ロハスに想う
 2005年頃からロハスという言葉が、メディアに登場し流行語になりました。しかし、ロハスなる言葉の意味合いは余り熟慮されず、言葉だけが独り歩きしているようです。何らかの理由でロハスに関心を持った人々は、ロハスの意味合いについて調べます。そして、以下の記述を発見します。

 「LOHASとは、Lifestyles Of Health And Sustainability(健康で持続的なライフスタイル)の頭文字をつなげたもので『自分自身が健康であること』『自然環境が持続可能であることを可能』にする暮らし方の総称。アメリカで2000年に発売された本のなかでロハスな人びとの存在が報告されたのがその始まり」

 この文面から「健康に関心があり、地球環境を保全したいと考える人々のこと」をロハスと理解します。でも、分かったようで分かりません。いまさら取り上げる程の言葉ではないとも思います。昔から健康に留意する人は多くいます。ましてや、地球環境を汚したい人などほとんどいないでしょう。拡大解釈してしまえば、ロハスとは人間そのものと解釈出来ます。ロハスはどうにでも解釈出来る「曖昧」な言葉です。

 そんな意味合いが「曖昧」な中、ロハスをキーワードとしてビジネスに取り組む企業が多く出ました。ファッション雑誌では、自然素材を用いた服を「ロハス系」と評したり、アロマテラピー製品の販売文句は「ロハスを楽しむ」と表現するようになりました。このようにして、ロハスは俗化され、企業が自らの商品やサービスを売り込むマーケティング用語として使われるようになりました。そして、企業が提案する「ロハス系商品/サービス」に、多くの消費者が飛びつくようになりました。ロハス層のバイブルと言われる雑誌「ソトコト」の別冊「LOHAS/BOOK」では、例えば以下のような人をロハスピープルとして紹介しています。

「車は『エスティマ・ハイブリッド』。3世代で国内旅行するために購入しました。子供が独立したらBMWに乗りたい。週末には、家族でビュッフェ・スタイルの自然食レストランへいくことも(30代男性)」

「ファッションもその日の気分で毎日変わります。洋服は、渋谷・原宿の古着屋やセレクトショップで、靴はスニーカーが好き。BEAMSやユナイテッドアローズはいいと思うけれど、大手有名ブランドにはあまり興味がありません(20代女性)」
(LOHAS/BOOK「ロハスな人の紹介」より)

 ここから読み取れるのは、ロハスピープルは購買意欲は強いが、有名ブランドだから選ぶというのではなく、自らの感性を信じて選ぶということです。また、素材や環境にこだわり、多少高くても質がいいものを選択します。ロハスの説明としてよく「エコとエゴの両立」と言われます。人間である限り「人よりいいモノが欲しい」という欲求は止められない。でも地球環境を汚したくないから「エコに配慮した商品」を選ぶのがロハスという訳です。

 しかし、一歩立ち止まって考えなくてはいけないと思います。

 現在、地球は温暖化の一途を辿っています。このままでは2030年頃には、工業化以前の状態と比較して、2℃平均気温が上がるといわれています。これは地球の生態系に多大な影響を及ぼします。最近の梅雨末期に見られる記録的豪雨は、温暖化の影響と言われています。アル・ゴアの「不都合な真実」を観たとき、多くの人は人類の生き方に不安を持ったことでしょう。

 また、私たちが口にする食品の安全性に疑問符がついています。BSEが発生したとき、人々は「安全な牛肉を確保せよ!」と叫びました。しかし、牛肉輸入問題は、いつの間にか「食の安全(農業)」の問題から、「経済問題」にすりかわりました。流通業者は「米国牛肉の輸入を早期再開しなければ、企業がつぶれる」と訴えます。消費者も「早くアメリカの牛肉を食べたい!」と言います。

 わたしたちは、今の幸せを享受する為に「当たり前にしていること」が、私たちの未来に対して「負の遺産」を築いていることをどれだけ深く考えているのでしょうか?現在のロハスブームは、それに対する解決策を提示出来ないばかりか、環境悪化をますます促進させているようにも思えます。

 たとえば、石油などの化石燃料を使用しない商品を「地球にやさしい商品」として盛んに宣伝されています。化石燃料から植物燃料に切り替えることで、カーボンニュートラルの原理によって、大気中のCO2量は変化しないといわれるからです。しかし、一旦伐採、燃焼された植物は元には戻りません。伐採された跡地に苗木を植えるにしても、それはある場所からある場所へと、苗木が移動したに過ぎません。

 明白なのは、私たちは欲求(エゴ)に任せて消費活動を続ける限り、地球環境の保全は図れないということです。しかし企業主導によるロハスの論理は「地球にやさしい商品」を販売することは出来ても、消費者に対して「消費活動を抑制すること」を働きかけることは出来ないのです。

 わたしは企業主導で牽引しているロハスでなく、市民による「持続可能な社会にむけた運動」としてのロハスに価値があると考えます。このサイトを通じてひとりひとりが「持続的な社会」について考えるきっかけになってくれればと思っています。

2006年7月某日
管理者@slowtrain
[参考図書]
・Lohas/book
・日本をロハスに変える30の方法
・家族に伝える牛肉問題
・街角のエコロジー
・不都合な真実

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