雨あがる
「なぜお前はそんなに強いのだ?」
そう聞かれると、一人の浪人はこう答えた。
「最初は飯を食うためでした。」
浪人の話では、
少し有名な剣術道場へ出向き、勝負を挑む。
散々自分は強いことを強調し、師範代以上の人物と試合を行うのだ。
試合を行いしばらく間合いを計ると、突然土下座して
「参りました。私ではあなたにかないません。」
という。すると相手は気分が良くなってぜひ奥の間へと連れて行ってくれて
ご飯をご馳走してくれるのだ。
しかし、いつものとおり有名な道場で同じ作戦を行ったとき、
いつ土下座をしようかと考えていたら、突然相手が土下座をした。
「参った」
浪人は不思議に思ったが、道場主は奥の間へ案内してくれたのだ。
そこで浪人は今まで自分のしてきたことを説明すると
道場主は大笑いした。
「君は最初から勝つ気がなかった。欲がない。だから私は君に勝てなかったのだ。」
そしてその道場主は「本当に強くはならないか?」
と誘われ、剣術を学んだというのだ。
話を聞いていた藩主は笑っていた。
そして、今のその浪人は欲を持たない生活を続けていたのだ。
女房と二人で旅をしている浪人がいた。
だが、次の国へ入るには川を渡らなければならないが、
数日にわたって雨が降り続いているため、
川辺の宿屋に数日間閉じ込められることになる。
ほかにも行商へ向かう人々が川を渡れずに困っていたのだ。
だんだん、いらいらしてきた人々は喧嘩をし始めた。
それを見ていた浪人は少し出かけてくると言い、帰ってくると
酒やご馳走をたくさん持って帰ってきたのだ。
「みなさん。このまま待っていてもいらいらするだけです。みなさんでぱーっと騒ぎましょう。」
そういうと先ほどまでしかめっ面をしていた人々はみな笑顔で騒ぎ始めた。
女房のいる部屋へ戻るや否や、浪人は土下座した。
「あなた・・・また賭け試合をしたのですか?」
「すまん。」
その土下座している姿を見て女房はくすっと笑った。
次の日、浪人の元へ藩の侍が尋ねてきた。
それは昨日賭け試合をした相手の上司であった。
その腕を買い、藩の剣術指南役をやらないかという誘いであった。
しばらく職もなかった浪人は喜んで藩主へ会いに行くのであった。