僕たちはまだまだ青い果実。
まだまだ熟さない。
まだまだ食べられない。
誰の色にも染まらない。

ただ純粋に、
柔らかな果実たち。













らかな果実













「明日映画行かねえ?」
勇気を振り絞って声をかけた金曜日。

「あぁ、ごめんなさい・・・・・・・明日はちょっと用事があって」
あっさり断られてしまった金曜日の午後。



がっくりとうなだれているオレに、
「そんなにがっかりしなくても・・・・ごめんなさい、大事な用なのよ」
『大事な用』なんて聞いたら、その内容を知りたくなる。
「何だよ、その大事な用って」
「大事な用は大事な用よ・・・・・・・貴方には関係ないわ」
更に追い討ちをかけられた金曜日の午後三時。
もう立ち直れないかもしれない。






















なんてヤワな男じゃないんだなー、これが。
こっそり彼女の家の前で出てくるのを待っている土曜日の朝九時。

彼女はまだ阿笠邸から出てこない。
三十分後の九時半ごろ、お目当ての彼女が出てきた。
見たこともない、白の女の子らしいワンピースに若草色のカーディガン姿。
一体どこへ出かけるつもりなのだろうか。



前と後ろに視線を走らせている。
慌てて物陰に隠れた。
彼女は勘がいいから、気づかれないようにしなくてはいけない。
これでも探偵。
尾行は得意な方である。





彼女は駅前の喫茶店に入った。
それにしても一体どんな奴と待ち合わせしてるのだろか。
黒羽や服部だったらどうしようか。
とにかくどんな男がくるか(男と決まっている)オレは品定め(違う)しなくてはならない。

彼女は店員に何か注文して、腕時計に目をやる。
時刻は十時ちょっと過ぎ。
どうやら待ち合わせは十時のようだ。



店員がカップを持って現れ、彼女は砂糖らしきものを入れてカップに手をかける。
一口飲んだら、鞄から文庫本を取り出し読み始めた。
どうせまたやたら難しい本なのだろう。
ここからは何を読んでいるか分からない。
怪しい・・・・・・
木の陰からこっそり様子を伺っているオレも充分怪しいが。





そこへ一人、彼女の向かいの席に座った男がいた。
頭に手をやり、「遅れてすみません」とでも言ってるように。
ってあれは・・・・・・・・













光彦?!













何でここに光彦がいるんだ?!

彼女と待ち合わせしていたのは光彦だと言うのか。
彼女がオレの誘いを断ったってことは、オレは光彦に負けたのか。
こういうことに勝ち負けはないだろうが、どうしてもそう思ってしまう。



何を話しているのだろうか。
彼女は笑っている。
とても楽しそうに。
光彦相手に。





その様子をこれ以上見てられなくて、
オレは早々に引き上げたのだった。
工藤新一(仮の姿・江戸川コナン)、十四歳。
職業:中学生探偵。
まだまだ青春真っ盛りのはずが、
何だかもう、それどころじゃないかもしれません。




































「昨日光彦と会ってただろ?」
とはまさか聞けない。
彼氏と彼女の会話のようだ。
まだそんな関係ではない。

「・・・・・・・・・・・・・・何?」
じっと見てるのがバレ、不信な目で見られる。
「・・・・・昨日の用事って何だったんだよ?」
「・・・・・博士の手伝いをしていたのよ」
「へぇー」





何で嘘つくんだよ。
そんなに光彦と会っていたのを秘密にしておきたいわけ?
オレにはその一言も言えないんだ?










「でも見ちゃったんだよね」
「何を?」
「・・・・・・光彦といただろ?」
言っちゃった。まるで責めるみたいに。

彼女は悪くないのに。
ただのオレのワガママなのに。
独り占めしたい。
他の男に笑いかけないで。
他の誰かのものになんかならないで。





「・・・・・・・・・・・何で嘘つくんだよ?」
彼女は青い顔したまま何も答えない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・貴方には関係ないわ」

そう、関係ない。
オレたちは別に付き合ってるとかそんなんじゃない。
『関係ない』って言えばその一言で終わる。
彼女が光彦と会おうが付き合おうが、
オレには一切関係のないことなのだから。
一方的な想いなのだから。
「あぁ、関係なんかないな」





























「昨日灰原といただろ?」
ヤツを責めずにはいられなかった。
これは別名、ただの八つ当たり。

「・・・・・・・・いましたけど?」
彼はオレの形相に多少驚きながらも普通に答えた。
自分の約束の方を優先されたなんて知らないのだから。
「何話してたんだよ?」
「・・・・・・・・・・灰原さん、コナン君に何も言いませんでした?」
「何も言っちゃぁいねーよ」
「なら、彼女に聞いてみればいいじゃないですか?」
「聞いても答えてくれねーんだよ」
光彦相手に睨みを利かす。



しょーもない八つ当たり。
イライラする。
彼女には『関係ない』と言われてしまったが、
どんな話をしていたか気になって仕方ない。
「だ、だいたい灰原さんに口止めされてるから答えられませんよ」
「口止め?」
「あっ・・・・!!」

口止め:内密の話を他人に話さないようにさせること。
内密な話?

「何だよ、口止めって」
「だから・・・・・灰原さんに、話していた内容をコナン君にバラすなって言われたんです」
「・・・・・・・・・・ってことはオレの話なのか?」
「・・・・そうですよ」
「で、どんな話?」
「それは言えませんよ」
「何だよ・・・・ここまでしゃべっておいて」
「そうですよ、しゃべっちゃったじゃないですか・・・・・・秘密なのに」
「じゃぁこのまま一気に最後までしゃべっちゃえよ」
「出来ませんって・・・・・・・彼女に直接聞いて下さい」

































「って光彦に言われたんだけど?」
「・・・・・・・・・・・・貴方には関係ないって言ったはずだけど?」
「関係ないことないでしょ?オレの話してたんなら」
「・・・・・・・・・・・・そんな話した覚えがないわ」
「相手は覚えているけど?何なら連れてこようか?」
「・・・・・・・・・・・・結構よ」
「まだまだ青いな」



彼女は諦めたようだ。
オレは机の上にどっしり座り込んで、ここを意地でも動かないと決めた。
隣の席に座って学級日誌を書いてる彼女は呆れ顔。

「オレが知りたい。何の話をしていたのか」
「どうして?」
「どうしてって・・・・・それは・・・・・・・・・・・・・・・・」



ここは教室。
放課後といっても結構人が教室に残っている。
誰にも聞こえないように、しゃがんで彼女の耳にそっと囁く。
(それは君が好きだから)
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





そのお礼に彼女は学級日誌の端っこにこんな言葉を書いてくれた。
『円谷君にアナタを振り向かせる方法を聞き出していたの』
何故彼女はこういうことを光彦に聞き出したか分からないが、
日誌の言葉に驚いたオレは彼女を見上げる。










そこには余裕の表情の彼女。
「貴方もまだまだ青いわね」




















僕たちはまだまだ青い果実。
まだまだ熟さない。
まだまだ食べられない。
誰の色にも染まらない。
ただ純粋に、
柔らかな果実たち。



まだまだ青春真っ盛りなのです。











































7777番ゲットのゆり様へ。
大変遅くなりましたが、コ哀でコナン君ヤキモチな小説「柔らかな果実」です。
何か「学校へ行こう!!」の延長上で申し訳ないです。
リクエストされたとき、「中学生コ哀でいこう!」という気があったもので。
こんなんでも気に入って下さったら光栄です。
それではこれからも『未完成症候群』共々、よろしくお願いします。
キリ番申告ありがとうございました。