学校へ行こう!!

〜第七話 モテル男はツライのよ編〜











ニ年生になって、時が過ぎるのは早いものである。
中間試験は無事終わり、後は夏を待つばかり。
もちろん赤髪の少女は相変わらずトップをキープしている。
一度もニ位に落ちたことが無いから、大したものだ。
松田も頑張って名誉挽回しようとトップを狙っているらしいが、
灰原のヤツに勝てるハズがない。
もうここまで来ると、灰原の名前は学校中に知れ渡っていた。
赤髪で賢く、メガドン級の美人。
こんなウワサがたってしまったので、休み時間ごとに他のクラスのヤツが
一目彼女を見ようと好奇の目で見に来るという。
一年生まで狙ってるとか、この前は他校の連中まで来たらしいとか・・・・
と、光彦が言っていた。
サッカー部もおかげさまで部員が増えた。
部長は嬉しがっていたが、オレは面白くない。





「あ、江戸川」
廊下でふいに国語の教師に呼び止められ、ビビる。
(オレ・・・何もしてねーよな)
「おまえ国語係りだろ?職員室までプリント取りに来てくれないか?」
「次は自習なんですか?」
この国語教師はどうも古めかしいところがあって、
ノートにこだわっている。
プリントなど滅多に使わないから、不思議に思い尋ねる。
「あぁ、急な出張でな」
(やりぃっ)





三階の職員室に行くと、灰原の姿があった。
登校・下校や部活中には会えるが、校舎内で会うのは珍しい。
彼女も何か教師に頼まれたらしく、大きなダンボールを抱えている。
おそらく美術であろう。
重たそうに、フラフラしている。
声をかけようと近寄ったが、急に立ち止まる。
三年の先輩らしき人が先に声をかけてきたのだ。
(しかも結構かっこいい系)
灰原のヤツはありがとうございますと笑みをこぼし(!)
その男と共に四階に上がっていく。
あの愛想のない灰原が他の男に笑みをこぼしている?
あり得ない。
ウワサでは聞いていたが、こう目の当たりにするとどうも気分が晴れない。
モヤモヤする。





これってヤキモチ?










独りモヤモヤしていると女の子がぶつかってきた。
(痛てーな)
と相手を責めようとしたが、
よく見ると重たそうなダンボールを抱えたまま床に倒れている。
どうやらオレにぶつかった反動で転んでしまったらしい。
「あっ・・・ごめん!!大丈夫だった?」
慌てて抱き起こす。
制服がまだ新しいところを見ると、一年生だろうか。
灰原とはうって変わって長い黒髪の、いかにも純粋無垢な女の子だ。
「あ・・・ありがとうございます」
白い頬を真っ赤に染めてお礼を言う。
「気をつけてね」
そう言うと、オレは彼女のスカートについた埃をパンパンと叩いてあげる。
一歩間違えればセクハラだが、まぁ気にしない。
床に転がったままのダンボールを持ち上げる。
結構重たい。
こんなものを一年生の女の子に持たせるなんて、どんな教師だよ。
そのまま歩き出す。
「あ・・・先輩っ」
不思議そうに彼女は首をかしげる。
「運んであげるよ。場所は?」
というのも、灰原のを運んであげられなかったのでせめてもの罪滅ぼしである。
やっぱり何だかんだ言ってお人よしである。





その様子を階段から見ていた哀は顔を背ける。
(バカっ・・・・・・)















「今日、男に声かけられてたじゃん」
一年生が増えたので、ニ年生はだいぶ楽になった。
ボール磨きもしなくていい。
『先輩』なんて呼ばれるのは久しぶりである。
そんな中リフティングの練習をしながら、マネージャーの彼女に尋ねる。
今のオレの顔っていったら醜いことこの上ない。
「・・・・・・戸村先輩のこと?」
誰だよ、その男は!!
「手伝ってもらっただけだけど?」
何言ってんのよとでも言いたそうに彼女は言う。
やっぱりムカムカする。
「ただの先輩なら、何であんなに愛想いいんだよ?」
爆発十秒前。
「別に愛想よくしてるわけじゃ・・・だいたい貴方だって!!」
珍しく灰原が声を荒げている。
「・・・・オレが何だよ?」
「江戸川君っ!!」
三年生の女子マネージャーが声をかけてきたので、
オレたちの会話は終わった。
「下で一年生の女の子が呼んでいるわよ?」
サッカー部は校舎と少し離れたグランドでやっているのである。
下とは、校舎の方であろう。
「女の子?」
誰だろう。
しかも一年生?
「やるわね!きっと告白よ?」
何で女の子というものは、こうもこういった話が好きなのだろうか。
灰原の方に視線をやったが、彼女はもう向こうに行ってしまった後だった。
その様子を切なそうに見つめる歩美。
これだから恋愛は面白い。





恋のカラ回り?











「あれ?君は・・・・」
昼間助けたあの女の子である。
ピーターラビットのエプロンをつけているところを見ると、
調理部か何かだろうか。
「江戸川先輩っ・・・部活中にすみません」
オレの名前と部活を調べたのだろうか。
「・・・・何?」
あくまでも傷つけないように優しく尋ねる。
「あの・・・私調理部で、今日のお礼にクッキーを焼きました」
そういって後ろに持っていたらしい、可愛いピンクのラッピング袋を差し出す。
顔を上げてられないらしく、頭を深く下げている。
差し出した手が震えているのを見て、ほほえましく思えた。
こういうのをもらったのは初めてではないが、やはり嬉しいものである。
たとえ他に好きな人が居るとしても。
「あ・・・ありがとう」
少し照れて受け取る。
オレが受け取ったのを見て、
「あ・・・ありがとうございます。部活中にすみませんでしたっ!!」
頬を赤らめたまま彼女は走り出す。
何がありがとうなのかはよくわからないが、
可愛らしい子である。








「お互いモテル男はツライな?」
ふいに高らかと声がしたので振り返ると、
ランニング姿で腰に手を当てている松田の姿が。
何でコイツ夏を先取りしてんだよ?!とツッコミたかったが、
オレ様ヤローだから仕方ない。
こんなヤツがチームメートだなんて認めたくない。
<松田君もサッカー部です>
汗を光らせているところも何だかわざとらしい。
しかも『お互い』って何だよ?
「彼女、可愛いじゃないか。付き合っちゃえば?」
フフンと鼻で笑って、ヤツは言う。
相変わらず話し方も態度も偉そうである。
何様のつもりだろうか。←オレ様だ。
「・・・・・・オレ、好きなヤツ居るから」
だから、同じように鼻でフフンと笑ってやった。




















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