文化祭ニ日前―「恋は盲目、君の目はフシアナ」






「ちょっと江戸川君!これこっちでいいの?」
「おい!これってどこ運ぶんだ?」
「江戸川君、やっとヅラが届いたわよ」
「江戸川〜」
「江戸川君ー!!」





「うるせーよ!テメーでやれ!!」





文化祭ニ日前。
今日から一日中文化祭準備が出来る。
そんなわけで朝からてんやわんやの大騒ぎ。
皆さんオレを頼らないでくれ。
頼るならクラス委員のくせに隣でのんびり茶啜ってる藍沢に全部やらせろ。
「江戸川く〜ん!!」
「うるせーな!今度は何だよ?」
「生徒会長が呼んでる」
!!!!!!!
「早くそれを言え!!」
生徒会長といったら、あのアリスじゃねーか。
教室に運び込まれた大道具をすり抜け、彼女の元に走る。
「・・・・・・・・・A組は随分賑やかね」
後ろのドアのところによりかかって待っていた彼女は、少し冷淡に言った。
「・・・・・・どこもそうだろーが」
そんな彼女は今日はアリスの格好をしていなくて、オレは安心した。
「クラスの仕事もいいけど生徒会の仕事もね」
「へいへい」
どうやら例の仮装大会についてらしい。
生徒会室にニ人で歩いていく途中、こんな話を聞いた。
「吉田さん、E組の男の子に告白されたそうよ」
「ふーん」
愛想が良くて人見知りしない歩美ならモテるのも納得がいく。
あぁいうタイプは誰からも好かれるのだろう。
「ふーんって随分無関心ね」
「・・・・・・おまえは気になるのかよ」
彼女こそ、こういうのに一番興味がなさそうだ。
「気になるわよ・・・・・・・・友達だから」
『友達』のところに軽くアクセントをつけて、彼女は歌うように言った。
「友達ねぇ」
「・・・・・・・・・・・・何よ?」
ニマニマして隣を見ると、赤面した彼女の姿があった。
素直に歩美のことを「友達」と言える彼女がたまらなく愛しい。
「吉田さん・・・・・どうするのかしら」
「どうもこうもしないだろ・・・・・なるようになるさ」
これはオレらが決めることではない。
彼女自身が考えて決めることである。
「副会長さんは冷たいのね」
「この前はズルイって言われた。オレの評判は最悪だな」
「そうね、最悪だわ」
彼女は眉を下げてクスリと笑った。










「ってことで、後夜祭仮装大会参加者は十六組ってことで確定です」
個人・グループ合わせて十六組出場するらしい。
物好きもいたものだ。
その中に自分の名前があることを忘れちゃいけないが。
「生徒会メンバーも結構出ますね」
一年生の会計の女の子がメンバーリストをみて声を上げる。
「副会長さんも出場するんですか??」
「あぁ、まぁな」
無理矢理HRで出場させられることになったのは言わないでおいた。
冗談じゃない。
これでは古畑役を決めたときと同じじゃないか。
「フン・・・・君も出るのかよ?」
「『も』ってことはおまえも出るのかよ?」
またコイツと争うことになるのかよ。
しかしこっちはかの有名な古畑と怪盗キッドである。
負けるわけにはいかない。
「で、予想に反して参加者が結構いるからもっと賞を増やそうと思って」
灰原の声に、ニ年生の書記の子がホワイトボードに候補を書いていく。
『帝丹賞』『ベストカップル賞』『ミス仮装賞』『ミスター仮装賞』『おもしろ仮装賞』
『審査員特別賞』『似合いすぎで賞』『衣装賞』・・・・・・・・・・
「賞多すぎだよ」
どうやら『帝丹賞』が最優秀賞のようだが、それにしても多すぎである。
「せっかく出てくれるんだから皆に賞をあげたいじゃない」
そういうものだろうか。
「まぁ、『帝丹賞』はオレのピーターパンで決まりだけどな」
ピーターパンをやるらしい松田がえらそうに言う。
こいつはいつでもえらそうだ。
「生徒会の人間が最優秀賞取ったらつまらねーよ」
オレたちは言わば、盛り上げ役である。
というか、賞品はおまえが持ってくるんじゃねーのかよ。
「まぁいいんじゃない?お祭りなんだから・・・・それより司会はどうなってるの?」
司会の件は担当教諭が素晴らしい人選をしてくれるというので任せてあるはずだが、
一体どんなヤツが出てくるのだろうか。
「司会者は会長と副会長の江戸川君で決定じゃないの?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「「はいっ?!」」
一秒遅れで、ニ年生の書記の子の問いかけにニ人の声(+松田)が重なる。
「あれ?先生から聞いてない?生徒会主催なんだからニ人が司会やれって」
「「・・・・・・・・・・聞いてません」」
確かに当日の台本の司会の欄にオレたちの名前が書いてあった。
・・・・・お願いです。連絡ぐらいして下さい。
そしてちゃんと承諾を取って下さい。
何故当事者のニ人が知らなくて他の人が知ってるのでしょう。
「・・・・・・・・・やるしかないわね」
「そうだな」
これから司会を探すとなると厄介である。
ニ人で司会頑張りますか。
「・・・・・・・・あ、司会なら仮装大会出れねーじゃん」
ノリ気だった藍沢には悪いが、一人で出てもらうことにしよう。




















