だけを目的に行うわけですが、それに伴う内・外装工事の補修工事を伴うために、一般的に先送りされる傾向にあります。そのためリスク管理に鋭敏な先端企業は、より耐震性の高いビルを求めて住み替えるところが多くなっています。
 それでは、住宅はどうかというと、もともと厳しい予算で建設・設計・購入していますから、自治体補助金があってもなかなか実施に至らないというのが実情のようです。

1)火災
 建物の火災は、一般的に冬季の乾燥時期に発生し易い傾向にありますが、地震時の二次災害として最も重要視しなければならない災害です。理由は、日本の建物は住宅を中心に圧倒的に木造が多くなっているからです。最近は、特に木造の素晴らしさが注目されていますが、耐火性という点では、準耐火構造を採用してもどうしても劣ります。長期的視点な立ってリスク回避を考えられる方の多くが、結局鉄筋コンクリートや鉄骨造を選択する理由はそこにあります。特に密集市街地では、法的条件もさることながら、広域的な火災延焼を防止したり幅員の大きな道路や耐火構造の建物自体が延焼防止になるということが解ってきました。

2)津波
 津波による被害は、沿岸区域が中心になりますが、最近では1993年の北海道南西沖地震の被害は悲惨でした。今では、いかに予測し、自治体が対応するかが重要であり、建築物が持つ性能より運用の方が重要視されています。津波による建物への影響については、法律上では規定されていないからです。
 2004年末に発生したスマトラ地震・津波は、過去に類を見ない大惨事となり、今も被害者の数が増えつづけています。被害状況は、地図が書き換わるほどですから、建物被害のレベルをはるかに超えています。マグニチュードは9.0、1000年再現期間をはるかに超える超巨大地震です。
 2011年3月11日。東日本を未曾有の大震災が襲いました。地震学者の誰もが予測していなかった東日本沖にある三つの震源が3連動して発生した地震はマグニチュード9.0の巨大地震で、津波地震でもあり木造住宅のみならず鉄骨造・鉄筋コンクリート造の建物まで全壊した例がありました。今、建物の津波対策は、規模により異なりますが、津波が想定される地域では、いち早く避難するしかなく住宅は建てない方が良いという考えまで至っています。東北の復興計画が遅れているのは、住宅に適した高地の平地が少ないためだと言われています。
 現在、津波に対する建築基準法はありません。当面は津波避難建物を指定する動きがあるだけで、少なくとも津波に耐えられる構造基準の策定は当面無理と思われます。

3)岩雪崩
 所謂、地震時の揺れで『山が動く』現象で、台風の時の土石流と似ています。台風や前線による風雨と同時発生の場合は、かなり深刻になります。条件が揃った局地的な災害ですが無視はできません。

4)竜巻
 竜巻は、台風や前線の通過や、不安定な気象条件によって起こります。結局、地震に伴う竜巻は、間接的に発生する火事による局地的上昇気流により発生します。関東大震災では、発生した竜巻によって、人間が巻き上げられたと言います。その被災者数は明らかではありませんが、最近世界的に発生しているマイクロバースト現象の事例もあり、この現象には今の建築基準法に定められた構造耐力では全く耐えられません。実際、アメリカでの竜巻被害は大変大きく、最大級の竜巻の速さは何と風速150mクラスとされています。

5)当面予測される地震
 中部地域では、『東南海地震』、関東地域では、『東海地震』、そして、『南関東地震』です。いずれもいつ起きてもおかしくない地震です。特に、関東平野は、堆積層が深いため長く大震度地下の活断層の存在が不明のまま今に至り、最近その計測が開始されたばかりで良く解っていません。数年前、東京都が、『南関東地震(東京直下型地震)』が発生した場合のプログラムをCGを含めて発表しました。環状7号八号線の間と江東区・墨田区の木造密集地の被害が特に重要視されています。これらの地域は、戦後無計画に住宅が作られたために、道路状況が悪く、中には1間道路と言って2mにも満たない場所に立地しているところもあります。建物の老朽化が進み、現在の建築基準法に基づいて建てられた住宅とは程遠い程耐震性が低いと言われています。また、火事が延焼し易く消防車も入ることができません。敷地選定の際にもそのような状況を良く調べておく必要があります。
 東日本大震災以降、地震の想定区域が大幅に見直されています。現代の地球は1000年周期で現れる地球規模の活性期に入ったと言われているのです。

6)木造の一般住宅の盲点
 今の木造住宅は、度重なる震災毎に法律が改定され、新築住宅は、相応の耐震性を備えています。しかし、震災に伴う火災には、無防備に近いと言って良いでしょう。さらに大規模火災に伴った竜巻に対しても同じです。建築基準法で定められている基準は最低限の強度ですから、これから新築する場合には、法律だけでなく、その土地の特性を良く見極めて設計する必要があると言えるでしょう。
 一般に1981年の法改正以前を旧耐震、改正以降を新耐震として区別されていますが、平成15年に木造建築物の大幅改正があり、新耐震に対して大きな改正がありました。新耐震に準拠した木造建築物であっても震度6強や7クラスの地震には耐えられない事が判明し、新たに接合部に金物を使用する基準が定められたのです。

7)新潟県中部地震に学ぶ

 2004年10月23日夕刻、新潟県中部地域の山間部で、甚大な地震が発生しました。最初は震度6強と言われていましたが、間も無く震度7に訂正され、地震の加速度は、阪神・淡路大震災をはるかにしのぐ、1750galが記録されました。犠牲者の方々やいまだに避難生活を送られている方々には、お悔みの言葉にも余りがあります。
 この地震に学んだことは沢山ありますが、特に山間部を中心に起きたことから、崖崩れや土石流によって沢山の家々があっという間に押し流されたことです。都心に住む私たちには無縁と思い勝ちですが実はそうではないのです。中には、水没してほとんど使えなくなるという住宅もありました。私たちは今の法律通りに作れば安心と思い勝ちですが、そうではないことを、この地震が実証したことになります。

)高層・超高層ビルの盲点
 高層・超高層ビルあるいはマンションは、今までの法令では、火事が発生した階と、その上又は下の階での火災発生しか想定されていませんでした。
 2001年の9.11以降、世界の高層ビルを作る業界では、それでは不足ではなかったのではないかと思い始めています。日本でも有数のビルの管理会社がその盲点を知って、避難誘導のコントロールがいかに重要かをいよいよ感じ始めています。
 私達は、近い将来どころか、もしかしたら明日その洗礼を受けてさらに新たな基準に塗り替えられるかもしれない状況にあるわけです。
 また同年の鳥取地震で、遥か離れた東京の超高層ビルが大きく揺れた事で、長周期地震動が問題視されました。さらに2011年の東日本大震災では新宿の超高層ビルが大きく揺れ、you-tube等を介して話題になりました。また長周期地震動によって倒壊こそしなくても構造体の被害や劣化が注目されるようになりました。これは、東日本大震災の地震波をジョンピュータに入力して検証するする必要がある事になるでしょう。
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