省エネルギーの目的はいくつか考えられます。経済原理に基づいて出きる限りランニングコストを減らす場合と、建設コストとランニングコストの合計の最小化を狙う場合、地球環境負を考えて、建設から解体までに発生するCO2発生量を最小に押さえること等があります。地球環境問題が世界的な共通課題のひとつになっている今、自動車業界のガソリン車とディーゼルの関係のように経済原理だけでは済まされなくなってきています。すなわち、経済原理に従った短期的な処方の毒を買うか、少し高い買い物であっても少しずつ効果が現れる薬を処方してもらうかのいずれを選択する事にたとえられます。
一方省エネルギー問題は、特に空調設備を中心にかつては考えられなかった機器が普及し利用範囲が増え、断熱・気密性能の向上と合わせて、年間を通じて恒常的・人工的室内環境が求められ、かえって運用エネルギー消費の絶対量が増えているのではないか思わせる状況にあります。一度年間消費量調査を行うと良いのではないかと思います。これを時代の求めるものとして捉えるかどうかは、個人の選択によるでしょうが、もともと寒冷地で考え出された多くの輸入住宅の建築工法がところかまわず普及し始めているのには、これからの住まいを考える上で大変気がかりでなりません。
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・住宅の省エネルギーのためには、断熱・気密性を向上させる事は大事なことですが、それで、万事解決するような風潮には、大きな不安を感じています。夏はちょっとあつくて、冬はちょっと寒くても良いと考えています。
窓の開け閉めとハードを組み合わせながら、賢く住まう道は、今でも残されていると思っています。 |
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1.省エネルギーの評価手法
ひとことで省エネルギーといっても、省エネルギーには、運営段階での電気・ガス・水といったエネルギー消費のほかに、建設時の材料生産に際して消費されるエネルギーや地球環境全体に及ぼす環境影響も考えなくては十分とは言えません。
1)LCA/ライフサイクルアセスメント
ライフサイクルアセスメントとは、ある特定の対象の、LC(ライフサイクル)(製造段階から廃棄に至る一連のプロセス)に渡る環境影響を評価することです。何やら良く解らない言葉が並んでいますが、これは、もともと、ガラス瓶やアルミ缶、スチール缶、紙容器、ペットボトルなどについて、製造段階から廃棄に至るまでの全期間にわたって、大気汚染物質や水質汚染物質の排出量を定量的に評価できるようになったことから始まっています。建築物のように数十万点といわれる部品をこれに適用するためには、膨大なデータの蓄積と解析を伴い、現実的には、苦労の割に効果が少ないため普及していません。そこで、地球温暖化に最も大きく影響を及ぼしていると言われるCO2(二酸化炭素)の排出量だけに限定して、行う手法をLCCO2と呼んでいます。 |
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2)LCCO2
建築物のLCCO2(ライフサイクルCO2)は、比較的簡易に解析できます。実際に事務諸ビルを例に解析した事例を紹介すると、一般的に、その6割が建物竣工後の運用段階で発生し、3割が、建設時や修繕時に発生しています。その解析の結果、省エネルギーが最も有効であり、その他、建物自体の寿命を延ばしたり、リサイクル材や植林材のような、エコマテリアルを採用することが効果的であることが解りました。
このように、省エネルギーが、地球環境保全に大きく関わることが判明したわけですが、ここでひとつ気をつけなければならないのは、省エネルギー設計と言われているものでも、想定した運用モデルと実際が異なれば、大きくずれが生じますから現実性の高い運用が設計段階で想定されていなければなりません。 |
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3)LCC/ライフサイクルコスト
建築物の建設から維持・管理、解体・廃棄にいたる一連のプロセスで発生する費用を算出することです。維持・管理段階では、修繕費用のほかエネルギー消費や管理費用等、建物運営に必要な全ての費用を含めて考えます。算出にあたっては、建築物を部位毎に分け、夫々の耐用年数と修繕方法が明らかになると同時に、金利や物価変動といった経済指数も加えます。
LCM(ライフサイクルマネジメント)は、狭義には、このLCCを最小化する手法です。よく言われることですが、新築時に予算が少なかったため、最低限の材料や工法を選択してしまうと、将来の維持・修繕コストが莫大になって、長期的にはかえって高くついてしまうことがあります。そのようなことが起きないよう設計段階で検証していく手法と考えれば、分かり易いと思います。さらにLCCO2も判断指標として加える方法があります。また建築物は、長く使う間に、現状を維持することだけでなく、単純な増改築の他に用途の見直しに伴う増改築も考えられます。これらを設計段階で完全に予測することは困難なので、シナリオプランニングの考え方も導入する必要があります。安定成長期を終えた現代社会は、将来の予測が極めて困難になってしまいました。そこで考え得る複数のシナリオを定めそのシナリオ毎に検証する手法です。 |
