2006.7.23
ランち新聞  Vol.25

7.18ランち出産劇
  ランち新聞社特派員報告

その日は突然やってきた。
3連休の最後の日の7月17日朝、なにげなくランちランちの検温をしたランちママは驚いた。体温計は37.4度を示していた。ランちの平熱より約1度低い。大幅な体温低下は出産の兆候である。37度台になったら12〜24時間で生まれる・・・かかりつけの医者の言葉が頭をよぎる。スタッフの間に緊張が走る。タオルは、ハサミは、タコ糸は(ヘソの緒をしばる)、使い捨ておしぼりは、ハカリは・・・・Xデーがとうとうやってきたのだ。
緊迫する情勢の中、大泉首相を首班とする内閣は戒厳令の布告を決意した。夜間の外出は禁止され、首都圏に入るあらゆる道路・鉄道と空港が閉鎖された。すべての放送局は通常放送を打ち切り、この日のために密かに用意されていたわんことヒトの共生を願う特別番組に切り替えられた。
無知は不安を増幅する
古代の金言を引き合いに出すまでもなく、ランち家の人々は無知と不安の真っ只中にいた。ランちママはランちの実家と頻繁に連絡をとり、その指示を仰ぐ。
そしてその不安は現実のものとなる。半日すぎた17日夜の9時50分頃、ランちが何かを生み出す。ランちは興奮して羊水袋と胎盤を食べる、そして仔犬のようなものを狂ったように舐めまわす。でも「それ」は動かない。色もまったく血色がなく全体に黒ずんでいる。死産だ。
原因はわからない。あと数頭いる同胎仔はどうなる。周囲が心配して見つめる中、30分、60分・・・ランちに一向に次の陣痛が来ない。不安におののく人々を横目に、ランちはのんびり涼しい顔をしている。あろうことか手足をなめながらボブ・デュランを口ずさんでいる。唄う歌は「風に吹かれて〜豆腐屋ジョニー」。のんきなわんこだ。バカ犬の面目躍如だ。
ついに誕生
日付も変わった深夜零時過ぎ、ランち家の事実上の家長であるランちママは、動物病院での受診を決断した。横浜夜間動物病院に電話して診察の手配をする。病院へ急行する途上、深夜の道路は日中の喧騒がウソのように静かだった。前も後ろも通り行く車はない。トランクのへこんだ97年式三菱ギャラン(リコール歴2回)が、夜のしじまを破って疾走する。ハンドルを握るランちパパはのんびりと「中央フリーウェイ」を口ずさんでいる。こいつもアホか。
ランちが担ぎ込まれた横浜夜間動物病院では早速エコーで胎児の状態の確認に入った。心臓がちゃんと動いている。腹の中の仔はちゃんと生きている。よかった、ほっとした。ただし心拍数が180にまで落ちている。完全に出産準備に入っており、このまま胎児を長く胎内に留めておくのは危険とのこと。医師からは帝王切開した方が確実、という説明があった。
しかしここでランちママは決然と自然分娩を主張した。事実上の家長であるランちママに逆らう者はだれもいない。陣痛促進剤を注射してもらい、ランちとランちパパ・ママは診察室の一隅で『その時』を待つ。
果たして深夜0時50分ランちの呼吸が少し大きく、そして小刻みになったと思ったら、青みを帯びた半透明のぶよぶよ袋を静かに産み落とした。もそもそ動いているぞ。さっそく医師がかけつけ処置を施してくれる。ここは動物病院、安心だ。
長い一日の終わり
最初に生まれたのはオス。ミューミュー鳴いている。元気だ。レントゲン映像によると胎児は最初少なくとも4頭いた。とすると4頭から1頭引くと、ええと、ええと・・・・まだあと3頭残っている。たよりにならないランちパパは一桁の引き算をするのがやっとだ。
それにしてもランちは陣痛が起こる間隔が長い。表情はずっと穏やかなのだが。顔を近づけるとペロペロ舐める。いつと同じだ。あまりかまうと犬はいきみませんよ、と医師から注意を受けた。タイミングを見て陣痛促進剤が次々と打たれる。ランちが最後の仔をひねり出したのは朝の3時45分。最初の陣痛から実に6時間が過ぎていた。オス2頭、メス2頭の計4頭。いずれも元気だ。打たれた促進剤は4本。注射1本あたり仔犬1頭か、なるほど・・・・(?)。役立たずのランちパパの脳みそでは単純なことしか考えられない。最後にもう一度レントゲンを受けて胎内に胎児が残っていないことを確かめて、すべての作業は終了。ランちは疲れた様子もほとんどなく、普段とあまり変わりがない。たいしたやっちゃ。
診察料は夜間特別料金を含め76000円かかりました。親類縁者知人友人の間を頭を下げてまわって掻き集めた資金でも足らず、ビザカードで精算。このくらいの出費は痛くも痒くもないよ、玉のような赤ちゃんわんこを見ていれば。この仔たちのためにまた稼ぐさ・・・ランちパパは、しらみはじめた東の空を眺めながら、ぼうっとするアタマの中で新たな勤労意欲に燃えたのでありました。
17日朝、体温が下がったランち
17日午後9時。最初の陣痛まであとわずか
18日生まれたばかりの仔犬たち。
ランちが体をなめまわしたので随分きれいになりました。
腹の下に仔犬を隠して警戒するランち。
ランちパパにもなかなか仔犬を見せてくれません。
【補足情報】
横浜夜間動物病院はかかりつけの病院が診察をしていない夜間の時間帯をカバーする動物病院です。この日はランちのほかに猫が何頭か診察に来ていました。
最初76000円の請求書を示された時は少しびっくりしたのですが、内容は、助産費1時間あたり5000円、胎児取り出し1頭あたり3000円、レントゲン費、エコー費、薬代などそれぞれ明記されていて一つ一つの金額は納得のできるもので、保険に入っているわけでもないし、全体としてこんなもんだろうと思いました。医師のほか数名の看護士の方がいて(全部で5名くらい)、仔犬が生まれるたびに全員の方がてきぱき連携して措置をしてくれました。
夜間専門のリリーフ病院なので、ここで診察を受けた翌日にかかりつけの病院を訪れ次の治療に引き継ぐように、とのことでした。