読書遍歴
(1977~1979)
マンボウ
 1977年(小5時代)、巷では「八つ墓村」(横溝正史著)が流行しました。「たたりじゃ〜っ」とクラスの皆が叫んでいました。わたしはブームに乗って横溝正史の本でも読もうと、書店に足を運びましたが、どうも買う気になれませんでした。角川文庫のおどろおどろしい表紙絵が怖かったのです。「もっと穏やかな表紙の本はないかなぁ〜」と、わたしは店内をうろつきました。そして目に飛び込んだのが「船乗りクプクプの冒険」です。なんだかワクワクしそうなタイトルと、可愛らしい表紙に目を惹かれました。わたしは中身を確かめず衝動買いしました。それが初めて読んだ北杜夫の作品です。

 物語に出てくるいい加減なキタ・モリオにはまりました。そして「海、海、海。どこまでもつづく広い海。やさしくそしてあらあらしい海。ぼくはおまえが好きだ。ほんとうに好きだ。ぼくはもっとおまえの中へはいっていこう!」というラストの文言に感動し、何度も読み返しました。

 それから北杜夫の小説を次々と読みました。ヒマラヤ遠征に作者が医者として同行した状況を描いた小説「白きたおやかな峰」は、中2のとき読みました。当時のわたしには敷居の高い文芸作品でしたが、読み終えた後の清々しい感動は今でも忘れません。2009年5月時点、この本は廃刊になっていますが、是非復刊して欲しい名作です。

 また「どくとるマンボウシリーズ」に代表されるエッセーも楽しく読みました。そして北杜夫のエッセーのなかでしばしば取り上げられる遠藤周作に興味を持ちました。「狐狸庵VSマンボウ」は両者の面白対談集ですが、読んでみると狐狸庵(遠藤周作)が北杜夫をやり込めている感がありました。わたしは「遠藤周作を読めば自分もワンステップ上がるのではないか!?」と妄想しました。

 しかし、読みやすい北作品に比べ遠藤周作の本は難解でした。キリスト教を描いた代表作である「沈黙」は当然ですが、「狐狸庵閑話」のようなお気楽エッセイも中学生が読むには少々大人ぽく(笑)楽しい文章とは思いませんでした。しかし中1のとき、学校の図書室で「ただいま浪人」を手にとったとき、わたしは時間を忘れました。東大受験に失敗し続ける浪人生、信也の自立を描く長編作ですが、ものすごく感動しました。また中3の夏休みに課題図書として読んだ「海と毒薬」は、その読書感想文が学校で取りあげられ、わたしの数少ない自慢となりました。

船乗りクプクプの冒険
/北杜夫

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