学校へ行こう!!

〜第十二話 いよいよ最高学年編〜











サクラサク。
薄紅に色づいた桜の花びらが、春の暖かな風によって揺れている。
その花びらが彼女の柔らかそうな白い頬にかかり、頬を薄紅に染めたみたいに見える。
赤い髪が春の日差しを受けて更に赤みを増している。
濃紺のプリーツスカートから伸びた白くて細い足がオレを誘惑する。
誰かを待っていると一目で分かるその立ち姿は、妙な色気があった。

見慣れた少女が別人のように思えて、胸のドキドキが止まらなかった。
どうかこれ以上綺麗にならないでと願いながら。





四月七日。
入学式の日にこうやって阿笠邸の前で待ち合わせをするのも、とりあえず今日が最後だ。
「・・・・・・・おはよう」
遠くから声をかけると
「おはよう」
彼女は小さく微笑んだ。

三年生を無事送り、今度は自分達が送り出される年になった。
いつの間にかもう最高学年である。
この間入学したばかりに思えるのは自分だけじゃないはずだ。



今年は上手い具合に入学式には満開の桜が見れた。
真新しい制服に身を包んだ幼い少年・少女が楽しそうに笑いながら前を歩いている。
その姿が無邪気すぎて、自分には少し毒だった。
無理もない。
この間まで小学生だったのだから。

反対にオレは二回目の中学三年生。
新しいも何もない。
その心はすっかり廃れてしまったと自分は思うのだが、
隣の彼女は「そんなことないわよ」と意味深く微笑んでくれる。
…その微笑みにどんな意味が含まれているかは分からないが。




















『今年こそ同じクラスになれますように』
皆で行った初詣でこっそり神様に頼んだ願い事。
去年どんなにもどかしかったか。
クラスが離れているだけでどうにかなりそうだった。

彼女に一番近い存在だと自惚れていた。
そうでもないと散々思わされて、いい薬になったのかもしれない。
そんな去年の苦い想い出。





「今年は誰かに一目惚れされないようにね」
彼女が意地悪く笑った。
きっと小宮山かなえのことを指したのだろう。
去年は入学式で彼女に人目惚れされてしまったらしい。
好かれて嬉しいのやら哀しいのやら。
「・・・・・・今年はモテない系でいくよ」
「貴方なら嫌でも目立つわよ」
「・・・・・・それってヤキモチ?」
「そうかもしれない・・・・・・・・・」
彼女には珍しく、遠い目をしたままそう答えた。





もしかしたら、オレが思っている以上に彼女は傷ついたのかもしれない。
去年どんなに彼女を苦しめたか、その時のオレはまだ気づいていなかった。











「大変です!今年は皆同じですよ!!」
掲示板の前が混んでいたので、代表で見に行った光彦が慌てて帰ってくる。
「同じ?」
哀が怪訝そうな顔で聞き返すと
「そうです、五人共B組ですよ」
頬を赤く蒸気させて光彦が頷く。
「マジ?!」
開いた口がふさがらないとはまさにこのことだろう。
他の三人も同じように口をポカンとさせている。
G組まで七クラスあるのに、五人共同じクラスだなんてすごい偶然だ。
ややあってから歩美がくるりとこちらを向いて
「コナン君、よろしくね」
笑顔が去年と同様、はじけている。





「最後の一年間よろしく」
唇の端を上にあげて、赤髪の彼女が笑いながら言った。
普通の挨拶なのに何故か胸が痛んだ。

最後の一年間。
最後…










「ふん、まさかおまえも同じクラスだとはな」
「江戸川君、今年一年よろしくね」
「よっ!何故か縁があるな」
その声に振り返ると松田と小田さんと藍沢の姿が。
自分の頬が引きつるのが良くわかる。
自分と灰原の名前だけ聞いてほっとしてしまったのだ。
まさかこの三人まで同じクラスだとは気がつかなかった。

三人はそんなオレを見てニヤニヤと笑っている。
嫌な偶然だ。










二度目の中学校生活最後の年をこのメンバーで過ごすかと思うと、
何だかとてもとても気が滅入った。

願わくは、今年こそ平穏無事な学園生活がおくれますように。




















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