五感の教育
IT関係という仕事柄、わたしは大量のメールをやり取りします。そして時々メールを書きながら「自分は考えて文章を書いているのか?」と疑問を持つことがあります。確かに脳は働いているでしょう。しかし、わたしは思考がなく、目と手だけが勝手に動いている感覚を持つことがあります。恐らくそんなときのわたしの表情は、ロボットの如く無機的なのではと思います。
わたしは1990年代半ばに、従業員2万人を超す企業のグループウェア導入を手がけました。グループウェアは人と人とのコミニュケーションを円滑にし、ホワイトカラーの生産性向上に寄与するといわれます。今でこそ会社でメールを使うのは当たり前ですが、IT革命以前の当時は、新しいツールに対するアレルギーが蔓延していました。わたしは上層部向け、社員向けに、グループウェアの洗脳活動を推進しました。そして確かにグループウェアは仕事の迅速化に貢献しました。しかし、グループウェアで人間関係が良くなることはありませんでした。確かなことは、メールは使い方を誤ると人間不信に陥る危険性があることです。メールは自己中心的で、相手を思う配慮に欠けるツールです。グループウエアは便利ですが、そこに依存してはいけないのです。
「イン・ザ・プール(奥田英朗著)」という小説に「フレンズ」という短編があります。ここには携帯中毒の子どもが登場します。子どもは携帯を取りあげられると、手が震えます。わたしは現代社会を投影したシュールな作品だと思いました。今の子どもは幼い頃から、コンピュータと接点があります。子どもからコンピュータを取り上げると、多大なストレスを与えるでしょう。しかしコンピュータに頼った生活は人間的でない危うさがあります。
もちろんコンピュータ無くして現代生活は成り立ちません。しかし、そのことで人間らしい生き方が阻害されるのは良くありません。特に子どもは、文明の利器だけでなく、自然と触れ合うことが必要です。ベストセラー「小3までに育てたい算数脳(高濱正伸(著)」には「9歳までの外遊び経験が、人生を切り開いていく力を育む」と指摘します。自然は五感(視・聴・嗅・味・触)を感じる要素が備わっています。五感を研ぎすませることが、考える力、生きる力の源泉になります。「シカクいアタマをマルくする」という大手塾のキャッチコピーがあります。それは自然体験で成り立つと思います。
しかし都会で暮らす子どもに自然体験をさせるのはなかなか困難です。その為、親は計画的に子どもを自然に置くことが必要だと思います。子どもに自然体験を教える機関は様々あります。調べてみるのもいいでしょう。前述した「小3までに育てたい算数脳」の著者が運営する学習塾「花まる学習会」は、海釣りや雪遊びといった野外体験をカリキュラムに組んでいるようです。
わたしは子どもの頃、ボーイスカウトに入団していました(小学校5年まではカブスカウト)。毎週、メンバーが集まり野外ゲームやキャンプをします。この活動の魅力は異年齢の人たちと交流が出来ることです。もちろん楽しいことばかりではありません。むしろ、自然相手の辛い経験が多かったと思います。沢登りで足を滑らせ、全身水浸しになったときは、恐怖さえ感じました。しかしそうしたことを含めて、自然を体感する場面が必要だと思います。
「海、海、海。どこまでもつづく広い海。やさしくそしてあらあらしい海。ぼくはおまえが好きだ。ほんとうに好きだ。ぼくはもっとおまえの中へはいっていこう!(船乗りクプクプの冒険/北杜夫)」
小3までに育てたい算数脳
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