「白衣の似合う人っていいよね」
「それって怪盗KIDのことか?」
「ちげーよ!オレらのセンセイだよ」








白衣の天使なんかじゃない。

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宮野志保先生は帝丹高校の校医である。
いわゆる“養護の先生”で、美人なんだけど愛想が無い。
理科の教師よりも白衣が似合ってるんだけど、
ちっとも白衣の天使なんかじゃない。





ふざけて階段から落ちた生徒がいたら「バカじゃないの?」と冷たく突き放し、
体育で突き指した生徒がいたら「自分で手当て出来るわね?」と湿布だけ渡し、
授業中に鼻血出した男子生徒がいたら「性少年」と嘲笑する。

仕事にやる気がなさそうなのに、
生徒には冷たいのに、
何故か宮野先生は学校の人気者だ。





男子生徒からは「女王様」と恐れられ、
女子生徒からは「女神様」と敬われる。

これは女王様に忠実な下部の汗と涙と鼻水の物語である。








黒羽快斗は1年C組のお調子者だ。
顔がよく愛想もいいので、とりあえず皆から好かれる。
適当に優しいので、とりあえず女子からモテる。
快斗自身もそれに何となく気づいているので、更にタチが悪い。



でも彼には心に決めた人がいるので、
しかもそれは学校中に知れ渡っているものだから
皆が皆本気で黒羽快斗を好きなわけじゃない。
周りが「黒羽君っていいよね」とか言うから合わせているのだ。










「しーほさんっ!」
半開きになったドアからひょいと顔を覗かす。
今は昼休み。
早弁していたのでチャイムと同時に保健室に駆け込む。





「・・・・・・・・何?」
不機嫌そうな顔でエビフライを頂いている女王様は今日も美しい。
エビフライも幸福堂のAランチ(480円)なのに、伊勢海老に見える。
ありきたりな学校の保健室も、女王様の部屋かと思うと胸が躍る。



「どうしてそんなにツレないかなー」
「あのね、あたしは養護教諭で貴方は生徒。分かった?」
「全然」
「子供は相手にしないの」
「すぐ追いつくよ?」
「そういう問題じゃなくて・・・・・・だいたいちゃんと“先生”って呼びなさい」
「じゃぁ女王様」
「下僕って呼ぶわよ?」
「それもイイかも」




志保はため息をついて、座っていたパイプ椅子から腰を上げる。
そのままツカツカと奥に消えた。
何をするのか訊ねようとしたら、目の前にカップが差し出された。
「どうせ朝抜いて早弁しちゃったんでしょ?」
視線も言葉も冷たかったが、カップのインスタントスープは温かかった。
「さっすが志保さん!オレのことよく分かってる」
そう言うとハサミが飛んできた。
「先生と呼びなさい」

女王様はもしかしたらダーツの世界チャンピオンかもしれない。



・・・・・・・ハサミはすぐ横の壁に刺さっていた。














翌日の昼休み。
食べ物の匂いと色とりどりの弁当が並ぶ中、
またもや早弁してしまった快斗はぼんやりと窓の外を眺めていた。
「おまえよくやるよなー」
抑揚の無い声に振り返るとそこにいたのはクラスメイトの工藤新一。
顔は似てるのに性格はまるで違う。
同じように女の子にモテるのに、ちっとも優しくないのだ。
ちょっとはオレを見習えっての。





「年上の女性をモノにするにはどうすればいい?」
「ンなもん真面目な顔で問うな」
「全然相手にしてくれねぇんだもん」
「オレらが子供だからだろ」
「・・・・・・・・・そっか」
「でも好きなんだろ?」
「もちろん」
















「ねぇ、志保さん。オレって子供?」
「何度言われも分からないってことは子供なんじゃない?」
「そっかぁー」
「何でそんなに嬉しそうなのよ?」
眉根を寄せて不思議がる彼女にウィンクしてみせる。



「愛してるぜ!先生」





足蹴にされようが
冷たくあしらわれようが
ハサミをなげつけられようが

忠犬ハチ公はご主人様にしっぽと愛想を振りまいて、トコトンついていきます。





・・・・・・・今度はハサミは投げつけられなかった。








子供は子供なりに恋してみよう。
彼女が白衣の天使なんかじゃないのと同様に、
自分だって真面目な生徒なんかじゃない。



全国の青少年に捧げる。