学校へ行こう!!体育祭編
『神様の微熱』



4.初恋クレイジー





















第一印象は、正直あまりよくなかった。
彼女は転校生で、どこか冷たくて人を寄せ付けなかった。

いつからだろう。
彼女を目で追っていたのは。
どうしてだろう。
彼女の視線の先に気づいてしまったのは。

ずっと見つめていたからかもしれない。
もしかしたらこれが初恋っていうものなのかもしれない。



そしてもうすぐそれが終わるということも、今の僕には何故か分かってしまった。












『灰原さんのこと、ずっと好きでした』





誰もいない校舎で光彦の声だけが響いた。
静かな廊下には向かい合った二人しかいない。

「・・・・・・ってことはもう過去形なの?」





やっと出た言葉がこれだった。
頭の中は混乱していたが、かろうじて冷静な声は出せた。





気づかなかった。
『中学生』に馴染み過ぎちゃって、勘が鈍ったのかもしれない。
こんなところで彼に「好きだ」なんて言われるとは思っていなかった。





「・・・・・・どうしてそんなに穏やかな顔でいられるの?」

































もうずっと前から分かっていたことだったのに。

あの日から。
彼女に初めて出逢ったときから

僕は彼女に恋をしたんだ。
実らないってことがすぐに分かっても、ただ彼女を見つめていたんだ。












「去年の文化祭で小田さんに言ってたことが真実ですね」
「聞いてたのね」
「すみません、聞こえたんです」



















「ありがとう」

こんなあたしでも、好きになってくれてありがとう。
ずっとあたしのこと見ててくれてありがとう。



そして、気持ちに応えられなくてごめんなさい。

































こうして、僕の初恋らしきものは終わった。










何でこんなときにこんな場所で彼女にこんなこと言ったのか、自分でもよく分からない。
でも今日、今ここで、彼女に言えてよかったと思える。

そんな気がした体育祭の日。











































グランドに戻っていくと、ちょうど小田さんが選抜の障害物競走で一着でゴールしていた。
一着の旗を持って喜んでいる。

「おめでとう」
「ありがとう・・・・・・灰原さんこそ、さっきのリレーでも徒競走でも一位だったわね」
「たまたまよ」
「またまたそんな謙遜なこと・・・・・でも江戸川君は諦めないわよ?」
「うん・・・・分かっているわ」






















「どこ行ってたんだよ」
「デートよ」
「はあっ?」





「はいはい、こっち向いて」
彼女に問いただそうと思ったら、ふいに歩美にビデオカメラを向けられた。
「放送部のお手伝いよ」
一年生のときに放送部に所属していた歩美は、慣れた手つきでカメラを回している。

「何でオレを撮るんだよ」
「騎馬戦前のコナン君の様子を撮っておこうと思って」
カメラのレンズがきらりと光る。
「優勝候補のウルトラマンチームをどう攻略するんですか?」
「・・・・・そんなの撮って面白いわけ?」
「あとでいろいろと役に立つんだよ?」
「何にだよ」










「プログラム十九番、三年生男子選抜による騎馬戦に出場する選手は入場門前に集合して下さい」
本部からのアナウンスに、周りに緊張が走る。

「じゃぁ、頑張ってね!コナン君。ビデオは任せておいて!!」
「お、おう」



灰原の方に振り向くと、彼女は下を向いたまま
「松田君落としたら承知しないから」

「松田の心配かよ」











騎馬戦は五つのチームがごちゃまぜで行われる。
なので、違うチーム同士が同盟を組んで一つのチームに集中攻撃を仕掛けたりも出来る。
我が仮面ヤイバーチームは後者の方で、アトムチームとラムちゃんチームから集中攻撃を受けている。

「汚ねーぞ、おまえら!!」
「うるせー!これも戦略だ」
そんな言葉が飛び交う中、ルパン三世チームは優勝候補・ウルトラマンチームの手により早くも全滅していた。

「おまえら何やってんだよ」
手が空いたウルトラマンチームがこちらにやってきて、アトムチームとラムちゃんチームをどんどん潰していく。
「おまえらとの一騎打ちをやるにはこいつらが邪魔なもんでね」
ウルトラマンチームの大将が不適に笑った。



そんなこんなで、残りの騎馬は仮面ヤイバー五騎、ウルトラマン六騎、アトム三騎となった。
「これはこれは面白くなってきましたー!」
アナウンサーの声が耳障りに聞こえる。





センター馬は小嶋君。レフト馬は江戸川君。ライト馬は藍沢君。そして上に乗るのは松田君。
うちのチームの大将でもある松田君は、ヤイバーの仮面をかぶっている。
何度も崩れそうになり危なげながらも、何とかここまで残ってきた。
目指すは騎馬戦優勝。

校舎に掲げてある得点表を見るとヤイバーチームは今二位。
逆転だって夢じゃない。














かなりの接線だった。
ウルトラマンチームはチーム内でまとまっていてそつがない。
負けじとヤイバーチームも堪えている。





大将の馬が崩れそうになって、思わず声が出た。
「頑張ってっ・・・・・・・・」



それに応えるかのように持ちこたえ、
そのままの勢いでウルトラマンチームの大将馬に突進していく。

















視界の先に見えたのは、風に舞うウルトラマンの仮面だった。



























ドドンと太い太鼓の音。競技終了のサインである。
残っている騎馬の数を教師が数えていく。
数えなくても結果は一目瞭然で、すぐに分かった。





「三年生選抜による騎馬戦は仮面ヤイバーの優勝ですっ!」
アナウンサーの声が遠く感じた。



「哀ちゃん・・・・勝っちゃったよ」
まるで勝ってはいけないみたいに聞こえる歩美の声。
「う、うん」

興奮のせいか、頬が熱く紅潮しているのが自分でもよく分かる。





もう秋だというのに、太陽の光は鈍ることを知らない。
眩しさに、思わず目を閉じた。

「・・・・・熱が出たのかも」





















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