学校へ行こう!!

夏休み特別編・前編
〜学校の階段怪談〜











「ねぇ、知ってる?学校の恐〜いウワサ」
「知ってる!三階の理科室の横のトイレに花子さんが出るんでしょ?」
「えっ?!私が聞いたのはプールにたくさんの手が出るってヤツだけど?」
「音楽室でピアノの音が聞こえるって言うのは?」
「それはデマだろ」
「でも私の従兄弟の知り合いが本当に見たって」
「先輩が行方不明になったんでしょ?」
「学校の七不思議を全部知っちゃったから?」
「そうそう、学校の七不思議を全部知ってしまうと行方不明になっちゃうらしいよ」
「なんでも死後の世界に引きずり込まれるとか・・・・・・」
「ヤダ、恐〜い!!」





こんな風にどこの学校でも、どの時代でも絶対あるモノ。

『学校の七不思議』

トイレの花子さん、体育館の天井に浮かぶ女の子の顔。
誰もいない教室に響く複数の笑い声。
もしくは誰もいない音楽室からピアノの音色が・・・・・・
なんて、よくある話。





ほーら、貴方の後ろにも・・・・・









































「学校の七不思議?」

何かと思えばそんなことかよ、と内心思いながらも
コナンは声を掛けてきた小田さんの方を振り返る。
「そうそう!江戸川君知ってる?」
「・・・・・・・まさかうちの学校にトイレの花子さんが出るとか言うんじゃねーだろうな」
「あら、どうして解ったの?」
素でびっくりしている小田さんに絶句する。
「何でも、この前三年の先輩が夜忘れ物を取りに来たら・・・・・・逢ったんだって!!」
『逢った』にアクセントをつけて大げさに言う。
「・・・・・・・・・・・花子さんに?」
バカバカしいと思いつつ、訊ねてみる。
「そうよ!すごくない?」
(どこが?!)と言いたかったが、堪えて曖昧に笑っておく。
(まさか小学校の時みたいに校長のヅラ探しとかじゃあるめーな)
とてもイヤな思い出を思い出してしまった。
「で、今晩私たちも幽霊探しに行くからね!!」










「・・・・・・・・・・・・・・・・
ハイっ?!





さっぱり意味が分かりません。
去年は女装肝試し(貞子)で、今年は学校の怪談ですか。
そして「行くからね!!」って行くこと自体もう決まったことなのでしょうか。

「・・・・・・・・何でまたそんなことに」
自分の顔が引きつってるのがよく解る。
「あら?夏って言ったらホラーじゃない!!気にならない?学校の七不思議」
―――痛いところを突かれた。
夏といったらホラーだとは思わないが、
七不思議はひとりの探偵として確かに気になる。
「あ、灰原さんや吉田さん、あと松田君も誘っておいたから、大丈夫よ」
いつも明るい、朗らかな笑顔で返してくれた。
何が大丈夫なのかちっとも解らないが、唯一解ることは





今までの経験上、
行ってはいけない。

行ったとしてもいいことなどひとつもない。
松田が居る時点で何か不吉な予感がするのは気のせいだろうか。
だいたいオレは 幽霊などというものは信じていない。
自分の目で見たものしか信じないからだ。
でも・・・・・
チラリとある少女の方に目をやる。
すでに小田さんに声を掛けられていたのか、
少し眉を下げてこちらと視線を合わす。
小さな唇がかすかに動き、
『行った方がいいわよ』と読みとれる。



・・・・・・・・マジですか?!



















「何だ、江戸川も来てんのかよ」
(来ちゃワリーかよ)と言い返したかったが、
いちいちコイツの相手をしていると疲れるので止めておく。



「―――じゃぁこれからニ組に分かれて、夜の学校を探索する!」
(だから何でコイツがしきってんだよ)
懐中電灯を振り回し、リーダーシップを取ってる松田にコナンは毒づく。
「じゃぁ、このオレが作ったくじで二手に分かれようぜ」
(めちゃめちゃ裏がありそー。何てたってアイツが作ったんだからな)
どうせ灰原と同じ組になろうとしてるのだろう。
下心がミエミエだ。



案の定、松田は灰原と同じ組で、オレはもう一組の方だった。
「コナン君、同じ組だね」
頬を少し赤らめて、歩美が嬉しそうに声をかけてきた。
「う、うん。そうだね」
「歩美、怖いの苦手だけどコナン君がいるから大丈夫な気がする」
「ハハ・・・・・・・」
とりあえず笑っておく。
「灰原さん、怖くなったらオレの腕掴んでもいいから」
「・・・・・・・・えぇ、怖くなったらね
向こうでは松田の執拗な誘いを、灰原が絶対零度の微笑で軽くかわしていた。