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2.省エネルギー手法
事務所ビルや店舗、ホテル、学校、病院用途の建築物に対しては、建築主は、 エネルギーの使用の合理化に関する法律の適用を受け、PAL(建築物外皮の熱的特性の規制)、CEC(エネルギー効率の規制)をチェック検討し、『省エネルギー計画書』の提出が求められています。また、東京都では、建築物環境配慮制度が来年(平成14年)施行予定されており、行政の意識はますます高まりつつあります。
住宅の場合は、そのような規制はありませんが、前項での解説にもあったように、一人一人、住宅毎に意識を持ち、省エネルギーを実現しなければならない状況にあるわけです。
省エネルギーの具体的方法は、下記のように分類する事ができると考えています。
@エネルギー負荷・ロスの低減
A自然エネルギーの有効利用
Bエネルギーの効率的利用 |
・住まいにおける省エネルギーで最も即効性があるのは運用上の省エネルギーであると言われています。これは良く考えれば当たり前なのですが、これから作られる住宅よりも、今ある住宅数が圧倒的に多いからです。
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1)環境負荷・エネルギー負荷・ロス低減
エネルギー負荷を低減し、ロスを削減することは、今や極めて一般的手法です。高断熱・高気密化は、必要条件のひとつであって、様々な手法があることを知っておく必要があります。負荷軽減には、下記のような方法があります。
@断熱
・床・天井・外壁・屋根の断熱化をはかる。
・開口部の断熱化
・屋上緑化により、屋根面の断熱化をはかる。
・外壁面の緑化
A日射量の調節
・庇で夏の日射を遮る
・ルーバーや樹木で夏の日射を調節する。
B熱の放出
・夏季は、通風・換気に配慮し、日中は風をを取り入れ、夜間は建物を冷やす。
C熱の隠蔽
・冬季の晴天の日中の熱を大きな窓で室内に取り入れ、夜間は断熱によって外に逃がさない。
D輻射熱を遮る
・地面はなるべく舗装せず緑化する。
Eロスの低減
・気密性の向上
・居室の窓のカーテン類は、二重にする。
・熱交換換気による熱損失の低減
・高効率設備機器の採用
F建物の長寿命化
住まいのライフサイクルコストやLCCO2の削減に最も大きな効果があるのは、建物の長寿命化です。建物寿命には、社会的な陳腐化や情勢の変化、法律改正等が大きくかかわりますが、ハードとしての建物の長寿命化は今国の施策になっています。
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2)自然エネルギーの有効利用
光や風等を有効なエネルギーとして利用しようというものです。代表的なものは、太陽熱利用によるソーラー住宅、太陽電池発電、風力発電等があります。雨水利用も間接的な省エネルギーになります。 |
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@パッシブソーラー
太陽や風、その他のエネルギーを機械力を一切使わず利用するものです。前項のいくつかのエネルギー利用や人的な開け閉めを行って利用するのも重要です。 |
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@太陽熱利用(アクティブソーラー)
・太陽熱利用温水器
住まいでかなり普及しているものです。集熱装置を屋根の上に設置し、太陽熱を取りこんで温水を作り、風呂や給湯、床暖房に利用するものです。
公共施設では、大規模化して冷凍機の熱源に利用しているところもあります。
太陽熱温水器は、このようにかなり普及していますが、他の自然エネルギー利用の大半がそうであるように、エネルギー密度が低く、天候の影響を受けやすいので、同時に通常の設備機器を設置しておくことが前提となります。、
・太陽光発電
太陽電池を利用して発電します。住まいでは屋根面に設置しますが、大規模ビルで外壁のカーテンウォールのガラスに組みこんで発電している事例もあります。
発電した電気が足りない場合は、電力会社の電気を補助利用します。余剰になった場合は、電力会社に売ることもできます。
一見理想的なシステムのようですが、天候の影響を受けやすいことと、設備投資金額が安くないので今のところ助成金を利用しても、まだまだ投資金額の回収はできないのが実情です。しかし今後利用が増えて安価になれば、有効性の高いものになるでしょう。
・冬季の太陽光の室内への取りこみ
冬季の晴れた日中の陽射しには大きな熱エネルギーがあります。大きな窓があれば、室内は程よく暖まり、暖房はいりません。積極的に利用したいものです。 |
・アクティブソーラーは、自然エネルギーを利用しまがら何らかの機械的な補助手段用いるシステムです。
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A地中熱・温泉利用
・地熱発電
火山近くの適切な場所に井戸を掘って、出て来る熱水や水蒸気を利用してタービンを回し発電するのが代表的です。
