実親図鑑
実親図鑑

おもとの実生は,実親とよばれる種子をとるための
おもとがあります。
明治・大正から昭和と長い間に、先人達が
それらの中から実績のよいものを選別して
現代でも大切に使われているものもあります。

そして、新しいおもとを作出するために、
日々、実生家は新しい実親の開発や、発見に
努力しています。

図鑑の編集には、系統別の分類や,古典的な
ものから新進のものまで集めなければなりません。

とりあえず、実親の写真集のようなものに
なってしまいますが、実績のあるものを
主体に掲載して、後日整理編集することに
します。


 <==  BO10
 岡山の小野田敏男氏が大福大宝に大判を交配し

 作出した実親。   大福大宝は、愛知県の尾崎清
 一郎氏の大宝で、大宝のF1だそうです。
  
  広い葉に二面があり、葉尺はあまり長くならない。
 実つきは、大宝より多い。メス木として羅紗が良く

 えるがオス木としても評判の良いい実親です。
  
  
   カキガラ錦福==>

 寿冠として命名されるまで、加藤実生(三河の 加藤庄

 氏)として,若い時から素晴らしい羅紗が、この木から

 えて、全国の実生家が注目した実親。
  かなり厚い葉に、甲竜がのり、立ち葉になる。 羅紗

 メス木として、今、人気の実親である。
<==鹿島
 大車の見返しだという人もいる。茨城の内野  安
 平氏が鹿島錦を生やす。長い間、鹿島二面 とよ

 れ、大車によく似た羅紗の実親。     内野翠苑
 氏の打ち出した実生は、鹿島からの 作出のもの

 多い。                   私の「神童」・
 原田浩男氏の「荒法師」・唐澤 邦彦氏の「笹実生」
 などが生えている。縞羅紗 のメス木としては、優

 な実親である。
 大車より全体に、柔らかい印象。竜は3枚に1〜2
 枚にのる。私の鹿島は、竜のりがすくない。
天賜==>
 横浜市の吉本 胖氏が作出した大車のF1。東海錦との
交配で名品『楼蘭』が生まれる。   大車より葉幅がひ
ろく
 現在,最も人気のある実親である

楼蘭・・・・・天賜と  
東海錦の交配で生える

<==東海錦
一見、晃明殿のかかったように見える。やや立ち葉
で、青い木である。岐阜の堀野義人氏から胡麻の
オス木として購入したもので、胡麻斑をふくんでいる
ようです。

自配で胡麻が生えています。

時代物に、同名異品の東海錦があります。
大宝(ラムネ屋)==>
古典的な実親ですが、縞羅紗の実親の    元祖のよ
うな木です。葉の広いものでガシ  の強い実生を作出
することが夢のようで   あった頃に、この大宝によっ
て、八紘錦・   国宝錦を始めとして,現在のような幅
広    の葉に総ガシのおもとが生まれるように    
なった,貴重な実親である。

浅野大宝をはじめ、友染・ラムネ屋・自転車屋・きんこく
大宝(料亭)などが,本性ものと思われ、これらの大宝か
ら優秀なF1が作られた。
 本性の大宝は、仔上げが少なく、花はダンゴ状。仔上
げの良い大宝は、F1ものだと思います。
  
<==丸小
 岡山の小野田敏男氏が発見したオス木。始め
 は、胡麻羅紗作出に使われていた様なので、
 胡麻斑をふくんでいるようだ。 青い木と覆輪
 のものがあるが、どちらも同じもの。

 縞羅紗のオス木として、人気の実親です。
 かなり厚い葉肉があり、中央に高い二面の竜
 がある。
五晃==>
 四国香川県の馬渕茂樹氏の作出。友禅大宝にこの五
 晃を交配して、人気の実生『楽斎』を作出する。  五大
 州に晃明殿をかけてあるので、立ち葉でいかにも晃明
 殿の芸を受け継いている姿である。オス木として使われ
 ているが、縞が良いので、メス木としても期待できる新