「でも具体的にはどうするんですか?」
上から下までバッチリ特攻服(?)な光彦が訊ねる。
確かに、夜の学校に幽霊探しにきたといっても何をどうしろというのだろう。
「決まったんだろ?捕まえるんだよ!」
と元太は言っていたが、実際はどうなのだろう。
「―――ったく、だいたいこれ発案したの誰だよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・私」
松田の言葉に反応したのは小田さん。
「美術部の先輩が見たって言うから、私も見たくなって」
「で、怖いからオレらも誘ったわけ?」
「そう。七不思議の秘密が知りたかったの」
「秘密?」
七不思議に秘密などあっただろうか。
オレが一番最初に通っていた頃、確かに七不思議はあった。
でも七つ全部は知らなかったし、秘密など聞いたこともない。
「学校の七不思議を全部知ってしまったら、死後の世界に引きずり込まれるって聞いて」
「それを確かめたかったのか?」
「うん。だって・・・・・・・・だって私」
それっきり小田さんは頭を抱えて蹲ってしまった。
「どうかしたのか?腹でも痛いのか?」
「ちょっと元太君ふざけないでよ!!」
「―――顔色が悪いわね、大丈夫?」
差し出された灰原の小さい手を小田さんは弱々しく取り、立ち上がる。
「・・・・・・大丈夫。実は私、最後まで知ってしまったの」
「・・・・・・・七不思議をか?」
瞬間、いつも朗らかな小田さんの顔が曇る。
「興味半分で先輩の話を聞いて・・・・・・でもその先輩先週から原因不明の熱でうなされてるって」
「あ・・・・・それ聞いたことある」
歩美ちゃんが口を挟む。
「だから私も、私も――――」
その言葉でここにいる誰もが声を失った。
「だ、大丈夫ですよ!これからみんなで確かめに行きましょう」
「そうだぜ。ユーレーなんていないって」
「小田さん、皆で行けば怖くないでしょ?」
口々に小田さんに声をかける。



(原因不明の熱ね・・・・・・・・)
七不思議の秘密だの呪いだのなんて信じてはいなかったが、
こうなったら夜の学校探検は行かざるをえない。
「―――じゃぁ、行くか?」
そう声をあげ、コナンはぞろぞろと歩き出す団体の最後を歩いていた松田に声をかける。
「くじ引きの必要はなかったな」










「うへー。真っ暗」
「学校ってこんなんだっけ?」
「昼間とはまた違って見えるものよ、吉田さん」
昼間ひとつだけ開けといた小さな窓から進入し、夜の校舎を歩く。
「まずは定番、音楽室ね!」
「歩美ちゃん、何でそんなに元気なんですか?」
もう既にびびってる光彦は、今にも倒れそうである。
「だって皆暗いんだもの・・・・・・・・・・・少しでも明るい方がいいでしょ?」
そう言ってちょっと哀しそうに笑った。



「・・・・・・・・・・・・・・ねぇ、何か聞こえない?」
今まで黙っていた灰原が急に声を上げる。
「き、聞こえるって何がだい?」
松田もよっぽど怖いのだろう、声が震えている。
「解らない・・・・・・・・・・・・・ピアノの音?」
「や、やだ・・・・・・・・・・」
「き・・・・・きっと誰かが弾いてんだよ」
元太が努めて明るく振舞うが、
「何でこんな夜に弾いてんだよ?」
オレは冷静だった。
「とにかく行ってみようぜ?」
指で合図し、促す。









「だんだん音が近くなってきたわね」
音楽室に向かう途中、灰原がこっそりとささやいてきた。
「あぁ、もうすぐ音楽室だからな。音の起源はやっぱり音楽室のようだし」
さっきからピアノの音がどんどん大きくなっていく。
音楽室まで後数メートルだ。
「そういや、オメーは信じてんのかよ?ユーレーとか。信じてなさそうだけど」
「あら・・・・・・・信じてるわよ」
「ふーん」
意外だと思いつつ、歩みを速める。





音楽室のドアの前に着いた。
ピアノの音はまだ響いている。やはりここからのようだ。
「―――開けるぞ?」
皆の了解を得てから、ドアに手をかける。
「待て!オレがやる!!」
そう言って松田はオレの体を押しのけ、震える手をドアに手をかける。
そして何度か深呼吸をした後、

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・行くぞ?」
躊躇わず一気にドアを開ける。









キャーーーーーーーーーーーーー!!











誰もいない教室で、女の悲鳴が響いた―――






















後編に続く。