文化祭後日―「僕らはここにいる」






文化祭以来、オレ達は校内一有名人になってしまった。
灰原には「貴方があんなことするからよ」と怒られたが、
これはこれで気持ちがいい。
変な噂もそのうち消えるだろう。
文化祭の翌日である今日は大掃除である。
準備中と同様に、あちこちから声があがり活気付いている。
どんどんごみ袋の数が増えていく。
毎日放課後に残って作り上げたものが、一日にして消えてしまうのは名残惜しいが
想い出はそれぞれの心の中でしっかり生きている。
だから今、ここで生きることが出来るのだ。
「お疲れさんっ」
急に頬に熱いものが走り、振り向くと
そこには缶コーヒーを差し出した藍沢の姿。
礼を言って受け取る。
もういつの間にかホットの似合う季節になってしまった。
「そういえば、おまえマジック出来たんだな?」
「ん?」
何のことだと言わんばかりに、ヤツは首をかしげた。
「後夜祭のやつだよ・・・・・なかなか格好良かったな」
「オレ、B組のリカちゃんと抜け出してたから後夜祭には出てないぞ?」
「・・・・・・・えっ?」
じゃぁ、あの場にいたのは・・・・・・・
考えるのは止そう。
ヤツは神出鬼没のなだから。

























「江戸川先輩・・・・・・」
ごみ袋を引きずりながら声をかけてきたのは、小宮山かなえであった。
「文化祭お疲れ様です・・・・・・後夜祭も楽しませてもらいました」
眉を下げてクスリと笑った。
「あ、あれは・・・・・・・・・その・・・・ごめん」
「謝るんだ?・・・・それって衣装のことですか?」
「それもあるけど・・・・・・・・」
いつの間にこんな口が達者になったのだろう。
まるで自分が悪いかのように責められている。
いや、実際悪いんだけど。
「くれなかったからって、別にまたしつこくするわけじゃないですからね?」
しつこくされた覚えはないが、
彼女は割とそういうことを気にするタイプなのだろう。
「心配しなくても、もう先輩のことは諦めましたから」
「・・・・・・・・・・・」
きっぱり絶縁宣言をされたようだ。
これも彼女なりの精一杯の強がりなのだろう。
無理に笑う彼女が痛々しい。
「その衣装・・・・・・本当にあげたい人にあげるんですね」
肩から下げていた古畑の衣装を見て、彼女が呟く。
「あぁ・・・・・・・」
これからある人物に渡しに行こうと思っていたものである。
「知ってたんです、本当は。先輩の好きな人」
赤髪の美人で賢い、我らが生徒会長。
敵うはずないって、最初から分かってた。
「最後の想い出作りに、先輩の衣装がどうしても欲しかった」
「・・・・・・・・・・・・・・」
『ごめん』と謝っても余計に彼女を傷つけそうで、黙っていた。
「じゃぁ・・・・・・さよなら、江戸川先輩」
彼女はくるりときびすを返し、早足で去っていく。
その後ろ姿に、もう迷いはなかった。
「さよなら」
大丈夫。
彼女はもう大丈夫。





















さよなら、私の初恋。
「やば・・・・泣きそう」
慌てて指先で払う。
大丈夫、
私はもう大丈夫。


































「灰原っ・・・・・・」
両手で抱えたダンボールに潰されそうになっている彼女を見つけ、
慌てて助け起こし、焼却炉まで運んでやる。
「あ、ありがと・・・・・・」
素直に礼は言ったが、顔色を見るとどうやらまだご機嫌ナナメらしい。
「ほらよ・・・・・・・」
そう言って、文化祭のとき使っていた古畑の衣装を彼女の肩にかける。
「・・・・・・・・・・これ・・・・」
彼女の大きな瞳がもう一回り大きくなる。
「おまえに受け取って欲しいんだよ」
彼女に持っててもらいたい。
「・・・・・・・・・汗臭い」
言うことはやはり可愛くない。
うるせーと抗議し、
「じゃぁ、大事に取っとけよ?」
自分のクラスの片付けがまだあるので、走って去る。
口うるさくて素直じゃないけれど、
そんな彼女が愛しいんだ。
だからいつまでも一緒にいたい。





「あいつー・・・・・・・・」
彼の匂いがして、嬉しくて衣装に顔をうずめた。

























「・・・・・・・・コナン君」
ごみ袋をまとめているところに声をかけてきたのは歩美だった。
その後ろには小田さんと松田の姿もある。
「どうしたの?珍しい組み合わせで」
「私達、貴方に挑戦状を叩きつけに来たのよ?」
「はっ?!」
小田さんの言葉に唖然とする。
「帝丹賞とベストカップル賞取ったからっていい気になるなよ?」
照れ隠しのように松田は吐き出した。
後夜祭のときに背中を押してくれたのは、
どうやら思わず灰原を抱きしめてしまった代償らしい。
言い方は嫌味くさいが、コイツも案外いいヤツなのかもしれない。
「後夜祭で『おもしろ仮装賞』取ったからいいじゃないか」
と、からかうと怒鳴られた。
「オレはまだ灰原さんを諦めたわけじゃねーからな」
捨て台詞のように吐き出して、悔しいのか向きを変えて廊下を走り出す。
「今回は灰原さんに先越されちゃったけど、歩美だってコナン君のこと好きだから」
後夜祭で『ミス仮装賞』を取った歩美が言うと、
「そうよ、まだ私達にもチャンスはあるわ」
そうそうと、同じく後夜祭で『衣装賞』を取った小田さんも口を挟む。
「・・・・・・・・・・・・・」
開いた口が塞がらないというのは、まさにこのことだろう。
というか、ニ人共オレのこと好きだったわけ?!
「歩美、まだ諦めてないから覚悟してね」
「あら・・・・私だってまだ諦めてないわよ?」
次々と飛び出す彼女達の爆弾発言に絶句する。















「マ、マジ?!」
――――女なんか嫌いだ。


































で、結局投票一位のクラスはどこだったかって?
何故か三年C組がやった『明智小五郎ショー』だったんだってさ。
見に行ってないから分からないけど、とにかくすごかったらしい。
けれど校長からのご褒美はお約束通り、参考書だったとか。
とんだ文化祭だったな。








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