地域が限定されますが、かなり利用されているものです。世界では1200万Kw発電されており、日本でも50万Kwほどの発電利用があります。
・温泉利用
誰もが恩恵を受けている温泉も自然エネルギー利用の代表事例です。温泉地の住まいでは、様々な利用がされています。
・地中熱利用
年間を通じて、恒温である地中温度を利用して、換気や空調に用いることができます。 |
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B風力利用
風力利用には、風のエネルギーと熱を利用した換気、風力を利用した発電が代表的です。
・建物回りの風の流れの工夫
地域の卓越風を良く調べて、建物廻りの配置を工夫し風の流れを積極的に利用します。
・建物内の風の流れの工夫(通風・換気)
風を建物内に取りこんで、室内の汚れた空気を新鮮な外気に置き換えたり、建物自体を冷やしたりする機能があります。
・風力発電
風の強い地域では、風のエネルギーを利用して風車を回し、発電することができます。日本ではまだ試験段階ですが、エネルギー効率も比較的良いので、安定した風の吹く海岸部を中心とした地域ですでに稼動しています。 |
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C雨水利用・排水再利用
雨水利用は、古くから生活の知恵としてあったものです。最近、都市化が進んだ地域で、豪雨時に河川が氾濫する都市型の災害が多発しています。大型建築物では、雨水を一時的に貯留して災害を防止したり、トイレの洗浄水や植栽散水に利用するのが常識になっています。また、非常時の飲料水や消防用水への利用事例もあります。
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Dその他
・波力発電
波の運動を利用したもの。
・潮汐発電
潮の満ち干を利用するもの。
・バイオマス
生物体(バイオマス)そのものをエネルギー資源として利用する方法で、微生物の発酵によりメタンやエタノールを得てそれを利用する方法があります。
バイオマスによるエネルギー利用は、もともと大気中の二酸化炭素を生物が取りこんでエネルギーとしているものですから、循環型エネルギーそのものであって、クリーンエネルギーの代表と言えます。
アメリカやブラジルではすでに実用化されています。余剰穀物や砂糖きびを利用しています。
日本では、ゴミ焼却熱を利用したプールや施設、下水汚泥処理課程で得られたメタン利用の発電が公共施設を中心に行われています。その他、従前からあった森林資源(薪、木炭等)や農業廃棄物(藁や籾殻)、畜産廃棄物(家畜の糞尿)などの利用が考えられていますが、実用化されていません。 |
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3)エネルギーの効率的利用
建築や住宅を取り巻くエネルギー分布を系として捉え、屋根面で受けたエネルギー(熱)を何らかの方法で蓄熱してそれを有効利用したり、住宅内のエネルギーの偏分布を逆に利用し、潜在しているエネルギーを利用しようとするものが代表的です。エネルギーのカスケード利用なども代表例です。また高効率のエネルギー機器、空調機の利用も考えられます。 |
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@ハイブリッドソーラーシステム
住宅では、パッシブソーラーとアクティブソーラーをベースにしながら、機械的な補助手段を用いた、複合的的な省エネルギー手法(ハイブリッドソーラーシステム)が考えられます。この考え方は、フランチャイズ制のソーラーシステムでも採用しているものがあり、今後最も期待できる分野であると思っています。
すでにビル分野では、様々なシステムが試みられ、住宅分野での応用・開発が考えられます。都筑の家では、簡易なパッシブに徹しましたが、今後の物件を通じて、拡大して行きたいと考えています。
・地中熱利用
地中にパイプを敷設し、地中温度の恒温性を利用して、外気をパイプ内で冷却(夏)または加熱(冬)し利用するシステムです。そのためクールパイプ(ヒートパイプ)方式と呼ばれることがあります。
大規模建築では、地中の熱で冷却または、加熱された外気を空調機への外気として利用することで、外気への熱負荷が少なくなります。これにさらに囲水を空調機の冷水として利用する方法もあります。
・蓄熱方式
昼間は集熱器を使ってコンクリート躯体に蓄熱する方法や、余剰夜間電力を氷等で蓄熱する方法があります。住宅では、地中熱と組み合せてシステム構築している例があります。 |
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Aエネルギーのカスケード利用
石油やガス等のエネルギー源を燃焼させて得られるエネルギーを温度に応じて、合理的に利用しようとする考え方です。最も高い温度の場合は電気変換し、次は蒸気を発生させて空調に利用します。温度の低いエネルギーは、温水として給湯に利用します。
