学校へ行こう!!
〜第十四話 踊れ!選挙戦編〜
体育祭も終わり、のんびり生徒会室でサ●デーとか読んじゃってるある日の出来事。
「もうすぐ生徒会選挙ですね」
「あ・・・あぁ、そうだな」
後輩にふいに声をかけられて、慌てて机に乗せていた足を下ろす。
季節は秋。
生徒会選挙の時期である。
「今年は誰になるんだろうね」
同じ三年生の書記の子の言葉に首をかしげる。
「さぁ・・・・・誰か適任なヤツいるかな」
「今年はC組の吉田君が有利らしいですよ」
残された雑用をやりながら二年生の会計の子が口を挟む。
「南さんは今年は立候補しないわけ?」
「続けたいとは思うんですけど、ね」
どうも、生徒会と勉強の両立に悩んでいるみたいだ。
「私、外の学校受けたいんですよ」
帝丹中学出身者は大抵そのまま帝丹高校に進むので、
外の学校というのは帝丹高校以外の学校のことである。
「そうね、選択肢を広げることはいいことだわ」
雑談に珍しく哀が参加した。
「すごい人が今年出馬するそうよ」
「はっ?!」
昼休み、小田さんが意味ありげに話題を振ってきた。
というか出馬って…議員選挙じゃないんだから。
「聞いてびっくりよ」
「だから誰だよ?」
「小宮山かなえ」
―一瞬だけ、小田さんの顔が強張ったのは気のせいだろうか。
放課後、二年C組の教室に行き吉田君とやらの様子を見に行く。
何せあの灰原の後任だ。
どんなヤツかこの目で確かめなくてはいけない。
机の上に座って数人の友人と談笑している吉田君は
いかにもリーダーシップをとりたがるようなヤツだった。
口元を歪めて笑う姿はあまりいい感じがしなかった。
「何か嫌な感じね・・・・・・・彼が例の吉田君でしょ?」
隣の歩美に深く頷いてみせる。
「同じ苗字なのに」
「それは関係ないだろーが」
「・・・・・・・ワンマンっぽいな」
「こんにちは、江戸川先輩」
吉田茂とは反対に穏やかな笑みを浮かべているのは
対抗馬の小宮山かなえであった。
校内で会うのは何だか久しぶりに思えた。
「聞いたよ、生徒会長に立候補したんだってな?」
「えぇ、まぁ」
今から緊張しているのか、少し強張った笑顔をのぞかせた。
「去年の礼をしなきゃな」
「・・・・・・・・・?」
「去年君はオレに投票してくれた。今年は借りを返す番だ」
「借りだなんて・・・・・」
「君なら出来ると思うよ」
本気でそう思って言ったのに、返ってきた言葉は辛辣だった。
「先輩、それ反則です」
「はっ?!」
HRの時間をさぼって、体育のときに落としたペンを探しているうちに、体育館倉庫まで来てしまった。
(赤髪の彼女に借りたものだからほっとくわけにもいかない)
体育館倉庫は校舎から結構離れており、本来はHR中である今は余計に静まりかえっている。
ふいにドサっと大きな音がし、慌てて裏に回る。
倒れている一人の男子生徒。
その周りに群がっている複数の男子生徒たち。
それだけで状況は把握出来た。
「人は見かけによらないもんだな」
ゆっくり近づいて、主犯を睨みつける。
「上っ面はそこそこよかったのにな、おまえ」
「ふ・・・・副会長っ!」
「おい、吉田・・・・・・・・」
周りの取り巻き連中が慌てふためいても、ヤツだけは至極冷静だった。
「時期生徒会長がやることにしては、あまり感心しないな」
「これはおふざけでやっていることですよ、江戸川さん」
右端だけを上げて笑う姿は、昔の松田を思い出させた。
「オレのこと知ってるなんて光栄だな」
お返しに意地悪く、にーって笑ってみせた。
「まぁ、勝手にしろや」
目撃だけしといて、さっさとそこから立ち去る。
「・・・・・見捨てる気ですか?」
少し甲高い吉田の声。
その問いには答えないでおいた。
ピンポンパンポン。
お決まりの鈍い呼び出し音の後、
「HR中失礼します。全校生徒は体育館倉庫に今すぐ集合して下さい。面白いものが見れますよー」
体育館倉庫にスピーカーが設置されていなかったのが幸いだった。
もの好きな野次馬たちのおかげで、その後の騒ぎは部活動は中止となり、一斉下校が行われたぐらい。
「随分派手な演出ね」
「たまたま放送室が空いてたからな」
まぁ、その後教員室でこってり絞られたのは言うまでもないが。
その二週間後、例年通り生徒会役員選挙が行われた。
結果はというと、うちの学校の連中はこれでも見る目があるらしい。
なんてたって去年江戸川コナンを副会長にしたぐらいだからな。
(というか、例の事件を目撃した野次馬連中が流した噂があっという間に広まったみたいだった)
「これから一年大変だと思うけど・・・・・・」
代々生徒会長に伝わる、生徒会室の鍵を彼女の首にかける。
去年は自分が先輩からかけてもらった代物だ。
赤い大きなリボンがかけられている鍵は彼女の胸元でちりんと響いた。
「はい、頑張ります」
小宮山かなえは柔らかく笑んで、静かに深くお辞儀をした。
「ちょっと淋しい?」
放課後の生徒会室、そこには哀とコナンしかいない。
「何がだよ」
「生徒会の仕事がなくなって」
「肩の荷が降りた感じ」
「強がっちゃって」
首をすくめた彼女が憎らしいほど可愛かった。
「これでやっとクラス行事に集中出来るよ」
「そうね」
「おまえこそ淋しいんじゃねーの?」
「・・・・・・・少し」
まだ、生徒会長だった自分にこだわってる。
初めてやった大役。
辛いことも多くて大変だったけど、とても充実した一年だった。
「これでただの灰原哀に戻るのね」
このとき何故だか少し、泣きたくなったのは
一生の秘密にしておこうと思う。
帝丹中学文化祭・2につづく
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