内緒だよ?
君を好きな事は。

誰にも気づかれないよう、
淡くそっと静かに
その時を待つのに、

君が嘘を付くから。






紅い果実に

蒼い






「そんな風に笑うんだ?」
「・・・・・?」
彼女は訳が解らないとでも言いたそうに、首を傾げた。



一緒にテレビを見ている。
彼女が何気なく笑ったのを、オレは見逃さなかった。

「最近はよく笑うようになったじゃん」
その原因が解っているからこそ、悔しい。
「そうかな?」
自分自身に問いを投げかけるように、またもや首を傾げる。

「嬉しいことでもあった?」
「・・・・別に」
オレの問いかけに遠い目をしたまま答える。





「工藤と付き合ってるんだろう?」
ゆっくりと問いただす。
「・・・・知ってるの?」
遠い目は焦点が合い、少し頬を赤らめて彼女は下を向く。

「ヤツが自慢してきた」
「新一が?」
「そう」
ホントはそんな自慢聞きたくない。
君が『新一』と呼ぶのも聞きたくない。



「・・・・貴方だって青子さんが居るじゃない」
テレを隠すように話題を変える君。
「あぁ・・・まぁ」
曖昧な返事。

そうか、彼女は知らないんだ。
青子は、いつまでも君を想っているオレに愛想を尽かして出ていったことを。





「リンゴ食べる?」
深紅のリンゴを目の前に突き出してきた。

「驚かすなよ」
包丁が刺さったままのリンゴと向かい合い、半分腰を抜かす。



「志保さん・・・・」
「何?」
名前を呼んだら返事をくれる君。
リンゴの皮をするすると剥きながら彼女は返事をする。

ほら。





「・・・・・・リンゴは剥いたら塩水につけておくといいよ」

だから気づかれないように、可笑しな事を言う。
だって君が好きだから。

「でもしょっぱくならない?あたしは嫌い」
手を休めることなく、彼女は言う。

リンゴの皮が床に落ちた。
紅い面がこちらに向いている。

「・・・・そうなんだ?」
可愛らしい。
少し吹き出したら、彼女に怒られた。





「だいだい貴方、何しにここに来たの?」
ここは工藤の家だ。
志保さんをほったらかしにして、この家の主は事件の捜査に行ってしまっている。

「工藤にほったらかしにされてる志保さんを慰めに来たんだ」
自分まで気持ちが沈まぬように、おちゃらけて言う。
「・・・・・バカねぇ」
言う事が冷たくても、構わない。

「別に淋しくなんかないわ」



嘘つき。
ホントは淋しくて淋しくて仕方ないくせに。
どうして君は嘘を付くんだい?
どうしてオレを頼ってくれないんだい?





「・・・っていうのは嘘で、工藤に話があって」
君が嘘を付くから、同じように嘘を付く。

内緒だよ。
君が好きな事は。
気づかれちゃダメなんだ。
君は親友の恋人だもの。





「新一に?」
「そう」
「どんな話?」
「気になる?」
「気になるわよ」
「教えない」
「何よ・・・・それ」

彼女が少し怒ってまたリンゴの方に向いてしまったから、
短いキャッチボールは終わった。

「・・・・・男同士の内緒の話だよ」
彼女に興味を持ってもらえるよう、わざとイヤな言い方をする。
「結局教えてくれないじゃない」
そう言いながら、剥いたリンゴを持ってきてくれた。

半透明なガラスの器に入ったリンゴ。
「リンゴ好き?」
あまりにもオレがずっとリンゴを眺めているからか、彼女は不思議そうに尋ねる。



少しはオレに興味持ってくれた?
リンゴをフォークで一突きし、口に運ぶ。





シャリ・・・

甘い蜜が口を凌駕する。
甘くて美味しい。

「好きだよ・・・禁断の果実だからね」
ひとかけら食べ終えて、さっきの質問に答える。

「禁断の果実・・・・?何それ?変な理由・・・・」

君は知らなくていいんだ。
むしろ知ってはいけない。

「結局好きなの?嫌いなの?」
のんびりしているオレに彼女はちょっとイライラ気味。





「嫌い」

彼女の瞳だけを見て言う。





禁断のモノなんて嫌いだ。

彼女の怯えた瞳。
黒目が揺れているのが解る。

愛しい。
このまま攫っていこうか?





「・・・・・・じゃぁ、みかんがよかった?」
彼女のとんちんかんな言葉が響く。
それでも瞳を離さない。

「そんなに見つめないでくれる?今みかん持ってきてあげるから」
頬を赤らめて慌てて立ち上げる彼女の腕を引く。



「嘘」

短く答え、そのまま抱きしめる。
「リンゴもみかんも好きだよ」

でも一番好きなのは君なんだ。





「・・・・・離して」
彼女の声は相変わらず冷たい。

「これも嘘?」
泣きそうな震えた声。

もう一度強く抱きしめる。



「嘘」

そうイツワリの感情。
出来るなら認めたくなんかない。

腕を離す。





パチン。
一瞬何が起こったか解らなかった。



三秒後、左頬に鈍い痛み。
目の前には目を真っ赤にした彼女の姿。

「バカっ・・・・・!!」





左頬はまだ痛い。