2005.2.7
ランち新聞 Vol.15

感動ドキュメンタリー

迷い猫を救った人情リレー

 迷い猫がやってきたのは、冬の到来と同時であった。人が近づくとミャーミャーと鳴く愛らしい仔猫だった。この人なつっこい仔猫はどこかで大切に飼われている幸せな猫だと、最初は皆が思っていた。しかし何日たっても、仔猫は孤独で食べ物を求めてさまよい歩いていた。この仔猫は捨て猫だったのである。
 いつの頃からか、仔猫はミャー子と呼ばれるようになった。ミャー子の生活は凄惨を極めた。時はまさに厳寒の季節。暖かさが恋しかったのであろう、少しでも開いた扉があるとそこから家の中へ入ろうとする様があわれで、人々の涙を誘った。おまけに、ここは新興の住宅地で、ローン地獄に苦しむ極貧の者しか住んでいない上、住民がやたらに清潔好きなため、ランちの町では一片の食べ物も見つけられないのであった。
 さらにこの近辺には、その悪魔のような獰猛さと残忍さで知らぬ者が居ないという白犬が徘徊していた。この恐ろしい白犬は、猫という猫に対して、吼えかかり、威嚇し、挑みかかることを執拗に繰り返した。この地にミャー子が安住できる場所はなかった。
 このような厳しい環境の中でも、ミャー子はけなげに生きぬいた。そして、白犬の棲家の軒下まで勇気をふりしぼってやってきた。ここには暖かな陽だまりと、わがままな白犬が食い残した乾燥ドッグフードが打ち捨ててあったからである。
 しかし、白犬がこの仔猫の行動を許すはずがなかった。自分の食い残しを食べてしまうという挙にでた。白犬は獰猛なだけでなく、性格も悪かったのである。
 かわいそうなミャー子と、悪鬼のような白犬のバトルが始まった。白犬の棲家の濡れ縁の下がその主要な戦場となった。互いがここは自分の領土であると主張した。仔猫にとって後に引くことは死を意味した。ために力をふりしぼって戦った。そして消耗戦となった。

 戦いは突然終止符を打った。仔猫のあわれな境遇を聞きつけて、pittuさんが里親を見つけてくれたのである。ミャー子は搬送のため、無事保護されて、ケージに入れられた。ミャー子が初めてランちの町に姿を現してから1ヶ月半がすぎた、2月のことであった。
 里親のFさんとの待ち合わせのため、いったんミャー子は、白犬の棲家の中にケージごと持ち込まれた。白犬は、間近から聞こえてくるミャー子の泣き声に再びたけり狂った。しかし、いつものように家の外に猫がいると信じて疑わない白犬は、しきりに戸外に向かって、むなしく吼え続けた。発想の転換のできない、みじめな姿であった。
 生まれて初めて自動車に乗せられて、里親の住むM市へ向かう途中、ミャー子はどんな夢を見たのだろう。
 Fさんは優しい人だった。ミャー子はあっという間に慣れて、今ではすっかり甘えているという。愛情のリレーが見事に実を結んだのである。

 悪魔の使いの白犬は、今は体のあちこちをなめなめして、怒りを鎮めている。ランちの町は再び以前のような平穏を取り戻したのであった。








手前のケージの中にミャー子、奥で目を光らせている白犬

平和なランちの町に、一匹の仔猫が迷い込んできたのは昨年12月のことであった。仔猫は、いつも腹を減らしてミャーミャー鳴いていたので、人々はミャー子と呼んだ。ミャー子の命は酷寒の冬空の下で今にも絶えようとしていた。
これは、ひとつの小さな命が、人々の愛と勇気によって救われた感動の物語である。

ゴミ捨て場はいつもきれいさっぱり。食べられるものは何もない
怪しい奴はいないか!?
シッポがポカポカ気持ちいい