 の実親である。
<==大車
 明治・大正時代からおもとの実生の盛んな備中(今
 の岡山地方)の羅紗のメス木。 備中大車とも言わ
 れ、古い実親の名品。
  あまりにも古い品種のため、今では、似たような

 親があって、本性とそれらのF1ものと判別は難し
 い。
  やや、細葉に二面の竜があって、ビリを打つ。縞
 羅紗作出の基本になるメス木である。
  この大車と絶好の好配偶であったオス木が、黄

 丸である。黄金丸は、一時、絶種になったと思われ
 ていたが、埼玉の太田克典氏のところに残されて

 た。
大車の由来 岡山県高梁町といえば、いまでは蘭の本場ということになっているが、明治時代も三十四・五年から四十年にかけては中々おもと培養、殊に実生の研究が盛んだった由で、丁度戦前の三河吉田町地方に匹敵しよう。丁度その頃、高梁町に笹田という人がいて、人々は『大車』やさんと呼んでいた。この笹田さんこと大車やさんの先代は、大のおもと好きであり、実生に熱心の人だった。年々素晴らしい実生を生やして、おもと界では、良い品種が出来ると、備中高梁の「大車」生えといえば、それだけで趣味家は、将来を楽しみに買うといったほどであった。それがいつの間にか「大車」の実生ーー「大車」実生と呼ばれるようになり、この笹田さんの実親が「大車」として、人々から羨望され、ますます名声が高まり、実親といえば、「大宝」とこの「大車」が双璧となった。

                          昭和33年2月おもと通信  45号    車石

永山大宝1号==>
 福島の永山幹男氏の発見になる縞羅紗の成績の良い

 ス木。大宝とは似ていない細葉でやや長い葉に、押しつ
 ぶしたような竜をのせている。実親は、葉にテリのない
 方が良質といわれるが、この木は、少しツヤ・テリがあ

 ように見える。

 
         羅生の松 (羅紗千代田系)
葉肉のある立ち葉。竜はほとんどない。長野県で発見された実親で、羅紗の千代田斑が良く生えている。実生も立ち葉になるが、自配では竜・ガシが出ないので、交配して芸を出すオス木を模索している。
   (この写真の木は、作が良くないので、後日、良い写真と入れ替えます。)
  
双天のオス木

平成17年度におもと協会へ       
 新登録された羅紗「双天」       
のオス木です。
熊本の山田良典氏の実親

実親の名前や交配など、後日
紹介します


田哲園提供
新登録の羅紗(平成17年度) 
            ・・・双天
松月・・・・長野県辰野町の実生家、赤羽安夫
氏が開発した千代田系の実親。
 赤羽氏が作出の「母松」との交配で、斑の明る
い、羅紗千代田が生えている。
羅紗千代田の実親
赤羽安夫氏作出
母松(ボショウ
本体は無芸だが、「松月」との交配で、「学
松」、「松雪」、「翠松」、「彩松」など未登録
でも良い羅紗千代田が出来ている。


田哲園提供





平成17年4月・横浜サカタのタネにて、緑風苑・
田哲園・宝生園・中村園主催で、おもと実生入門
の講座が開かれました。 当日・緑風苑氏が展
示された実親を紹介します。  
     (中には、重複する品種もあるかも知れ
  ませんが・・・)