「・・・・・・・・・・・・・灰原さん、どうだった?」
その日の帰り道。
エントランスではまだ数人の生徒が残っていて、
校門に飾る大きな看板を作っていた。
ジャージに着替え、楽しそうに色を塗っている子たちは皆、生き生きとしていた。
いつの間にか日はすっかり暮れてもう外は真っ暗である。
ニ人が並んで帰っても、影は見えない。
言いづらそうに訊ねてきた彼女に“結果”を伝える。
「・・・・・・・彼、特に何も言わなかったわ。貴女次第だって」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうだよね・・・・・・・・・ありがとね、協力してくれて」
隣の彼女は哀しそうに少し微笑した。
あたしは彼女の気持ちを知ってるから、
知ってるからこそ、そのほほえみが痛々しく思えた。
「でもね、E組の子に告白されたのは本当なんだ」
「えっ・・・・・・・?!」





冗談だと思っていた。
きっかけはほんのちょっとしたこと。
『コナン君の気持ちを確かめたいの』
頼まれて付き合った、軽い賭け事。
賭けたのは彼の心。
『歩美がE組の子から告白されたってことを伝えて欲しいの』
彼女がその後の彼の反応を知りたいというから協力しただけ。
でも正直、あたしが一番反応を知りたがっていたのかもしれない。
てっきり告白されたのは冗談だと思ってたから。
本当のことだったんだ。
これをきっかけに、彼の本心が知りたかったんだ。
必死なんだ、彼女も。
「・・・・・・・・・・で、どうするの?」
彼女は首をすくめて、
「断った。全然知らない人だったし、それに・・・・・・・・・」
あたしの目を真っ直ぐに見つめ、




















「それに、歩美にはコナン君しかいないから・・・・・・・」




















「・・・・・・・・そうだね」
あたしにも、彼しかいない。
『友達』の恋のキューピッドするなんて馬鹿みたい。
自分の気持ち、押し殺してまで。
でも彼女には言ってはいけない。
あたしのこんな気持ちだけは。



「でもコナン君って誰にでも同じような態度取るからな・・・・・」
「・・・・・・・・・そうね」
だからズルイのよ。
誰にでも優しいから、誰からも頼りにされる。
誰からも頼りにされるから、自然と女の子たちも集まる。
あたしはそんな些細なことで嫉妬するんだ。
そんなあたし、馬鹿みたい。
「何であんなヤツ好きになっちゃったんだろ」
「恋は盲目ね」
彼女に言った言葉が自分にも当てはまる。
あたしの目はフシアナだわ。
あたしこそ、何であんなヤツ好きになっちゃったんだろ。







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