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  2005年3月
   健康住宅/化学物質過敏症対策


 安心で心地よい住まいとはあたりまえのことだと思うのですが、1990年初頭頃から『シックハウス』問題が浮上してきました。ここでは、安全で心地良い住まいを阻害する特殊要因=シックハウスに限定して説明します。
 科学物質過敏症(シックハウス症候群)は歴史が浅く、いまだに医学的に原因物質が特定されていません。法制化されても、原因物質の放散量を設計段階で数値予測できる学問が確立されていません。
 今、私達にできることは、それらに対して出きる限りの配慮と有害物質を含む材料を使わない努力しかありません。

1.化学物質過敏症の歴史と概要 
1)化学物質過敏症のとは

 健康住宅とは、建材や日用品に含まれる微量の化学物質によって、化学物質過敏症を引き起こすことのない住宅のことを指しています。化学物質過敏症は、別名シックハウス症候群と呼ばれ、1990位初め頃から、問題が浮上していました。新築病とか引越し病とも呼んでいたものが、この科学物質過敏症であるとも言われています。
 科学物質過敏症は、アレルギー症状のひとつで、極めて微量の科学物質に反応するもので、10憶分の1から一兆分の1でも発病します。医学界では、今までに無かった新しい概念とされています。疾病は、自律神経障害や精神障害、気道障害の他多岐にわたり、症状も手足の冷えや発汗異常、頭痛、咽頭痛、その他数え上げると数十の症状があるといわれます。

2)日本での対策の歴史
 1996年『健康住宅研究会』が発足、1998年、厚生省、通産省、建設省、林野庁他の複数の中央省庁と学識経験者、民間団体から委員を集め、『室内空気汚染低減のためのユーザーズマニュアル』及び『室内空気汚染のための設計・施工ガイドライン』が発刊、初めて行政の関わったマニュアルとして注目されました。今でこそ、誰もが知っていることですが、その当時は、医学的にも新しい疾患であることがやっと解った程度で、テレビでもしばしば話題になっていました。その後、『健康的な居住環境形成技術の開発』(1997〜1999、建設省を中心とした官民共同開発、建材メーカー、住宅メーカー、ゼネコンなども参画)、『室内科学物質空気汚染の解明と健康・衛生居住環境の開発』(1998〜2000、科学技術庁主催、建設省、厚生省、学識経験者、ゼネコン他)、『室内空気対策研究会』(2000〜2001)を経て、建築基準法大改正に伴い平成12年『住宅の品質確保の促進等に関する法律』が施行され、その中に最も疑わしいとされるホルムアルデヒド等の表示が定められた。また、本年(13年)には濃度測定の項目が付け加えられ、表示方法の改訂が行われました。その間、合板類(JAS)とパーチクルボード類(JIS)の不整合が統一されるなどの規格変更もありました。
 そしていよいよ、平成15年新たな法令が施行されるに至りました。

3)最近までの状況
 私は、組織設計事務所に所属していた折、軽い気持ちで社内の検討委員会の委員を引き受けましたが、調べれば調べる程恐ろしい疾患だと感じ入ったものです。当時の情報『室内空気中の化学物質濃度に関する実態調査結果について』(2000〜2001、室内空気対策研究会)では、築4〜5年経過した住宅の濃度が高く、築2〜3年の住宅は、逆に濃度が低くなっていることが報告されています。社会的な意識の高まりから、良質の材料を選定する努力が払われて来た結果と理解できます。
 しかし、この問題は今でも入り口に差しかかった状態です。ホルムアルデヒドは、まだ『最も疑わしい物質』であり、その他にもトルエン、キシレン、エチルベンゼン−−−、その他にも沢山あります。さらに問題は、建材だけではなく、日用品の中にも沢山含まれている事です。また、問題が発生した時、濃度測定が必要になりますが、簡易なものはかなり精度が悪いこと、精度の高いガスクロマトグラフィーの試験は熟練を要するなどの課題もあります。設計者側からは、建材の化学物質放散に関する学術データがほとんどなく、予測が困難であるという実情もあるのです。



2.化学物質過敏症を防ぐための方法/健康住宅にするには
 建材中に含まれる科学物質は、全て使用しない方が良いかと聞かれると、そうではないと答えます。理由は、それらの科学物質には建材類の耐久性や施工性の向上、かび、ダニ、シロアリ等の発生を防止する目的で使われているからです。
 やみくもに使わないとなると、建物の性能にも悪影響を及ぼすことも考えられるため、総合的な判断が必要です。
 以下は、最も疑われている揮発性有機化合物(VOC)を主体に、注意点をまとまました。

1)換気量と放散量

@換気量
 換気量が多いと、濃度は減衰します。
A放散量
 放散量は時間とともに減衰します。竣工後1〜2年は、人的に頻繁に換気をすると効果があります。
B24時間換気システム
 平成15年(2003年)7月、世界でも最も厳しいと言われる、法令の改正がありました。これによって、居室のホルムアルデヒド濃度の規制値は、基本的に0.1mg/m3以下と設定されました。住宅の場合は、換気窓面積とと内装仕上げの材料の等級と面積、機械換気設備の有無の組合せによって4つの区分に分けられました。これによって、シックハウス問題は大きな山を超えたことになります。
 しかし、後述するように、科学物質に過敏で無い方には、これで充分(過分?)ですが、すでに発症している方の場合は、さらに発展的な対処が必要であると言われています。また、あくまでホルムアルデヒドのみに対する規制ですから、複数の化学物質による複合汚染や、居室以外の規制はまだ無いのが実情です。

