読書遍歴
(1986~1989)
社会派推理
 大学生活に入ると勉学に対する向上心は消え、わたしは毎日のように雀荘に通い、週末はウインドサーフィンを楽しむ刹那的な日々を過ごしました。浪人中、必死に覚えた公式も単語も瞬く間に忘れ、自分が低脳になっていくのを感じました。当時の大学生は就職の不安など感じることもありませんでした。映画「私をスキーに連れてって」が公開され、ナンパであることがかっこよかった時代でした。

 そうすると不思議なことに赤川次郎に嫌気が指しました。ただでさえ低脳な頭が、赤川次郎の本を読むことでますます腐っていくように思えました。本能的なバランス感覚が警報を発したのかもしれません。もっと中身のある作品を希求しました。

 しかし高校時代に好んで読んだ純文学に回帰したいとは思いませんでした。わたしは難解な文章よりも、分かり易く明確なメッセージを持った作品を読みたいと思いました。

 「赤川次郎と同じ推理小説の分野で、いい本は無いかなぁ〜」と探していたところ、書棚に眠っている「黄色い風土」(松本清張著)を発見しました。親が昔読んだ本です。それまで松本清張の作品を読んだことはありませんでしたが、この作家が社会派推理の第一人者であるという知識は持っていました。わたしは好奇心から手にとりました。

 「黄色い風土」はとても分厚い作品ですが、引き込まれずにはいられない面白さでした。前半部分で描かれる「沈丁花の女」という存在に魅力を感じました。またラストで描かれる自営隊演習地での着弾地点の状況は、息を呑む光景がイメージされました。これだけスケールの大きな作品を読んでしまうと、赤川作品が子どもの読み物に思えてきました。以降、松本清張や森村誠一を中心とした社会派推理にわたしは取り付かれました。


黄色い風土
/松本清張

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