学校へ行こう!!

〜第十話 奥様は生徒会長編〜












「「生徒会役員選挙?」」
二つの声が同時にあがった。
「嫌ですよ」
「嫌だね」
またもや重なる。
と言ってもこの二人は同じ場所にいるのではない。
それぞれの教室で担任から話を持ちかけられていた。
迷惑そうに顔をしかめている少女、灰原哀は学年トップの成績。
対して、ものすごく迷惑そうにしている少年、江戸川コナンはいたって普通の生徒。
サッカー部のエースで顔がそこそこいい程度である。





「頼む灰原!おまえしか生徒会長はやれない!!」
「そんなこと言われても」
G組の担任は彼女に頭を下げていた。
「おまえは学年トップだし、授業態度もいいし生徒会長向きなんだよ」
「・・・・・・何ですか?その何とか向きって」
無茶苦茶な理由をつける教師に呆れ顔。
何をこんなに真剣に話し合っているかというと、
今度の生徒会役員選挙のことである。
十月に入り、生徒会のメンバーは心機一転新しくなる。
会長は今のニ年生から選ばれるのだが、
各クラス二人候補者を選出して、全校生徒に投票してもらうというシステムなのだ。
「女子が会長をやっても大丈夫なんだから、どうだ?立候補してみないか?」
「何でまた・・・・・」
「うちのクラスから会長が選ばれたら鼻が高いじゃないか」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
さも当たり前のように言う担任に絶句し、
「とにかくあたしは会長なんてやりませんから」





「で、何でオレなわけ?」
もう一人の少年、江戸川コナンは唇を尖らして抗議した。
「本当は藍沢にやってもらいたいんだが、アイツは学級委員だろ」
藍沢は去年生徒会で書記をやっていたのだが、
今年は推薦されて学級委員をやっている。
学級委員は規則で生徒会には入れない。
「だからってオレなわけ?」
嫌な役が回ってきて、面白くない。
「おまえはまぁそこそこ成績もいいし、顔もいいからいけるだろ」
「投票は顔じゃないっスよ?」
全校生徒の前で三分間スピーチをして、
それを聞いて生徒たちが投票するのである。
「顔も重要だ。おまえは愛想いいし、サッカー部のエースなんだろ?」
「・・・・・・・そんなもんなんですか?」
何か上手くハメられたような気がするのは気のせいだろうか。
「だいたいおまえ何も委員会とか入ってないから・・・・・やれ
「きょ、強制なんですね」
確かに委員会を決めるとき、面倒だからと何もやらないでいた。
痛いところをつかれてしまった。
「G組からはきっと学年トップの灰原が選出されるだろうから、負けるなよ?」
「マジで?!」
確かに彼女なら選ばれてもおかしくない。
というか会長間違いなし。
「先生タンマ!オレ降りる」
冗談じゃない。
何が楽しくて彼女と会長争いなどしなくてはならないのか。
勝ったとしても負けたとしても(むしろこっち)大変気まずい。
ただでさえ最近までちょっといろいろあったのに。
「G組の近藤先生には負けたくないんだよ、頼むな!江戸川」
「えっ、あっ、う?」
「じゃぁ明日のLHRで正式に決めるからな」















