学校へ行こう!!

〜第十一話 もうすぐ受験生編〜











文化祭も終わり、いよいよ三学期が始まった。
中にはもう受験勉強を始めたやつもいる。
周りもそろそろ受験を意識し始めて、
教室内は少しだけ居心地が悪い。





(あ、しまった・・・シャーペン忘れた)
筆箱に指を突っ込んだ後に気づき、思わず顔をしかめた。
昨日の夜レポートを急いで書いてたため、机の上に忘れてきてしまったようだ。
(藍沢にでも借りるか)
斜め後ろの藍沢の方に身体の向きを変えようとしたら、
「はいこれ。私二つ持ってるから今日一日使っていいよ」
オレの様子を不思議に思った隣の席の女の子が、
可愛らしいミニーマウスのシャーペンを差し出してくれた。
「サンキュー、瀬戸」
彼女の厚意に感謝し、ありがたく借りることにした。
「いいってことよ」
両手を腰に当てて、大きな口を横いっぱいに広げて笑った。
三学期から隣の席になった瀬戸は、
長い髪を頭の高い位置に結わいている活発な女の子だ。
「ゆかりー、見て見てこれ」
ゆかりと呼ばれた少女は前の席の女の子に声をかけられ、
おしゃべりに夢中になり始めた。
(瀬戸の下の名前ってゆかりっていうんだな)
そういえば楽しかったこのクラスももう終わりだというのに、
クラスの女子の半分以上のフルネームを知らない。
(今更だけど一応覚えておくか)
慌ててファイルから名簿を取り出し、出席番号順に確認していく。










「あっ・・・・」
毎週水曜日は放課後に生徒会の集まりがある。
今日はHRが早く終わったから、自分が一番だと思ってドアを開けたら
灰原と松田がもう既に来ていて、二人でファイル整理をしていた。
「早かったのね、江戸川君・・・・・入ったら?」
相変わらず彼女は涼しい顔で、入り口に突っ立てるオレを促した。
(何で二人きりでいるんだよ)
仕方のないことなのに、こんなことでも腹が立ってしまう。
「おまえらこそ早かったんだな」
こんな思いを松田に気づかれないように、努めて冷静に訊ねる。
「今日は担任が午後から出張だったからな」
何故か松田が答えた。
こちらも相変わらずオレに対して敵意剥き出しである。
こんなヤツはほっといて、灰原の方を振り返る。
「今日は三送会の話だっけ?」
「えぇそうよ」
三送会というのは「三年生を送る会」の略で、
在校生が卒業する三年生のために何か催しをすることになっている。





「ってことで今年は何をやりたいですか?」
会長の灰原の声で、本日の生徒会の会議が始まった。
「江戸川先輩、また古畑やれば?」
「冗談じゃねーよ」
後輩の声に絶句する。
あれはもうカンベンだ。
「ミニーマウス」
「「えっ?!」」
灰原が突然漏らした言葉に、一同耳を疑う。
彼女は黙ったままオレの胸のポケットを指差した。
「あっ・・・・・・」
ポケットには、借りたままのミニーのシャーペンが頭を出していた。
(瀬戸に返すの忘れてた・・・・・・)
「江戸川・・・・・おまえ・・・・・・・」
「江戸川先輩可愛いー」
「江戸川君にそんな趣味があったのね」
灰原にまで言われてしまった。
「誤解だ!これはクラスの女子に借りたんだよ」
必死に弁解しようと試みたが、
「ふーん。クラスの女子ねぇ」
反対に、ジトーとした冷たい視線を返されてしまった。
(これってヤキモチ焼かれてるってこと・・・・?)
「あ、でもいいかもしれませんね、ディズニー」
一年生の書記の子のナイスなフォローによって、
今年の三送会はディズニーミュージカルとなった。





意外と早く終わり、時刻は午後四時。
この時間なら部活に少し顔を出すことも出来る。
「部活行くか」
まだ少しふくれてる彼女を伴い、生徒会室を後にする。




















「春からは最高学年ですね」
帰り道、光彦が声をかければ
「いよいよ受験生になっちゃうんだね」
歩美もうなずく。
「オレ高校行けんのかな」
公立の入試は二年生の三学期の成績も入るため、
元太は今から心配らしい。
「皆同じ高校がいいよね」
帝丹中学卒業者は、大抵の人がそこそこいいレベルの帝丹高校へ行く。
歩美はそのことを指しているようだった。
「元太君は無理かもしれませんね」
「な・・・・なんだよー」
さすがの元太も成績のことを言われると言い返せないらしい。
(灰原はどこの高校に行くつもりなんだろう・・・・)
黙ったまま彼女に視線を送る。
彼女は歩美の話に耳を傾けながら、曖昧に笑っていた。
成績優秀の彼女なら、どこかの私立を受けることも考えられる。
(高校も同じっていうか、目標はまず来年同じクラスだよな)
「運動系の部活は夏で終わりだもんね」
歩美がしみじみと口に出す。
サッカー部も夏の試合が最後となる。
九月で生徒会も引退だ。





「ま、三送会のミュージカル頑張ろうぜ」




















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