帝丹中学文化祭・2
―スニーカーブルースな人々―

5.あの子は髪を切ってヒロインになる





ポン、ポポン。
帝丹中学ではお馴染みの花火が上がり、文化祭の始まりを告げた。
校門には「第二十七回 帝丹祭」と描かれた大きな看板が。
これは後輩たちが放課後残って、熱心に作ってくれたのだろう。

三年生たちは今回はクラスの出し物の準備ぐらいしかしていない。
去年がそうであったように、後輩である二年生の生徒会中心で準備はこれまで進められていた。



新生徒会もいろいろあったみたいだが、何とかやっているみたいだ。
いつの間にここまで装飾したのだろうか。
校内は実に鮮やかに彩られていた。





「ちょっと早く来すぎちゃった」
腕時計はまだ七時を指している。
校内にはまだ生徒会の人間と、ほんの少しの生徒しかいない。

誰かさんと顔を合わせにくくて、こんなにも早く来てしまった。
去年は飲食店だったので皆で決めて割と早くに集まっていたが、
今年は映画上映なので、今日やることは特にない。
視聴覚室の案内を交代でするぐらいだけで、それぞれ自由に行動していいのだ。



「灰原先輩」
ふいに名前を呼ばれて振り返る。

「・・・・・・・小宮山さん」





「おはようございます。早いですね」
久しぶりに見た彼女は、髪が短くなっていた。
生徒会選挙のときは、背中まである黒髪をひとつに結っていたのに、
今の彼女は、自分より短い髪を無造作に下ろしていた。
それが実によく似合っていた。

「今年はアリスじゃなくて映画だそうですね」
「えぇ、よかったら観に来て。でも忙しいかしら?」
「時間を作ってでも絶対見に行きます」
頬にかかる黒髪を指先で弾きながら、かなえは少し笑ってみせた。










笑っていた顔が急に伏せられる。

「貴女はいつもヒロインだわ」
唇を噛み、俯いたまま、彼女は吐き出した。
今にも泣き出しそうな、諦めの混じった微笑い顔。



「・・・・そうかしら?貴女にも貴女だけの物語がきっとあると思う」
社交辞令ではなく、きっと女の子なら誰でもヒロインになれるはず。
そうなる要素を生まれながらに持ち合わせているのだ。





「・・・・・・失礼します」
かなえはくるりと背を向けて、ぱたぱたと音を立てて廊下を歩き出した。










「・・・・・・・あたしだってヒロインになりたかった」
誰もいなくなった、午前七時七分の廊下で哀は小さく呟いた。































やがて、一般生徒の登校時間になり、校内は緊張が見え隠れする中、一斉に活気付く。
その中でも一際緊張しているクラスがあった。
もちろん光彦率いる「スニーカーブルースな人々」上映クラスである。
映画は二階の視聴覚室で、一日四回上映される。





「お客さん来るかな」
歩美が心配そうな声を出す。
せっかく力入れて皆で作った映画なのだから、是非たくさんの人に観てほしい。

「いっぱい宣伝しましょう」
美術部の子が作ってくれたちらしを配りながら、文化祭を回ることになっているのだ。





コナンの方を見ると、彼は藍沢と話をしていた。
撮影終了以来、まともに話をしていない。











「よう」
午後、藍沢と二人で視聴覚室内での映画案内をしていたら
松葉杖姿の松田が、ひとみと共にやって来た。



「完成したのはオレまだ観てないし」
「江戸川君の名演技を観に来たのよ」
クラスの連中は、出来上がった直後に皆で上映会をやっているので観たが、
怪我のためずっと休んでいた松田はまだ観ていないらしい。

「だから後姿しか映ってないっての」
わざと言ってるようにしか聞こえないひとみに、苦笑してみせる。





「お客さんの入り、どう?」
「結構順調」
ひとみの問いに、藍沢がVサインを見せる。

「我ながらいい映画が撮れた」
「それは光彦の台詞だろうが」
こいつも真面目なんだか、不真面目なんだかよく分からない。



「口コミで広まっているみたいね」
ひとみの笑顔に頷いてみせる。

そうなのだ。
映画を観たお客さんによる噂で、なかなか良い評判が立っている。
映画上映なんて不利かと思われたが、そうでもない。



「あと五分で今日最後の上映始まるから」




































「やっぱりいい映画よね」
「昔のトレンディードラマか昼ドラみたいだけどな」
「それにしても灰原さんはやっぱりヒロインって感じ」
「光彦だって最初からそのつもりだったんじゃないの?」
ひとみと藍沢は観た後で(何回も観たくせに)、散々言いたいことを言っている。

最終の客入りも順調で、回を追う毎に増えていっているように思えた。





「松田」
楽しみだったはずの映画を観終わったのに、何故か浮かない顔の松田に声をかける。
「ん?」

「灰原と最後まで演じたかったんじゃねーの?」



すると松田は首をすくめて微笑った。
「・・・・・・灰原さんのあの台詞を、オレは直接聞けないから」

「・・・・・・・・?」
「お前にはその権利があるよ」





「じゃぁな」と小さく呟いて、来たときと同じように松葉杖をついて教室を後にする。



「何だよ、権利って」
































二日間の上映は実に順調であった。
噂によると全校生徒が観たとか。



今は後夜祭の真っ最中。
今年の後夜祭はモノマネ大会である。



何故か今年も怪盗キッドの真似をするヤツがいたり、
去年の仮装大会と、そう変わりはなかった。





「何でどいつもこいつも怪盗キッドが好きなんだ?」
一人愚痴ていると、視界の隅に紅い髪が映る。
先日から自分を避けている彼女。





「やっと捕まえた」
強く触れたら折れてしまいそうな彼女の白い腕を掴んで、こちらを向かせる。
「江戸川君・・・・・」



「文化祭のときって何でオレらいつも喧嘩してるわけ?」
今日だって、一緒に回りたかったのに。
「いつもって去年だけじゃない」
彼女は目を合わせない。



「何を怒ってるんだよ?」
「怒ってなんか・・・・・」





「何でオレのスニーカー持ってたんだよ?」
「拾ったのよ」
「何で届けなかったんだよ?」

ほら、また泣きそうな顔になる。
泣かせて困らせたいわけじゃないのに。





「・・・・・・・・持って、いたかったから」



「それどうい・・・・・・・」

コナンの声は途中で遮られた。
何故なら、とんでもない言葉が司会者の口から発せられたからである。



「さぁ、古畑コナ三郎の登場です!」

・・・・・
・・・・・
・・・・・

「はっ?!」



訳の分からないまま、ステージに連れて行かれて、ヅラをかぶせられる。
というか、何で去年のヅラが残ってるんだよ。




「じゃぁ、先輩!〆の言葉を」
後輩に押されて、うっかり外面だけの営業用スマイルが出てしまう。

「それでは皆さんまた来年!」



―来年はここに居ないっての。











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