「・・・・・・・ってことでA組の会長候補は江戸川君と田辺さんに決まりました」
クラス委員の藍沢が嬉しそうに笑った。
その顔をつねってやりたくなった。
同じくクラス委員の歩美も黒板に背を向けて笑いかけてくれた。
可愛らしいけど、あまりにも酷です。
「江戸川、皆に期待されてるから頑張れよ」
別に誰も期待なんかしてませんって。
「おまえ何だかんだ言って、人気あるから結構いけると思う」
魔のLHRが終わり、藍沢が隣のオレに声をかけてくる。
「ライバルがあの灰原だとしても?」
「灰原さんには勝てないだろうけどな」
あっさりオレは見放された。
「おまえどっちの味方なんだよ?」
「A組の味方だよ。やっぱり自分のクラスから会長が出ると嬉しいしな」
そういうものなのだろうか。
「三年になったらクラス替えがあるじゃねーか」
「あと半年は一緒だろ?」
任務は来年の九月いっぱいだ。
「・・・・・・・・・・・オレ、灰原と争うなんて嫌なんだけど?」
「争うと思うからいけないんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・?」
「おまえ勝てるわけないんだから、最初から副会長狙えよ」
「はっ?!」
最初から副会長?
「投票システムって一番多く票が入ったやつが会長で、二番目に多かったのは副会長に自動的に決まるだろ?」
票の多かった順に会長、副会長、書記、会計と決まっていくのだ。
うちの学校ではこんな一風変わったシステムになっている。
つまり彼女に勝とうなんて思わずに、自分が副会長になればいいのだ。
彼女が会長になるというのはきっと揺るぎない。
あとは自分が他の候補者たちを押しのけて副会長(もしくはそれ以下)になれば、
彼女と争わずに、かつ一緒に生徒会活動が出来るというわけだ。
出来れば副会長がいいが、とにかく生徒会メンバーにさえ入れば・・・・!!
「藍沢・・・・・・・・おまえ頭いいな」
クラスが違っている今、このチャンスに懸けるしかない。
「よし、やってやろーじゃねーか」
というか副会長を目指すってどうやるんだ?!










「困りましたね」
「・・・・・・・そうね」
光彦の声に哀が答える。
二人で黒板を眺めながらため息をつく。
黒板には白いチョークで哀の名前とある人物の名が記されていた。
「灰原さんが会長候補なのは分かりますけど、松田君まで・・・・・」
「彼、思いっきり立候補してたものね」
哀の推薦ならともかく、立候補なら止められない。
「A組からはやっぱりコナン君ですかね?」
「・・・・・・・・・・・・江戸川君と争うことになるのか」
あまりいい気分はしない。




















「よぉ、江戸川。おまえも会長候補なんだって?」
前方から嫌なオーラが出ていると思ったら、
今イチバン(というかいつも)会いたくないヤツがいた。
「・・・・・・・・・・まぁな」
軽く流して、さっさとその場を立ち去ろうとする。
「残念だったな。今年の会長・副会長はG組の二人で決まりだからな」
相変わらず言い方がいちいち癪に障る。
「会長は灰原だろ?おまえじゃ勝てねーよ」
「・・・・・・・灰原さんが会長になるのは必至だからな。オレは副会長の座を頂くよ」
『頂くよ』ってさも当たり前のように言ってんじゃねーよ。
「残念だったな。今年の副会長はもう決まってんだよ」
だから言ってやったよ。
「・・・・・・・・・?」
松田の怪訝そうな顔を見るのが、いつしか快感になっていた。
「江戸川コナンさ」




















「では一人ずつ三分間スピーチをして頂きます」
一週間後、生徒会役員選挙が行われた。
候補者たちが次々とスピーチ練習をしている中、コナンは独り焦りまくっていた。
今からこんなので大丈夫だろうか。
藍沢にカンニングペーパーを作ってもらったはいいものも、
全校生徒の前で読み上げると思うと緊張が走る。
「あまり紙見ずに、前向いてしゃべるんだぞ?」
「・・・・・・・・無理」
「大丈夫、オレが作ったカンペに間違いはない」
藍沢は自信たっぷりに言った。
確かにカンペに間違いはないだろうが、自分が間違えそうである。
そんなオレたちの会話を横目に見て哀が微笑した。
「江戸川君、とちらないようにね」
「・・・・・・・・・・ヘイ」
他の候補者たちは落ち着かないが、さすがに彼女は余裕そうだ。
「ふん、カンペ見ないで出来ないのかよ」
こんな嫌味を言ってくるのは、もちろんこの人。
そういうコイツも出番がもうすぐでそわそわしている。
「おい、松田出番だぞ」
「あ、はい」
教師の声に松田が返事をし、舞台に出て行く。
手と足が同時に出ていた・・・・・





