誰もいない朝一番の教室。
内緒で貴方の席について一呼吸。

今日は上手くしゃべれるかな。
今日は素直になれるかな




六時限目
禁じられなかった恋の行方



どうして?

何で?

さっきから、疑問ばかりが頭に浮かぶ。



「どうしてキスしてくれたの?」










「で、キスしちゃったわけだ?」
黙ってこくりと頷く。
「あかんやろ?生徒に手ェ出しちゃ」
「・・・・・・・頭では解ってるよ」
「身体は素直なんやな」
「ウルセーよ」
そう返しながら、やっぱりコイツに相談なんかするんじゃなかったと、今更ながらに思う。
「分かんないんだ・・・・・・何故そんな気持ちになったのか」
「好きやからとちゃうの?」
「・・・・・・そういうんじゃないと思う」

好きだとか、嫌いだとか。
あの子に抱く感情はそんなんじゃないんだ。
図書室で会う君は、周りから少し浮いている不思議な少女。
教師として特別扱いなんて許されないけれど、普通の生徒とはどこか少し違う君。



「工藤先生はえぇなぁ?毛利先生からも生徒からも告白されて」
「・・・・・・・・・・・」
「かぁ〜っ!毛利先生と生徒天秤にかけるってか?」
「それも違うっての」
「教師と生徒って言ったって、所詮は男と女。なるようにしかならへんよ」

『そういう対象には見れないってことは、ていよく振ったのでしょう?!』
顔を赤らめて怒った彼女の姿が、今でも目に焼きついている。



「そんなんじゃないんだ・・・・・・・・・・」










「すまなかった・・・・・・・・・・」
翌日、憂鬱な気分のまま学校に着いたあたしを待っていたのは、顔を真っ青にして謝る白馬先生だった。
「とんでもないことをして、本当に悪いと思っている」
「・・・・・・・・・・・・」

許すわけにはいかない。
けれど一向に頭を上げない白馬先生の肩にそっと触れる。
「昨日のことは忘れて下さい・・・・・・私も忘れますから」
笑って水に流せるほど大人じゃないけれど。
いつまでも引きずってる子供でもない。
何もなかったこととして忘れるなら、それでいい。
工藤先生も見なかったことにしてくれると言うのだから。
「・・・・・・・・・・・・・あり、がとう・・・・・」
白馬先生はあたしの言葉にやっと顔を上げた。
目は真っ赤に充血していて、一晩でかなりやつれてしまった。
ハンサムな顔がもったいない。

抱きしめられたことには驚いたが、好きだといわれて悪い気はしなかった。
こんなあたしでも、好いてくれる人はいる。
でも逃げ道ばかり作るのはもう止めた。
「・・・・・・・・ごめんなさい」
応えられなくて、ごめんなさい。

そして、快斗と最近まともに顔を合わせていないことに気がついた。
彼にも答えを出さないと。





解らない。
解らないの。
先生が何考えているのか。
どうしてキスしてくれたのか。
怖くてそんなこと聞けない。

今日は工藤先生の目をまともに見れなかった。
おまけに快斗もまた休みだった。










「灰原・・・・・・・・」
放課後、夕日の差し込む廊下で後ろから誰かに呼び止められた。
振り向かなくたって、声で誰か解る。
「昨日は、その・・・・・・悪かった」

『悪かった』
この言葉を聞いて振り返る。
そこにいたのは、やっぱり工藤先生。

「・・・・・・・・・・・・謝るんだ?」
白馬先生のように。
悪かったって。



「じゃあ先生、どうしてキスなんかしたんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「中途半端な優しさなんていりませんよ」
「・・・・・・・・・・・・・うっ・・・」
「白馬先生を殴ったくせに自分はいいんですね」
「・・・・・・・・・・・・・・・すみません」
ついに先生は観念して、少年のように耳まで真っ赤に染めて頭を下げた。

あっ、この顔。
この少年のような表情が好き。



ずっとこの時が止まればいいって思ってた。
貴方を好きなまま、傷つかないようにこの想いを閉じ込めておければいいって。
そんなあたしの青春の一ページ。

想い出は綺麗なまま、保存しておきたいけれど。
ページを破ってでもいいから

傷ついてもいい。
特別になりたい。
もっと、ずっと好きでいたい。





「先生、このまま黙って聞いて・・・・・・・・あたし先生のことが好き」
「・・・・・・・・」
長い溜め息が聞こえる。
「オレなんてやめとけよ。もっといい男がいるだろうに」
「先生がいい」
「今が女として最高の時期なんだから、オレなんか好きになるなよ」
「・・・・・・・工藤先生じゃなきゃ意味がない」



貴方じゃなきゃ、意味がない。

『先生』だから好きになったんじゃないよ。
たとえもっといい男が現れようとも、あたしは工藤先生だから好きになったの。






「自分でも、よく解らないんだ」
「・・・・・・・・・・?」
「何でキスなんかしたのか」
「・・・・・・・・・・・・」
純情な少年のように真っ赤になったまま弁解する先生。

あたしの方が知りたいっての。



「先生・・・・・・今度デートしてくれたら、昨日のこと忘れてあげる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・次の学年末、オレの古文満点だったら考えてやるよ」
「あ、言ったなー?」

いろんな気持ちが混ざって、涙が滲んだ金曜日の放課後。




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