2)自然通風

 プランニングの段階で、風の流れが部屋の隅々に至るように配慮します。
 ただし、自然通風は、春・夏・秋には効果的ですが、冬季を考えると、機械換気の方が万全です。

3)使用面積の大きい材料への配慮
 空気中の有害ガス濃度は、建材の使用量に比例するため、使用面積の大きいものに重点的に気を配るようにします。
 新法では、その点に対しても明快な規制が加わり、今まで曖昧だったものが法制化によって、一線が敷かれたことになります。

4)部位別優先順位
 室内空気に直接触れる材料に気を配ります。一般に内装仕上げ、内装下地材、構造矩体、天井、床下、基礎、外壁の順に室内空気への影響度が高くなります。
 新法では、外壁・内装及び天井裏について規制がかかり、大きな進歩を遂げました。

5)発生し易い部位
 発生面によって放散量が異なり、特に合板類は小口面からの放散量が多い傾向があります。
 これについては、新法では触れられてはいません。

6)個人差
 個人によって差があります。

7)室面積と濃度の関係
 放散量が一定の場合、気中濃度と室の気積(容積)には負の相関があり、面積の小さい室の方が気中濃度が高くなります。そのため脱衣室、トイレ、納戸、玄関などが濃度が高い傾向があります。
 新法では、居室のみの規制なので、居室以外の取扱いについては設計者と良く話し合い、換気システムを構築して行く必要があります。

8)特に配慮する材料
 有毒な科学物質を放出する材料は、合板類、断熱材、複合フローリング、ビニル壁紙、木材保存剤、油性塗料、アルキド樹脂塗料、アクリル樹脂塗料、でんぷん系接着剤、木工用接着剤、クロロプレンゴム系溶剤型接着剤、エポキシ樹脂系接着剤等です。
 法的な規制のみでは不安がある場合は、設計段階から設計者と良く話し合って、決めていく必要があります。

9)現場監理でのポイント
 放散量の少ない建材と多い建材を密閉した室内に長期放置すると、放散量の少ない建材にガスが浸透し再び放散を始めるので、現場での保管方法に留意します。

10)材料選定の際のチェック方法
 選定の際には、MSDS(化学物質等安全データシート)をチェックします。現場段階では、特に内装材を中心にMSDSの提示を求め、データを確認するようにします。

11)有害物質は日用品にも
 有害ガスを発生するものは、建材以外の日曜雑品にも多く含まれます。キッチン・洗面脱衣室、納戸、玄関等が問題になります。ちょっと敏感な方は、スーパー等の日用品売り場に行けばすぐ解かります。

12)理想的な総合換気システム
 冬季のエネルギーロスを考えると、やはり機械換気を採用するのがベストになります。居室毎に単独の換気システムを採用する方法です。
 さらに冬季のコールドショック防止のために、建物全体の温度分布を平均化する(温度のバリアフリー)と同時に、科学物質が高濃度になりやすい居室以外の部屋に対する対策を考える場合は、居室から外気を取り込み、浴室やトイレ、納戸等の非居室から排気するという空気の流れを構築することが重要になります。法令は、汚染空気に暴露される時間を考慮していますが、生活パターンによっては万全とは言えないのです。その際の注意点は、空気のよどみを作らないようにすることです。
 この方法は、コスト面でもメリットがあるため、最も一般的なシステムになりつつあります。ここに来て、住宅もビル並みの換気システムを構築するのが必要な時代になったということです。
 しかしさらに突っ込んで考えると、住宅の場合は複雑です。まず、冬季のコールドショック対策は、多く暖房装置の作動していない夜半や早朝に起き易いので、充分とは言えません。就寝中の居室の温度は、人間の体温による暖房効果で比較的高い傾向になりますが、布団内の温度と比較するとどうしてもその格差は大きくなります。建物全体のバランスの良い断熱化がどうしても必要になります。そのためには、就寝中の暖房をどうするか、外壁面の部位によって断熱材やサッシュの仕様をより高レベルの仕様にする配慮も必要になります。このような考え方は、住宅金融公庫にもまだありません。
 夏季の換気は、窓をうまく使うことを忘れないようにした方が懸命です。その一方、不用意に特定の窓を開け放ったりすると流れのルートが変わってしまうこともあるので、どのように使うかも良く考えなければなりません。シックハウス対策の機械換気の量は、実は極めて微量なためです。
 夏のシステムと冬のシステムの使い分けをどう見定めるかが、これからの理想的な住宅の構築を分ける岐路になるはずです。 



3.健康住宅関連リンク集
IBEC/健康住まい・設計施工ガイド
IBEC/健康な住まい・ユーザーズガイド
シックハウス症候群に関連する科学技術文献情報
シックハウス症候群関連文献紹介
タカノ環境建築設計室/シックハウス
化学物質過敏症
健康な住まい方
厚労省/シックハウス中間報告書/第6回〜第7回
施工例/呼吸する家
室内化学物質空気汚染調査研究委員会
室内空気環境・シックハウス/住宅産業情報サービス
室内空気中の化学物質濃度に関する実態調査結果
住団連/室内空気質に関する指針
全国室内気候研究会
都衛研/室内空気中の化学物質

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