緊張している割には、松田のスピーチはまぁよかった。
ただ理想論を述べているだけにも思えたが。
『僕が生徒会長になったら、学校を変えます』
なんてどう変えてくれるというのだろうか。
(だいたいコイツが生徒会長になったら何かすごいことになりそうだぞ?)
もしかしたらうちの学校に『学校へ行こう』の未成年の主張がやってくるかもしれない。
松田ならV6を連れてくることぐらいやりそうだ。
そんなことを思っているうちに、哀のスピーチが始まった。
三年生の席から「哀ちゃ〜ん」などという声があがる。
面白くない。
声援を受け彼女は少し微笑した後、非常にリラックスして話し始めた。
彼女の話は実に的を得ていて、説得力があり皆納得していた。
さすがは有名人。
会長は彼女に決まりそうだ。
そんな中、次々とスピーチは終わっていく。
終わった候補者たちはほっと胸をなでおろしている。
うちのクラスの女子の田辺さんが戻ってきて、いよいよ・・・・・
「おい、江戸川次だぞ」
「・・・・・・・・・・・・・は、はい」
やはり自分も手と足が同時に出ていたのであった・・・・・・・・





辺りは、当たり前だが静かである。
自分の声が震えそうなのが分かる。
全校生徒ってこんなに人数いたっけ?
歩美と光彦の姿が見える。
元太はスピーチなど聞いていないのであろう。頭を下げてぐっすり眠りこけている。
落ち着け、自分。
「・・・・・・・・・・・この度A組から立候補しました、江戸川コナンです」
そう言ってお辞儀をしようとした瞬間、




















ゴスッ




















「今日のスピーチは最高だったわね」
彼女の慰めの言葉が胸に突き刺さる。
お約束通りのスピーチでつかみはバッチリ。
・・・・・・・・・・・お嫁にいけないかもしれない。
マイクに当たった額をハンカチで冷やしながら、とてもとても哀しくなった。
「・・・・・・コ、コナン君・・・・・結果は明日張り出されるそうですよ」
光彦が笑いを堪えながら、親切に教えてくれたのだった。










<開票結果>

会長…灰原哀(G組)   209票
副会長…江戸川コナン(A組)  91票
副会長…松田英雄(G組)  88票
書記…斎藤弘子(D組)  86票
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「すごい・・・・・灰原さんダントツだ」
「どの候補者も近づけませんでしたね」
歩美と光彦が隣で結果について話している中、
「・・・・・・・・・・・・よかったじゃない、江戸川君」
ぶっちぎりで会長に選ばれた彼女が微笑みながら声をかける。
「あ、あぁ・・・・・・・おまえもおめでとう」
「ありがと・・・・貴方はあのスピーチが効いたんじゃない?」
言うことはいちいち可愛くない。
それにしても、自分でも本当に信じられない。
自分が副会長になんかなってしまっていいのだろうか。
ここは素直に喜んでおこう。
同じく副会長に選ばれた松田が邪魔だけど。
その松田はよっぽどオレに負けたのが悔しいのか、朝から姿を見ない。





「新生徒会の最初の仕事は文化祭だそうよ」
「そっか・・・・・もうすぐ文化祭か」
「先生が職員室に来るように言ってたわ・・・・・行きましょ」
「あぁ・・・・・・」
彼女の背を追いかける。
そっか。オレ副会長になったんだ。
改めて実感した。
そうしたら嬉しくなって、彼女の手をとって走り出したくなった。
「あ、ちょっと・・・・江戸川君?!」





これから二人で(+他にもメンバーがいるが)新しい生活が始まる。
離れていた心が少しだけ近づいた気がした。
まずは文化祭!!
「絶対成功させような」
走って職員室に行きながら後ろの彼女に振り返る。
オレに引っ張られたままの彼女が笑った。
「・・・・・・・・・うん」




















帝丹中学文化祭につづく



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