海の上のピアニスト

船を出て行こうとするマックスに1900は話しかけた…。
「なぁ、マックス。僕が地獄の門へ行ったらどういう風に言われるかな?」
「次の人名前は?」「ナインティーンハンドレットです」
「なんだって?」「いや、だから1900です。」
「名前が載ってないな。」「かもしれません。僕は船の中で生まれたから正確な名前がないんです。」
「ほう、そうだったか。しかし、君左腕がないな。」
「ええ、実は船が爆弾で木っ端微塵にされたのでその時なくなったのでしょう。」
「う〜ん。代わりの腕をあげたいんだが、ストックが右腕しかないな。」
「この際両方右腕になってもしょうがないです。」
一人で芝居をしているとマックスが思わず吹き出した。
「笑い事じゃないぞ。マックス。両方右腕になったらどうやってピアノを弾けばいい?」
涙をこらえながらマックスは再び笑った。そして振り返り通路へと出て行った。
追い打ちを掛けるように1900の声が聞こえた。
「なぁ、マックス!両方右腕のピアノってどんな音楽を作り出せるのかな?」


中古楽器屋に頭のはげ上がった中年男性が現れた。
彼の名はマックス。しがないトランペット吹きであったが、ついに金が底を尽き、
愛用のトランペットを手放すことになってしまったのだ。
店の主人に渡す前のマックスは「一吹きだけさせてくれ」と言ってある音楽を吹き始める。
誰も知らないはずの音楽だったが、店の主人はその曲を聴き蓄音機を急いでならすと同じ曲が流れ始めた。
マックスは驚き「それをどこで?」と訪ねると昔マックスが働いていた船から引き上げられたピアノの中に隠されていた
レコードの原盤だったのだ。
船が爆破されると知ったマックスは急いで船へ向かうのだ。
そこには誰も知らない天才ピアニストの存在が語られることになるのだ。
ピアニストの名はナインティーンハンドレット。ヨーロッパとアメリカの豪華移民客船の中にあるパーティルームのピアノの下で
拾われたのだ。彼を拾ったのは船の燃料である木炭を燃やしている黒人だった。
移民が捨てていった子供であり、名前すらわからなかった彼は1900年に拾ったので名前が1900だった。
だが、彼を育てていた黒人は事故で死んでしまったのだ。哀しみの中彼は誰もが寝静まった中、
触ったこともないピアノを弾き始める。それは誰に教わったわけでもないのに。
そして、彼は青年になりパーティルームでのピアノ弾きを任されているのであった。
船に新たに職員を募集し、そこで乗ってきたのが後の大親友となるトランペット吹きのマックスだった。
マックスは幾度となく1900を船から降ろし一緒に稼ごうと持ちかけるが、彼は陸が怖いと言い船を最後まで下りなかったのだ。
「ピアノの鍵盤は88で構成されている。しかし、陸は鍵盤が無限にある。どこから始まってどこで終わればいいのかわからない。」
それ以降マックスは1900を陸に降ろそうとは考えなくなった。
レコードの原盤は1900が作曲した曲であったのだ。

船の爆破、そして1900。マックスは1900は爆破予定されている船の中にまだいると確信していた。
中古楽器屋の主人へ思い出話をし、マックスは必死で船の中を探索するのであった…。