ここは死神れすとらん。

天上界と地上界の狭間にある、

要は裁判所みたいなところです。

迷い込んだら二度とは戻れません。

でも大丈夫。

ステキなメニューと

可愛いウェイトレスが待ってますから。



最期の晩餐次第で、

貴方の行き先が決まります。

天国か、それとも地獄か・・・








さぁ、お客さん

何をお望み―――?





















死神れすとらん













いつもと変わらない景色。

いつもと変わらない自分。

いつもと変わらない平日。

いつもと変わらない学校。

全てがいつも同じように繰り返される。

それが日常。

オレはその日常に少し飽きてはいたが、

平和で安定したこの生活が好きだった。

そう、あの事件が起きるまで―――
























































あの日、オレはやはりいつものように歩いていた。

授業が終わり、学校から自宅までの十分間の道。

昔から何一つ変わらない。



耳の遠いおばあちゃんが独りで店番をやっている駄菓子屋。

気前のいいおっちゃんがやってる魚屋。

今時珍しい下町の様子だ。

魚屋を通り抜けると小さな公園。

ちょうど今の時期はきんもくせいが咲いていて、

公園全体を甘い匂いで覆っていた。

オレはこの匂いが大好きで、立ち止まって花の香りをかいでいた。




今思えばそこだけがいつもと違っていたんだ。

いつもならその公園は幼稚園児たちがギャァギャア騒いでいるのに、

あの日は誰もいなかったんだ。

静かな公園は気味が悪かった。

あちこち錆付いた遊具も、

ただの背景としか見れなかった。











黄色く色あせたベンチだけがイヤに目に付いて、

そこに座っていた美少女が鮮明に思い出される。

秋だというのにノースリーブの白のワンピースを着て、

天使のような声を初秋の風に揺らせて、

歌を歌っていたんだ。




何の歌かはわからないけど、

確かに口ずさんでいた。

オレはその少女に目を奪われ、

近づいて声をかけてしまったんだ。

それが己の身を滅ぼすとも知らずに。







































「寒くないの?」

十月の風はノースリーブの彼女には寒そうだ。

「君は何を歌っているんだい?」

無意識のうちに言葉がどんどん出てくる。

もっと彼女のことが知りたい。




彼女は答えない。

無表情のまま歌を歌い続けていた。

聞いたことがあるようなないような。

遠い記憶の底に残っているような感じがして、

目を閉じて暫く考えた。

でも結局分からなくて、彼女の方に視線を落とす。

(美人だな・・・)

まだ自分と同じ十七、八歳だろうか?






少女と呼んではいけないような歳だけど、

まるで悪戯好きな少女のように無邪気な印象を受けた。

雪のように白い肌と赤茶色の肩までの緩いウェーブの髪。

声も天使のようなら姿も天使のようだ。




ただその天使は堕天使だったんだ。

禁忌を犯して天界から堕ちてきた、

悪魔のような少女。









もっと早くに気づいとけばよかった。




















彼女の瞳はどこか遠くを見ていて、生気を失っている。

真紅のバラのような唇は端が少し上がっている。

(笑っている・・・?)

正気を失っているようなのに歌を歌いながら笑っている。

そんな不思議な少女に出逢ったんだ。






ボーッとそんなことを考えていたら、

ふいに彼女は歌を止めた。

大きな澄んだ瞳には生気が戻っていて、

真紅の唇でこう囁いた。

甘い甘いハチミツのような声で、

「あたしと一緒に来ない?」







この言葉が始まりだった。

破滅へと運ぶ甘い誘惑。

オレは彼女が誘うまま、

きんもくせいの香りが舞う中、

もう戻れないと知っておきながら、

あの白い小さな手をとり、

地獄へと堕ちていった。






彼女に操られるまま、

歩きだす。

視界には何も見えていなかったし、

聞こえてはいなかった。




トラックのブレーキの音も、

買い物袋をさげたおばさんの悲鳴も、

オレンジの小さなきんもくせいの花も、

真っ青な空にひとつだけ浮かんでいるあの雲も、

自分の身体からとめどなく出てくる紅い鮮血も、








何もかもおもちゃのように見えた。