学校へ行こう!!体育祭編
『神様の微熱』



3.中学生じゃいられない





















ポン、ポポン。
文化祭の時と同様、小さな花火が上がって体育祭の始まりを告げる。





「まさに体育祭日和ね」
天気は快晴で、湿度もちょうどよい。
「昨日てるてる坊主作っておいたから」
隣の歩美が自慢げに笑った。

























「これから、第二十七回・帝丹中学体育祭を開催致します」
体育祭は、生徒会長である哀の開会の言葉で始まった。
このあとは実行委員長の光彦の挨拶になっているのだが・・・・



「初夏の候、皆様にはますますご清栄のこととお喜び申し上げます・・・・・・・・」



ガクッ。

たかだか実行委員長の挨拶でこれはないだろう。
これじゃぁ、まるで学校長挨拶だ。
台詞を取られた校長は、そんなのおかまいなしで「面白い」とか笑っていたけど。



選手宣誓はそれぞれのチームの応援団長がやることになっている。
左から仮面ヤイバー、ウルトラマン、ラムちゃん、アトム、ルパン三世。
それぞれのキャラのお面をかぶった五人が朝礼台に並んでいる姿は、滑稽としか言いようがない。
もちろんその中には、我が仮面ヤイバーチーム団長の元太もいるのだが。










プログラム一番である全体体操―つまりラジオ体操なのだが―
委員長の光彦はともかく、何故かオレまでもが朝礼台に立って模範体操をやる羽目に。
「何でオレまでもが・・・・・」
「すみません、担当だった二年生の子が休みなもので」
「ま、いいけどな」

いっちにーさんしーと、少し照れながら腕を大きく回す。
仮面ヤイバーチームのカラーである黄緑のハチマキが揺れた。

朝礼台に立って模範体操なんて、きっと最初で最後だと思う。
こうやって見ると、皆意外にも真面目にやってるものだ。



いろんな人の表情がよく見える。
例の赤髪の彼女は「人がいいんだから」って感じで笑ってた。





















プログラム一番である全校体操が終わったあとは、
五十Mハードル走、百M走、一年生の綱引き・・・・と体育祭らしい競技。



可愛らしい一年生の綱引きを声を張り上げて応援した。

「そんな子供っぽいこと出来るかよ」
なんて言ってた彼だって、顔を真っ赤にして声を上げていた。





―結局彼もお子様なのね。
クールな面と時々見せる少年のような顔。

どちらも好きだけど、
どちらも見ていてつらい。



中学に入学した頃はもっと冷たい印象があった。
「そこがいい」なんて言う女の子達もいたけれど、
中学生らしい一面も見せ始めてから
「二面性があっていい」なんて言う女の子達が増えた。

最近の彼はすっかり『中学生』に馴染んでいる。





でも分かってる?
今年でもう卒業なのよ?



あたし達、もう中学生じゃいられない。



























ラムちゃんチームは応援団の女子全員がラムちゃんのコスプレをしていて、応援合戦は盛り上がっていたし
(というか学校側からよく許可が下りたな)
ルパン三世チームも劇仕立ての応援合戦を繰り広げていた。
応援合戦もそれぞれ工夫されていて、面白い。
そんな中、どんどん競技は進められていく。



「哀ちゃん、見ててくれた?」
「えぇ、もちろん」
徒競走を終え一着の旗を持って、歩美は無邪気に笑ってみせた。
「足に自信なかったから一着なんて嬉しいよ」
彼女の笑顔を見ていると、何だかこっちまで嬉しく思える。
「哀ちゃんもコナン君も、ついでに松田君も一着だったね」

―おまけの松田君がちょっと可哀想だった。





しかし、ムカデリレーはあれだけ特訓したのにも拘わらず、男女共ウルトラマンチームに優勝を持っていかれてしまった。

「惜しかったわね」
「うん、悔しいな・・・・」
目に少し涙を溜めている歩美の肩をそっと抱く。

ウルトラマンチームには運動神経抜群の人達が揃っていて、総合優勝候補なのだ。



「コナン君たちの騎馬戦で仇をとってもらおう」
「そうね」


































「グランドの近くにも作ってほしいものね」
隣には誰もいないのに、思わず独り言が漏れた。
お手洗いに行くには一度靴を履き替えて、校内に戻らなくてはいけないのだ。

今はちょうど二年生の女子の創作ダンスをやっているせいか、校内はガランとしている。
誰もいない我がクラスをこっそり覗いてみる。
自分が普段このクラスで授業を受けているかと思うと、何だか不思議な気持ちになった。



「ちゃんと脱いだものくらいたたみなさいよ」
隣の彼の席には脱ぎっぱなしの真っ白なYシャツが無造作に置いてある。
手にとってたたみかけると、ふわりと彼の香りが舞った。
たたむのを止めて、彼の残り香が香るシャツを抱きしめた。
何だか彼を抱きしめているような気がして、変な気持ちになる。
「ヘンタイだわ、あたし」





その帰り道、廊下で光彦に会った。
窓の向こうのグランドからは大声援が聞こえるが、
こうやって少し離れた場所にいると自分が第三者のように見える。
自分は今ここにいるのに、体育祭は何事もないようにどんどん進められる。



「まるで遠くの出来事みたいね」
「僕達が準備し進めてきたものとは思えません」
「委員長がそんなこと言っていいの?」
クスリと笑ってみせると、
「実感がありません」
と彼は首をすくめた。





「灰原さんが校舎の中に入っていくのを見かけて追ってきたんです」
「・・・・何?」










「灰原さんのこと、ずっと好きでした」



窓の向こうのグランドを見つめながら、彼はただ静かにそう言った。




























そのころグランドでは競技も中盤に差し掛かり、ますます盛り上がっていた。

今年の総合優勝は仮面ヤイバーチーム(校長名付け親)が頂く!





















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