「人を殺したら人間失格なのかしら?」
「時と場合によるんじゃねー?」
「あたしの血はちゃんと紅いのかしら?」
「緑でないことは確かだな」
あたしの下らないたくさんの問いに、彼はいつも応えてくれた。
阿笠邸の地下室で二人でよく話した、あの頃。
想い出は綺麗すぎて、それでいて儚い。
「だったらあたしは人間失格?」
「さぁな。オレが決めることじゃねーよ」
だったら誰が決めてくれるのだろう。
誰がこの戒めを解いてくれるのだろう。
「知らなかったんだから仕方ない」
そんな一言では片付けられない。
そんなことは解かっている。
彼がこんな言葉をかけてくれるなんて期待もしていない。
あたしは人殺しなのだから。
正義の味方である彼とは対極に位置する。
対極に位置しながらも、少しの間傍にいた。
お互い共有の秘密を持ち、周りの人を欺き続けた。
傍にいて、時々傷を抉ったり舐めあったりした。
続くわけない生活だったけど、あたしはちょっと救われていたんだ。
あの正義のヒーローに。
「コナン君が新一だったらよかったのに」
彼女が流した涙は、あたしを追い詰めるのに充分だった。
「彼女にしゃべったりしたらどうなるか・・・・・・解かっているわよね?」
関係ない人を巻き込みたくはない。
彼女は彼にとって大切な人だから。
彼女を失くしたら彼がどんなに哀しむか解かっているから。
秘密は秘密のままにして。
貴方は哀しまないで。
苦しまないで。
あの頃は本気でこんなことを祈っていた。
だから彼が「好きだ」とポツリと言った言葉も、聞こえないふりをしたの。
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