学校へ行こう!!
〜第十三話 彼女の憂鬱編〜
雨が降っている。
今年の梅雨はどうやら長引くみたいだ。
既に埋まった答案用紙を除けて、閉められた窓の外を眺める。
―期末テストの時期である。
一学期最後の席替えで見事ゲットした窓際の席は好きだった。
目立たないのはもちろん、隣の彼女を一番近くで感じられるのがいい。
しかし窓に映った彼女の横顔には、何故か陰りが見えた。
そんなに難しい問題ではないはずだが。
肩肘をついて何やら悩ましげな彼女は、
そんなオレの視線にも気がつかずに答案用紙に目を落としていた。
そして一週間後、一学期の期末試験の結果がいつものように張り出された。
いつも通りじゃなかったのは、
その結果と周りの反応。
期末試験成績上位者 三年の部
1位 松田英雄<B組> 493点
2位 灰原哀<B組> 487点
3位 斎藤剛<F組> 453点
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「松田君の・・・・返り咲き?」
思わず歩美の口からそんな言葉が漏れる。
絶えず学年トップを保っていた灰原が、万年二位の松田にトップの座を奪われたのだ。
念願の一位となった松田には誰一人目もくれず、周りは皆動揺を隠せない。
現にあの松田でさえ「信じられない」という顔をしている。
「おまえ・・・どうしたんだよ?」
「どうもこうも」
結果がどうであれ、相変わらず彼女は涼しい顔。
「わざと、か?」
ざわめく廊下で、少し声のトーンを落として訊ねる。
『これだけ騒いでいたら普通の声でも聞こえないわよ』って彼女は微笑った。
「たまたま調子が悪かったのよ」
―たまたま、ね。
「おまえの成績なら合格圏内だな、よし帰っていいぞ」
「早っ!!」
期末試験を元に三者面談が始まった。
今日はその最終日。
オレの後は灰原で、今も彼女は博士と一緒に廊下で待っているはずだ。
「先生、コナン君は本当に大丈夫なんですか?」
あまりにもあっけなく終わった面談に、隣の蘭も苦笑している。
「まぁ、そこそこいい成績なので上を狙うことも出来るんですけどね・・・・」
「いいえ、帝丹高校に進みます」
皆と一緒がいいっていう訳ではないが、オレが決めたことだから。
卒業出来ずにいたあの高校を『江戸川コナン』として卒業したい。
この緊張感がたまらなく嫌だった。
たかだか三者面談なのに。
隣に座った博士を半分無視した形で面談は始まった。
これでは三者というより二者に近い。
「今回はどうしたんだ?」
「調子が悪かったもので」
雨が窓のガラスに当たって、静かな教室にはその音と二人の声が木霊する。
「まぁ、順位がひとつ下がっただけだから心配はしていないが・・・・・」
『そりゃそうだ』
心の中でそう呟いた。
皆騒ぎすぎだと思う。
頑張った松田君を褒めるべきなんじゃないかしら。
ましてや順位がひとつ下がっただけで呼び出されるなんてとんでもない。(この場合呼び出しじゃないけど)
自分はそんなにもこの学校から期待されているのだろうか?
「灰原は帝丹高校進学希望だったな?」
「・・・・・はい」
「もったいないな。灰原だったらもっと上狙えるぞ?」
様々な資料に目を通しながら、担任が邪気の無い笑顔で言った。
「先生、そのことでお話があるのですが・・・・・」
「ねぇ、昨日の三者面談どうだった?」
翌日。
今日は終業式で、たった今成績表をもらったばかりである。
と言っても三者面談で既に成績は分かっていたのだが。
「どうもこうも・・・・・別に大したことは言われなかったわ」
歩美に聞かれ、首をすくめてみせる。
―口ではそう言った彼女の顔が曇り空なのは気のせいだろか。
「でしょうね」
隣で聞いていた光彦が苦笑しながら、さっき渡された成績表を鞄にしまう。
「ま、もう夏休みだしなー」
青く澄み切った空を眺めながら、元太が心底嬉しそうに言った。
梅雨はいつの間にか明けたらしい。
「まぁ、せいぜい中学校生活最後の夏休みを満喫しろよ・・・・・勉強もな」
担任のこの〆の言葉に、教室中に歓声が響き渡る。
こうして受験生には厳しい夏休みが始まる。
―オレ達にとっては?
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