読書遍歴
(1980~1983)
第三の新人
 わたしが高校に入学した1980年、田中康夫 の「なんとなくクリスタル」がとても売れました。その少し前に、村上春樹が「風の歌を聴け」でデビューしました。これらの本は、知的でカッコいいイメージがありました。友達の関心も高く、本で紹介されたブランドに羨望し、本で紹介された音楽を聴いていました。

 一方、わたしはこうした現象に生理的な反発を感じました。一連の作品に対しては、「単なる状況が書かれているだけで、ストーリーなんてないじゃないか!!」と、その良さが理解出来ませんでした。

 わたしは当時の文芸トレンドと離れ、30年前に書かれた「第三の新人」を中心とした純文学に関心を寄せました。「第三の新人」とは1950年代半ばに登場した新人文芸作家の俗称です。遠藤周作のほか、芥川賞受賞作家である、安岡章太郎庄野潤三吉行淳之介などが有名です。

 安岡章太郎の「海辺の光景」は、精神病の母を看取る子の話しですが、子どもの微妙な心象描写が見事だと思いました。物語自体は静止画の如く変化に乏しいのですが、わたしはこうした難解に思える作品を読破することに、ある種の快感を覚えていました。庄野潤三の「明夫と良二」は平凡な家族小説でユーモアがあります。庄野作品のほのぼのした雰囲気はスローライフを先取りした感があります。

 また「第三の新人」ではありませんが、安部公房の「砂の女」も印象深い作品でした。砂丘の穴に住む女とそこに落ちた男の物語ですが、意味不明ながらも、なぞなぞを提示されているような面白さがあります。逃げようにも逃げられない、女の蟻地獄にはまった男は夢の世界にいるようです。

 大人になった今から思えば、高校時代のわたしは背伸びの読書をしていたように思えます。

プールサイド小景・静物
/庄野潤三

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