玄海獅子(左)<==
羅紗と羅紗獅子が生える。 羅紗の実親大宝を獅子にしたような実親である。
        井原口大宝(右)==>
富山の井原氏の愛培されていた『大宝』
    丸小(左)<==
岡山の小野田氏が羅紗のオス木として、愛用し実績のある実親。はじめ、胡麻羅紗の実親としてつかわれたようで、胡麻斑をふくんでいる。 
 覆輪のあるものとないものがあるが、どちらも同じである。
    VA(左)<==
カキガラ錦福と英宝の交配にF1です。まだ、実績はありませんが、オス木として有望だと期待している。
       松玄3(左)<==
松谷千代田に玄海獅子をかけて作出された千代田獅子の実親。これをオス木にして、良い千代田獅子が生えている。
          富士1号(右)==>
佐藤栄一郎氏が松谷千代田に羅紗を交配して
作出。佐藤氏の一連の羅紗千代田作出の実
親。
              W3(右)==>
カキガラ錦福の見返し。
           万野(右)==>
千代田羅紗の実親として、最高の価格で人気
の実親であるが、どんな実生が生えたのか、よ
く知りません。
    蓮田錦(左)<==
埼玉の太田克典氏の棚にあった木。オス木に使ったらと期待している実親。
    玄海獅子実生(左)<==
今年初花の玄海獅子の実生。大葉の羅紗獅子が生えるのではと、期待しています
      丸小返し2号(左)<==
岡山の小野田敏男氏の丸小の実返し。これに玄海獅子を交配して、良い羅紗獅子が九州で生えている。
                NO(右)==>
小野田氏の実返し。  これに大判をかけて、
 『天啓』『天暁』が生えています。
             BC11(右)==>
小野田氏の大福大宝に丸小の交配で作出。
 これを雄木にして、『千里』が生えています。
              英宝(右)==>
岡山の松岡英男氏の羅紗実生の秘蔵の雄
木。厚い葉に甲竜があり、縞は無い青いので、
雄木に使う。
羅紗作出の実績は、素晴らしいものがある。
    浅野大宝(左)<==
 愛知県十四山の浅野常吉氏の大宝。大宝の元祖とも言えるもの。大八州は浅野太宝の実生。戦前から実生一途に50年の浅野氏は、胡麻斑の実生でも、太政鳳・聖光鳳などを作出。今では、貴重な実親。
   友禅大宝(上左右2点)
上の二点は、どちらも友禅大宝であるが、写真
ではチョットわからないが、かなり芸が違いま
す。やはり、実親は名前だけでなく、生えの実
績を見て、棚入れしたいものです。
  宝松4号(左)<==
岡山の清水文夫氏の実親。千代田獅子が生えています。
      カキガラ錦福(右)==>
メス木として、今、最も人気の実親。三河で、『寿冠』が生えてから、実生界で騒がれたもの。その後も、各地で素晴らしい実生が生えている。ぜひ、入手したい実親である。
   BO10左)<==

小野田氏が大福大宝と大判の交配で作出。メス木・オス木の両方に使え、各地で実績があります。
   V晃3(右)==>

小野田氏の作出。カキガラ錦福に晃明殿の交配。
ラシャの生える率は、抜群に良いそうです。
    
サカタのタネで参考展示した実親    松玄3(上)<==
松谷千代田に玄海獅子を交配した実親。これをオス木にして良い千代田獅子が生えています。

   宝松(4号)・・・(右)==>
岡山の清水文夫氏の千代田獅子の実親
佐野口大宝(左)<==
 佐野伝四郎氏のところにあった古典的な大
 宝。
以上24鉢ほど、緑風苑の展示され
た実親から、掲載させて頂きました

大天竜・・・(ラムネ屋大宝F1)三澤作出 ・・・下の写真の実生『天覧』仮名


千代田系の実親・・・
          松谷千代田から羅紗千代田親まで

松谷千代田のこと・・・
実親・松谷千代田は、明治時代に東京浅草蔵前のおもと趣味家、上総屋・前田源太郎が華族・松平某夫人愛倍の根岸松の青葉の割子を譲り受け、培養を重ね改良を加え、そのうち青葉であるが竜のあるものを一本得、これを実親として大切に育てた。それには、もちろん根岸斑のあるなにかが生えるという思惑があったことであろうが、のちに故あってやむを得ず他に譲渡してしまった。

  松谷正太郎はこのことをたいへん残念に思い、一つにはおもとの師である前田源太郎のために、また一つには彼自身のためにも惜しみなく大金を投じ、これを引き取った。
  その後、肥培し結実させては種子を採り、播種を続けるうちに、明治39年になって実生逸品を得た。この実生を「千代田の松」と名づけ誇りとした。しかし、これは一本も繁殖することなく惜しくも枯死してしまった。そして、大正元年に新たに生えた実生に、再び千代田の松と名づけた。