エネルギーのカスケード利用で最も代表的なのは、コジェネレーションシステムです。一次燃料を燃焼させて発電を行い、排気ガスの熱を利用して冷暖房や温水を供給します。都市計画レベルの大規模建築物では、地域冷暖房施設と抱き合わせてシステム構築したりすることもあります。 |
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B燃料電池
燃料電池とは、水の電気分解と逆の反応を利用すすシステムで、水素と酸素の化学反応で得られるエネルギーを直接電気エネルギーに変換する電池です。もともとは、アメリカのアポロ計画の中で、宇宙船内でエネルギーを得ながら副産物として水が得られる画期的なシステムとして考案されたものでした。
前記のコージェネレーションシステムは、今までは、エネルギー効率の点から比較的大規模建築に限られていましたが、燃料電池の開発に伴ってオフィスや小型店舗用の機器が実用化に至り、住宅用としての実用化ももう少しの段階になってきました。 |
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B大温度差空調
ビル等で利用されているものです。空調の熱源や冷温空気の温度差を大きくすることによって搬送設備の容量を少なくすると同時に、配管やダクトの径を小さくでき、少エネルギーに繋がるシステムです。リフォーム工事にも向いています。 |
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C輻射利用
住宅では、床暖房やパネルヒーティングなどの輻射暖房が一般的です。温度分布が良く、体感温度が実際よりも暖かく感じられます。
大規模建築用の輻射熱利用空調システムも実用化されています。 |
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Dダブルスキンシステム
住宅での事例は、聞いたことはありませんが、外壁の外にもう1枚ガラスカーテンウォール等の壁を構築し、空調機への戻り空気(リターンエア)を建物頂部にある空調機械室に戻すシステムです。リターンエアは、外気と室内空気の間の温度をもつため、内外の間に緩衝空気層が設けられるので、省エネに繋がるシステムです。
木造住宅の外壁通気とは、根本的に異なります。 |
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ERAPPシステム
RAPPとは、Return Air Push&Pullの略です。
ダブルスキンシステムが建物1棟を一つの空調システムとして構築するのに対して、各階毎に2重のサッシュ設け、その間に空調のリターンエアーを流す方式です。ダブルスキンに比べ、超高層等の大規模建築に適しています。 |
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Fナイトパージシステム
夏季の夜間の外気を建物内に取り入れ、建物全体を冷やしておき、冷房負荷を軽減するシステムです。
構造体の熱容量の大きな鉄筋コンクリート住宅などでは、夏季の夜間外気で建物全体を冷やしておくと、日中の温度上昇が押さえられる傾向があります。 |
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G外気冷房システム
夏季の住宅の自然換気の長所が原点となるシステムです。特に中間期や冬季にも冷房しなければならないような特殊施設(コンピューターセンター等)で、外気をそのまま冷房に使うシステムです。搬送機だけで熱源がいらないために省エネルギーできます。ナイトパージシステムとの併用も考えられます。
外気風量が多く必要なので、ダクトサイズが大きくなるのが難点です。 |
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E素材だけで、空気浄化や調湿の出きる材料を使用する。
珪藻土やゼオライト板には、臭いや湿気を吸放出する機能があります。針葉樹のムク板にも、調湿機能があります。
美術館や博物館の収蔵庫で良く用いられますが、住宅でも効果のある材料です。 |
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3.先人の知恵に学ぶ
ところで、省エネルギーの概念は、日本型住宅には長い生活の知恵の中で民家に受け継がれて来ました。つい30〜40年前までは、田舎の建物の夏がいかに涼しく、冬の廊下が陽だまりの場所であったことを、特定の年齢層は知っています。冬の夜は、半纏を着込んでコタツに入れば、極めてエネルギー量の少ない局所暖房だけで、私達の子供の頃や祖父達は、満足していました。この考え方は、現在の住宅には当てはまりません。何故そうなってしまったのでしょう。
最近面白いHPを見つけました。『百年日本建築・省エネ秘伝』がそれです。今まで言い尽くされてきた日本建築の省エネ建築の方法をわかりやすく解説されています。 |
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4.省エネルギー関連リンク集(順不同)
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