文化祭当日・後夜祭―「仮装でGO★」






「ってことで始まりました!後夜祭です」
司会者のオレの声に、在校生全員が声を上げる。
隣の彼女は消え入りそうに意識が飛んでいるので、
オレが一人でしゃべりまくっている。
『ついでだからおまえらニ人共あのままの衣装で出ろ』
と担当教師から言われたのでコスプレ格好で来たが、
周りが皆仮装なので意外にも目立たない。
「コナン君・・・・似合う?」
歩美の白雪姫はとてもよく似合っていた。
髪型が同じなので、ヅラをかぶらなくてもいいらしい。
・・・・・・・何とも羨ましい限りだ。
ステージでは小田さんがあのコスチュームで歩いている。
モデルのファッションショーのようにポーズを決めて。
どうやらあの格好は「かぐや姫」を意識しているそうだ。
「・・・・・・・・本日はお招きありがとうございます」
その声と共に、怪盗キッドが現れた。
場内から黄色い悲鳴が響く。
やはりどこに熱狂的なファンはいるもんだ。
「あぁ・・・・・・藍沢か」
可哀相に・・・・・・ヤツはニセモノだ。
結局、オレにフラれたヤツは独りで出ることにしたらしい。
ステージで結構大掛かりなマジックをし始めた。
(あいつ、マジックなんか出来たんだ)
人は見かけにはよらないものである。
しかし、何か様子が違う。
「気のせい・・・・・・か」
お祭りなので深くは考えないことにした。
さっきまで灰原を抱きしめていた松田のヤローは、
前にも言ってた通り、ピーターパンの格好でワイヤーアクションを披露していた。
隣にはクラスの子だろうか、ティンカーベルまで連れてきていた。
というか、よくワイヤーの許可が下りたな。















十六組の出場者全員のパフォーマンスが終わり、審査員達の話し合いが始まった。
結果が決まるまで舞台裏へと下がる。
彼女は先ほどから一言もしゃべらない。
「灰原・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
気まずいのか、目を合わそうともしない。
その態度に腹が立った。
「・・・・・・だいたいおまえ、スキがありすぎるんだよ」
だから他の男に抱きしめられたりするんだ。
傷つけたくないのに、出てくる言葉は刃のよう。





「貴方だって!!」
その言葉にカチンときて、思わず声を荒げる。
「オレだって何だよ?」
彼は拳で壁を叩いて、そのままあたしを通せんぼする。
瞳は真っ直ぐ向けられて、あたしはその瞳から離れられない。
彼の顔が近い。
こんなに近くで見たのは初めてだ。
(睫毛長い・・・・・・)
こんな時でも見とれてしまう。
貴方の腕も、声も、その睫毛の一本さえも愛しい。
「あの子に衣装あげたりしないでよ・・・・・・・・」
振り絞ってかすれた声で言う。
「何でおまえそのこと・・・・」
「ズルイよ・・・・・衣装あげちゃやだよ・・・・・・」
分かっているのに。
こんなのただのワガママなのに。
不覚にも涙が出てきた。
独り占めしたい。
願うのはそれだけ。

























『・・・・・・・・先輩、文化祭が終わったらその衣装くれませんか?』
文化祭前日の彼女とのやり取りを思い出す。
『衣装くれたら、もう江戸川先輩と関わりませんから・・・・・・・』
泣いていたのだろうか。
下を向いたまま、彼女はこう続けた。
オレはというと、傷つけないように言葉を選んで
『ごめん・・・・・・これはあげられないし、君の気持ちにも応えてあげられない』
自分の気持ちにけじめをつけるため、酷なことだけど正直に言った。
『他にあげたい子がいるんだ』
ごめんと何度も謝っておいた。




















「じゃぁ、あげない」
「・・・・・・・・・・・・・・えっ?」
少年のようにそっぽを向いて、拗ねた彼の横顔。
「衣装は誰にもやらねーよ」
「・・・・・・・・・・・江戸川君・・・・」















「ここで特別参加!エントリーNo.17!我らが生徒会長と副会長!!」
松田がマイクをオレから奪い、大声で叫んだ。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
「「はっ?!」」










突き飛ばされて、いきなりステージに上がったオレ達。
客席からはたくさんの拍手と、歓声。
「いいぞー!コナン!!」
「灰原さ〜ん!!」
元太と光彦の姿が見えた。
慌てて舞台袖に視線を投げると、
『いいから何かやれ』と書かれた画用紙を掲げる松田の姿が。
「何かやれって言われても」
「・・・・・・・・・・・・・江戸川君」
彼女はゆっくり名前を呼び、不安そうに見上げた。
まさかここで古畑コナ三郎をやるわけにもいかなく、途方に暮れる。
とりあえず泣き止まない彼女にハンカチを差し出した。
「女って面倒なもんだな」
ハァーっと大きく息を吐く。
「そうよ・・・・・・そんな中途半端な気持ちで弄ばないでくれる?」
ハンカチを受け取り涙を拭いながら、彼女は怒ったように抗議する。
「弄んだつもりはねーよ」
ただ、知らないところでいろんな人を傷つけたのは確からしい。
いろんな人を傷つけてまで欲しかったのは、君の心。
「・・・・・・・オレはおまえしかいらねーよ」
はき捨てた言葉に、みるみる彼女の頬が紅潮していく。
「な、何言ってんの?!」
素っ頓狂な声が響く。
急にステージ上でケンカを始めたニ人に、場内からどよめきが起こる。
「あたし可愛くないし、頑固だし、冷たい言い方しか――――」
言葉は途中で遮られ、彼女の唇は彼の唇でふさがれた。
キッド登場のときよりも会場内に大きな歓声が響いた。
女の子達はキャァキャァ言い合い、手で目を覆い隠す者もいた。
ヒューヒューとヤジを飛ばす者もいる。
オレ達はそんなことはかまわず、そのまま時を止まらせた。
唇がゆっくり離される。
「なっ・・・・・・・・・」
あたしは混乱しながら、指で自分の唇を押さえる。
何が起こったかよく分からない。
ただ分かったのは、照れて吐き出した彼の言葉。



引力のように惹かれ合い、磁石のように反発し合っても、
「それでもオレはおまえといたいんだよ」




















「ってことで最優秀賞は我らが生徒会長&副会長コンビで決定!!」
松田の声に、またもや歓声が上がった。
おめでとうございます、と一年生の会計の女の子が賞状をくれた。
こうして本人たちも何が何だか分かってないまま、後夜祭は幕を閉じた。
「では皆さん、また来年!!」
そう言った松田のはじけた笑顔で、第二十六回帝丹祭の幕は下りた。


・・・・・・司会はいつの間に交代したのだろう。








NEXT PAGE→