「綺麗ね」

博士の家の窓からうっとりしとように哀が言った。

「・・・・まーな」

窓を通してその横できらめくような星空を見ながらコナンが呟く。



そう、今日は七夕なのだ。
















願い事ひとつだけ

















一年で一回だけ織姫と彦星が逢うことのできる大切な日。

今日はいつものように博士の家でみんなと七夕パーティーをやっている。

どこからパクってきたのか、博士は大きな竹を持ってきた。

その笹に一つずつ短冊をかけていく。










『うな重が腹いっぱい食えますよーに』

一発で誰が書いたかわかる。

「もう、元太君!!そんなこと書いてたら叶わないわよ?」

「そーか?じゃぁ・・・」

『うまいもんがいっぱい食えますよ―に』

「同じじゃない!!」

「もっと僕みたいに夢のある・・・」

「じゃぁ、オメーのは?」

『ホームズみたいになれますように』

「夢みすぎじゃねーかよ!!」







彼らの会話は他愛無い。

呆れて何気なく横を向くと、哀が何やら熱心に書いている。

そっと覗きこんでみようとしたが、

「内緒よ?」

余裕の笑顔で返されてしまった。

(気になるなぁ・・・・・)
















彼女と知り合って早数ヶ月。

未だに彼女の考えていることはよくわからない。

いつもはあのポーカーフェイス。

それに時々見せる曇り空。

雨降りの顔も見たことがある。

あまり感情を表に出さないタイプだけれど、

稀に見せる表情がたまらなく愛しい。






















「さっき何書いてたんだよ?」

盛り上がっている三人を横目に、ベランダで寛ぐ彼女の隣に腰掛ける。

「別に」

いつものポーカーフェイス。




七月の風で彼女の髪が揺れる。

さすがに夜だから涼しい。

その悪戯な風が彼女のスカートもゆらゆら揺らすから、

何だか彼女を見ていられなく、下を向いてしまった。








「そういう貴方は何て書いたの?」

「決まってんだろ?」

わざと唇をとんがらす。

「・・・・アイツらを早く捕まえること」

彼女の顔が一瞬曇る。

「・・・・そんなに早く元の姿に戻りたいの?」

雨降り五秒前。





「・・・おまえは元に戻りたくねーのかよ?」

「あたしはいいわ」

「何でだよ?」

「このまま穏やかに過ごしたいの」

「穏やかって・・・・ヤツらに見つかりそうでビクビクしてんじゃねーのか?」

「それはそうだけど・・・・」

ひんやり冷たい風が火照った身体を冷やしてくれた。






「ゴメン・・・なんかイライラしてる」

これじゃぁ八つ当りだ。

「うぅん、貴方の言うこともわかる」

手すりに肘をかけて空を見上げた。

















そうね、もしも願いが叶うなら

たったひとつでいい。

何にもいらない。

他には何も望まないから・・・






















「私はこのまま貴方とずっと一緒にいたい」











ぼんやり雲のかかった月が彼女の姿を照らす。

白い華奢な腕が更に白く見えて、

瞬きするのを忘れそうな気がした。




「さっきの短冊に、このことを書いたのよ」

照れたように彼女はそっぽを向く。



















「あっ、流れ星・・・」

ふいに目の前を星が流れていった。





大きく息を吸い込み、

「オレもだーーーーーーーー!!」





びっくりした彼女の瞳。

表情が崩れ、

「三回言わないと、願い事叶わないわよ?」

とフッと笑い、また空を眺めた。













「綺麗な天の川・・・」

こぼれるようなため息。

きっと織姫と彦星はちゃんと逢えたのだろう。

何故なら、こんなに星が煌いているから。




たくさんの星が光のシャワーとなってこの道を作る。

ニ人の再会を星たちが祝ってくれているかのように。