  大正7年、初めて千代田の松の芋吹きを得、その年これを愛知県の高須七郎に金壱萬円で譲渡した。いかに大正成金が輩出したときとはいえ、かたや米価の騰貴による米騒動が全国を席巻していたときのことであるから、世人が驚いたのも当然のことである。

  千代田の松を生んだ実親からその後、生まれたものに宝田の松、祝田の松、日出の松、御賜の松、があり他に瑞穂の松、三光の松、千歳の松などいく種かの逸品が生えている。絶えてしまった実生もあったようであるが、年々生える実生で残しておいたものは、千代田の松が生えた時の姿を基本として、これに劣るようなものは惜しげもなく切り捨てたというから、その数は非常に少ない。それでこそ一連の千代田斑系のおもとに王者の風格が保たれたのである。


  松谷千代田生誕から約100年・・・偉大な先人が残された貴重な実親である。



松谷千代田



 羅紗千代田実親の最高品・・・万野

 羅紗千代田実親・・・松月  (赤羽安夫氏作)
  環松     (佐藤捨男氏作)


 羅紗千代田実親・・・母松(ボショウ)
(赤羽安夫氏作)本体は無芸だが松月との
 交配で、「学松」、「松雪」、「翠松」、「彩松」な

 未登録ながら、すばらしい羅紗千代田がで
きて
 いる。
       (田哲園提供)

明治末期に作出された、松谷千代田は約30年にわたり、大切に培養され、何本かの
名品を世に輩出した。松谷正太郎氏は、60鉢に限定して門外不出とし、それ以上には増殖さ
 れなかったそうだ。   そして、昭和10年ごろに松谷氏は、事業に失敗され、このすべての実
 親を新潟の石油王・中野忠太郎氏に譲られた。そして、、中野氏が急逝されたために、「千代
 田実親」の散逸を憂い、さらに、もうこれ以上の実生の作出は、かえって一連の千代田系の 
 おもとの価値保全にならないと考えて、    昭和14年11月14日
東京板橋の培養所で、大日本万年青連合会会長石川三之助氏をはじめ、石川六兵衛氏ら
多数の萬界有力者の立会いのもとに、そのすべとを神官のご祈祷によって厳粛なる焼却神事
が執り行われました。

松谷千代田の焼却 昭和14年11月焼却の写真


世上では、松谷千代田は、焼却されて世に出なかった筈であるが、或る
古老によれば、焼却前に、中野氏に譲渡されたときに、松谷氏は仲介の
労をとった先代の三光園氏に一本、当時の水かけ管理をされていた人に
退職金代わり、さらに、自分に一本の三本の実親を残されたそうだ。
  のちに、この実親が福島の西山氏などに、わたり、増殖され現在に残
されたとの由である。

松谷千代田が作出されてから、約100年。松谷氏が約30年実生を続け、かなりの数の実生を
してきたが、羅紗の千代田は、全く生えなかった。
  昭和40年ごろから、羅紗の千代田実生をつくることが、大きな実生界の夢になり、各地の有
力な実生家たちは、羅紗の生える千代田系の実親を作出に努力する。

  羅紗千代田・・・富士1号 (佐藤栄市郎氏)   羅紗千代田・・・富士3号 (佐野伝四郎氏)
羅紗千代田・・・竜松   (佐藤捨男氏)
第6回萬風展より  熊谷善幸氏 第6回萬風展より   赤羽安夫氏

昭和30年代になって、増殖された松谷千代田は、当時の有力趣味家だった
大西氏・仲田治平氏・峰岸氏などに割愛され、一般に入手できるようになる。
しかし、残されたF1などがあり、本性ものにこれらのものが沢山混ざっている
ようである。
  羅紗千代田系   盤松・・・熊谷善幸氏

実生界で大いにさがわれた羅紗千代田作出の動きは、
獅子の千代田、さらに羅紗獅子など実生の世界の発展
を夢見ている。