学校へ行こう!!
〜第五話 男の戦い!体育祭編〜
体育祭の時期がやってきた。
(かったる〜)
などと思ってちゃいけない。
うちのクラスはやたらと張り切っていた。
旗まで作っている。
(黄色組かぁ〜)
渡された黄色のハチマキを見つめながらボーっとしていたら、
「ハイ、じゃぁ江戸川君と松田君は四百M走ね」
などと体育祭実行委員の小田さんがテキパキと言った。
「ぅえっ?!」
奇妙な音を出し、オレは椅子から転げ落ちた。
「ちょっと大丈夫?」
隣の灰原が抱え起こす。
「何でオレ四百Mなの?」
「あたしが二人とも推薦したのよ」
悪気もなさそうに隣の彼女は言った。
「はいっ?!」
語尾が上がる。
「サッカーやってるんでしょ?足には自信があるんじゃないの?」
こっそり囁かれてオレは何とも言えなくなってしまった。
「決定みたいね」
小田さんの太陽みたいな笑顔を見て、
ますます何も言えなくなった。
そしてその当日、十月某日。
てるてる坊主を逆さまに吊るすことまでしたのに、
彼の期待はあっさり打ち砕かれていた。
見事な秋晴れである。
トテモトテモ哀しくなった。
そんな中、体育祭は始まったのだ。
彼が出るのは一年生全員でやる綱引きと、
何故か踊るソーラン節。
そして一番イヤな四百M走。
(四百Mって中途半端な距離だからな・・・)
全速力で行くと疲れるし、
走る相手はあの松田だし。
しかもこの四百M走には、
コナンが前に通っていた頃以前から続くジンクスがあった。
「四百M走で一着になった者には
願い事がかなえられる
しかし、もし競技の途中で転んだら
その願い事は一生叶わない+優勝もできない・・・!!」
ふいに背後から声がして振り向いた。
「お〜ま〜え〜なぁ〜!!」
人がしんみりしてるときにこんな太字で言わないで欲しい。
「本当のことでしょ?」
黄色のシャツに黄色のボンボンを両手に持った
世にも美しい少女が微笑んだ。
こんな嫌味なことをわざわざ言いに来る人間を、オレは一人しか知らない。
「おまえわざわざプレッシャーかけにきたのか?」
「まさか!応援しに来たあげたのよ」
「そういや、おまえ応援団だったんだ?」
まじまじと彼女を見つめ、呟く。
「そうよ?」
彼女はというと、そう言ってボンボンをわさわさ揺らした。
「あなたってホント、LHRも聞いてないのね」
彼女によればLHRで決めていたらしい。
呆れたように彼女は行ってしまった。
(可愛い・・・)
などと思ってる場合じゃない。
(ヤダナ〜)
胃の中のものが逆流してきそうだった。
全校生徒でやる準備運動のためのラジオ体操も、
周りが「かったるい」などと言ってやらない中、
怠けることなくオレはちゃんとやった。
綱引きだって手が綱臭くなるまで引っ張った。
ソーラン節だって金○先生の生徒たち並みに完璧だった。
応援合戦だって声がかれるまで叫んだ。
だからお願い、四百Mだけは勘弁!!
・・・などといった甘えは通用しないことはわかっている。
「それではお待たせしました!本日のメインイベント・・・」
校庭から様々な声が上がる。
「四百M走です!!」
(あれ?)
どっかで聞いたことがある可愛らしいアナウンサーの声。
(歩美ちゃんだ・・・!!)
彼女の方に視線を送ると、
彼女はパチっと長い睫毛を揺らし目配せしてきた。
「江戸川君、頑張ってね」
小田さんも声をかけてきてくれた。
二人の少女の応援にちょっと照れる。
それを見ていた灰原はオレに近づいてきて、一言。
「せいぜい転ばないようにね」
(可愛くない・・・!!)
そして運命の時間が来た。
校舎にかかっている得点表を見る。
赤組470点。
白組463点。
黄色組449点。
一番負けてるが差はほとんどない。
(これで勝てば・・・・!!)
でも隣のコースはあの松田。
目が合うとニヤニヤしながら聞いてきた。
「キミの願い事は何?」
「いや・・別に」
とりあえず係わりたくはない。
目をそらす。
「僕は彼女を手に入れたい」
(聞いちゃいねーよ)
こう言いたいのを我慢した。
彼女とは灰原のことだろう。
先日何故かライバル宣言をされた。
でもまさか同じ黄色組だから、
今日は嫌がらせとかはしてこないだろうと思った。
「よーい・・・」
審判員の教師の低い声が聞こえた。
「パンっ・・・!!」
ピストルの乾いた音が響いた瞬間、
隣の美男子はたくさんの女子の声援を受けながら。
「でもそれにはどうも、キミは邪魔みたいだ」
と皮肉っぽく笑った。
(何ですと?!)
隣から足が出てくる。
脛を蹴られたらおしまいだ。
(タチ悪っ・・・!!)
目を閉じ唇を噛む。
どうすれば・・・?!
そう思っているとふいに声がした。
「ジャンプ!!」
(えっ?!)
訳も分からず、誰が言ったかも分からずとっさにジャンプ!!
「なっ・・・!!」
唖然とした松田。
そのまま彼はバランスを失って倒れた。
0.1秒のキセキ。
オレは着地も見事に決め、そのままゴールまでダッシュ×ダッシュ!!
気がついたら一着の旗を持って立っていた。
訳の分からないままクラスメートたちに囲まれ、
「やるな〜!」だの
「江戸川君かっこいい」だの何だの言われていた。
でも結局松田が転んでしまってジンクスどおり優勝は出来なかった。
ビリとなった松田は誰にも相手にされず、
彼のファンも大半はファンをもう辞めただろう。
(いい気味だ)
それにしてもあの時ジャンプって叫んでくれたのは誰だったんだろう・・・?
(ま、いっか)
すっかり暮れた空を眺めながら満足そうに笑った。
夕焼けがキレイである。
(あれ?そういえばジンクスは・・・・)
一着になった者の願い事は叶えられるハズ・・・
「結局江戸川君かぁ・・・・」
黄色のボンボンを片手で投げては取ってと繰り返し遊んでいた少女は、
少し離れた所で彼以上に満足そうに笑った。
あの二人を自ら推薦して競わせるなんて、
この娘が一番タチが悪いのかもしれない・・・・・
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