学校へ行こう!!体育祭編
『神様の微熱』



5.神様の気まぐれ





















体育祭はいよいよ終盤。
プログラムも残すところ、棒倒しと組体操の二つだけとなった。








棒倒しも騎馬戦と同様、五つのチームがごちゃまぜに行われる。
太鼓の音と共に、一斉に上半身裸の野郎共が皆走り出す。



「コナン君・・・・・早い」
「・・・・・うん」
誰よりも早く、アトムチームの棒に向かっていく。



「さっきの仕返しだー!」
―騎馬戦の恨みは相当なものらしい。

身軽な彼はどんどんアトムチームの棒をよじ登っていく。
背を反らしぐんぐん自分の方に引っ張っていく。
あまりの速さにアトムチームは自分達の棒が倒れていくのを、ただ見つめるしかなかった。

その隣では同じように元太がラムちゃんチームに突進していく。
大柄な彼にびびっている間に、松田と藍沢が二人掛かりで棒を倒していく。

ルパン三世チームの棒は騎馬戦と同様、ウルトラマンチームによって既に倒されていた。





「うちのチーム、なかなか強いじゃない」
小田さんの言葉に頷く。
どうやらさっきの騎馬戦で勢いをつけたらしい。





立っている棒は後二本。
お互い見据えあったまま、一歩も動かない。

どれくらい待っただろうか。
ふいに元太の声を合図にヤイバーチームが攻撃を仕掛ける。










砂埃が目に沁みて、思わず目を閉じた。
次に目を開けたときには、水色の棒は倒れていた。

―黄緑色の棒は西日を浴びて見事に立っていた。













チームカラーの黄緑色に染まった誰かのハチマキが、風によって舞っていた。





































「さぁ、第二十七回体育祭も最後の競技となりました。。三年生による組体操です」





組体操は三部に分かれている。
第一部は女子だけで第二部は男子だけ、三部は全員でやることになっている。

緊張しすぎて胃に穴があきそうだ。
おかげで第一部の女子の演技はロクに見られなかった。
正直に言うと、練習では一回も成功していない。





朝礼台のところには太鼓と共に藍沢の姿。
彼が叩く太鼓の音で進められるのだ。

倒立・サボテン・扇・塔などを難なくこなし、
最後の大トリはもちろん人櫓。



太鼓が叩かれる度に、一段一段と高くなっていく。

積み上げられた人櫓にゆっくり足をかけ、登っていく。
これで当分高いところに登りたくはない。



登り終えて後は立つだけというところで、足が竦んだ。

『・・・・最後だもん、これが』
哀の言葉を思い出す。



「これに立つのも最後だもんな」
笑ってゆっくりと立ち上がる。
































立ち上がった瞬間、世界が違って見えた。
それは高さだけの違いじゃない。
もっと違う、精神的なもの。

「練習じゃ一回も立てなかったのにな」
自分の悪運の強さに苦笑して、着地を決めた。










「ありがとな、支えてくれて」
すぐ下で支えてくれた松田に感謝を述べると、
「さっきの騎馬戦の借りは返したからな」
「ん?」

「落とさないでくれてサンキュ」



初めて彼の口からそんな言葉を聞いて、驚いて笑ったら思いっきり殴られた。





























競技はこれで全て終了した。
閉会式のために、開会式のように一列に整列する。

皆結果を気にしていてそわそわしていたが、
校長先生の講評で「ありがとう、楽しかった。またこれで寿命が長引いたわ」
という言葉には誰もが唖然とした。





「結果発表です」
あのアナウンサーだけが結果を知っているかと思うと、何とも憎らしい。

「総合優勝は・・・・・」
アナウンサーが大きく息を吸うのを見て、周りの皆も大きく息を吸う。


















































「仮面ヤイバーチーム!!」

―その瞬間、辺り一面大きな歓声に包まれた。




抱き合って喜びをかみしめている吉田さんと小田さん。
お互い水を掛け合ってはしゃぎまくっている藍沢君と松田君。
優勝旗を渡されて男泣きする応援団長・小嶋君。
後輩から「お疲れ様」と花束を渡される円谷君。
そして胴上げされる江戸川君。

それぞれが、皆一番輝いている瞬間だった。
改めて、このメンバーで中学最後の年を過ごせることを嬉しく思った。
あたしは不覚にも泣きそうになり、少し離れて校舎に手をついて堪えていた。









混乱の中、人の間を潜り抜けて光彦が近づいてきた。
「灰原さん」
「・・・・・何?」
「僕、体育祭実行委員をやってよかったです」
彼の顔は、今まで見たこともないくらい輝いて見えた。
「・・・・・あたしも生徒会長やってよかったと、誇れるわ」

きっと、これからも、ずっとね。














「お疲れ様」
さんざん胴上げされて、へばって座り込んでいる彼の頭に真っ白なタオルをかけてあげる。
「松田を落とさなかったし、棒も倒されなかった。人櫓の上に立てたし最後のリレーだって・・・・・」
「うん。毎日ずっと残って練習していたものね」
彼の言葉を遮って応える。
「・・・っ!!知ってたのか?」
「まぁね」



彼が放課後毎日残って応援団の練習の他に、騎馬戦や組体操の練習をしていたことは知っていた。

ずっと見ていたから。
ずっと応援していたから。
















「知ってるか?神様っているんだぜ」
「・・・・・・貴方は信じるの?」

「神様が熱出したから、オレら優勝出来たんだよ」
「さしずめ、神様の気まぐれってやつね」





こういうのを奇跡っていうのかもしれない。
そんな気がした、中学最後の体育祭の日。












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