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或る晴れた日に





















昨日は台風で嵐のようだったが、今日は打って変わって快晴。
四人の同居生活も慣れてきて、
今のところ仲良くやっている。(と思う)










「おはよー」
寝ぼけ眼でのろのろとリビングまで降りてきた快斗。
半分まだ夢の中のようで、よれよれのパジャマがだらしない。
昨日は遅くまで怪盗の仕事をしていたから、
朝は寝坊してしまったのだ。





「遅いぞ、快斗」
そんな快斗に新一の声が鋭く響く。
「何時だと思ってるの?」
着替えをとっくに終わらせている哀も呆れている。
「・・・・・・・十ニ時」
壁に掛かった鳩時計を見上げて真面目に答えてみせたが、平次に殴られる。
「アホっ!!真面目に答えんな!!」
「だって、今何時かって聞かれたから・・・・・」



僕はただ真面目に答えただけです。
そう抗議したが、あっさり却下された。



「皆貴方を待っていたのよ?朝食も食べずに」
「食べずにっていうか、アレがあるからでしょ?」
さらりと言う哀にもつっこめるほど、もう頭は冴えていた。

「じゃぁ、やりますか?」
「ほな、行くで?」
平次の合図と共に、一斉に目の前の札を取る。



この四人が同居し始めて早一ヶ月。
いつの間にかコレが朝の日課となっていた。










せーの!!!!










「うわー!今日に限って洗濯やないかっ!!」
昨日の台風の影響で洗濯物はたっぷり溜まっている。
平次の悲鳴がこだまする。
果たして今日一日で四人分のブツが片づくだろうか。



「オレは料理か・・・・」
料理の札を取った新一はそそくさとキッチンに引き返す。
冷蔵庫を開けて、「卵がない」などと呟いている。



「掃除?!」
イチバン嫌いなものを引き当てて、気分は最悪とでも言いたそうに、
快斗膝を抱えうずくまる。
「何かオレ最近掃除ばっかじゃない?」
と壁に向かい、何やら愚痴っている。



すると、平次が思い出したように
「ちょっと待て?じゃぁ・・・・・」
三人の視線が独りの少女に向けられる。
「そういうこと。あたしは休みね?」
『休み』と書かれた札を彼らの目の前でチラつかせ、嬉しそうに哀が笑う。





残された三人は開いた口がふさがらない。
そんな男三人を見下すように、そのままソファーに座り込む。
「じゃぁ、あとよろしく。悪いわね」
ちっとも悪びれた様子もなく、女王様のような振る舞いで本を読み始める。
「「「・・・・・・・・ハイ」」」

頑張りまーす。













「っていうかさー」
四人分のパンを焼き、サラダを盛りつけ、ベーコンを焼き、
マーガリンとブルーベリージャムを用意し、やっと自分の席に着いた朝食当番新一が口を開く。
「ひょうしひゃ?」
それを聞いて、口にパンをほおばりながら快斗が訊ねる。
『どうした?』と言いたいらしいが、そうとは聞こえない。
「口にもの入れながらしゃべんないでくれる?」
どうやらパンのかすが飛んだらしく、哀が不機嫌に注意する。
そんな哀に向かって今度は新一の一声。
「おまえが家事やるって言ってなかったか?」





・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
そうだった!!





『だってこのメンツで料理作れるのあたしぐらいでしょ?』
そんな彼女の言葉を思い出す。
あれだけ三人を「生活力がない」とバカにした彼女だが、
めちゃめちゃ彼らは頑張って家事をしているではないか!!
むしろ彼女の方が何もしていないのでは・・・・?



「あら・・・・あたしに家事を全て任せる気?」
当の本人は信じられないとでも言いたそうに、可愛らしい小さな口を尖らす。
「だいたい・・・あるドラマみてこれやろうと言い出したのは快斗よ?」





そうなのだ。
前は朝・昼・晩の飯は哀が担当し、掃除も洗濯も彼女がやっていた。
そんな中某テレビドラマを見た快斗が、
『哀ちゃんばかり家事やらせていては・・・・!!これやろうよ?』
と言い出したのがきっかけである。

トロピカルランドで買ったお菓子の筒に、
『洗濯』『料理』『掃除』『休み』とそれぞれ書かれた四枚の札いれ、
せーの!!で朝の当番を引き当てるのである。



「ドラマでやってた時には面白そうに思えたんだよっ!」
非難を浴びた快斗が慌てて言い訳する。
「じゃぁ、ちゃんとコレに従ってくれないと」
哀の声に、新一・平次も快斗に冷たい視線をやる。
「でもさぁ〜、哀ちゃん何でいつも休みなのさ?」





そうなのだ。
朝のやるべきことを分担制にしたはいいもの、
どういうわけかいつも哀が休みで、三人が家事をやっている気がしてならないのだ。
「くじ運がいいのよ」
哀はさらりとそう言ったが、どうも納得いかない。



「あたしがそんな仕掛けとか作れるわけないじゃない」
「イヤ・・・おまえならその気になれば何だって・・・・」
確かに何でも出来そうである。
細工をすることだって簡単にやってのけてしまうかもしれない。
「快斗は?」
哀は自分への疑いを晴らすため、快斗の名前を挙げる。
「そうだ・・・・快斗こそ得意のマジックで、いくらでもイカサマ出来るんじゃねーの?」
新一は未だ怒っているようだ。
「ひどいわ!新一君っ・・・・・・あんまりよっ!!」
必死に弁解する。
疑われたショックのあまり、口調が変わる。
「・・・・・・キャラがちゃうで?」
平次の華麗なるツッコミも聞こえはしない。
「マジックはこんなことには絶対使いませーん。今日だって嫌いな掃除したじゃん?」
わざわざ故意に嫌いなものをやる必要はない。
「だからこれからそういうことが出来んじゃんってこと」
ジトっとした視線がやられる。
「ひどいわ!新一君っ・・・・・・あんまりよっ!!」
「あーハイハイ、もうわかったから」
オカマ言葉はどうやら評判は良くないらしい。





「細工なんてなさそーやで?」
必死にお菓子の筒を調べていた平次は、
何も細工がされていないことに気づく。
西の名探偵が言うのだから、間違いはないはず。
「じゃぁ、本当に今までただ単にくじ運がよかっただけ?」
「そういうこと」
哀がのんきに緑茶をすすりながら言う。
「まぁ、哀ちゃんにばっか家事やらせるわけにはいかないからさ」
とにかく快斗はコレを続けたいらしい。
「哀ちゃんばっかって、オレはコイツが朝の家事してるところ見たことないぞ?」
新一の抗議に、
「あたしもやったことないわ」
「ってオイ!!哀ちゃん何言うてんの?!」
肯定されても困るというノリでつっこむ。



「でも夕飯を作っているのはあたしよ?」





・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
そうだった!!





「じゃぁ、これからも朝はコレで」
哀の目の笑っていないにっこりに、
一同は恐怖のあまり、その場で固まった。
そういうことに収まった。





















































そしてその翌日。
「今日こそやってもらうで?哀ちゃん」
「当番が当たったらでしょ?」
「じゃぁ、やってもらいましょうか?」
「オレまた掃除だったらどうしよう・・・」
それぞれの思いが巡る中、










せーの!!




























「ほら、言ったじゃない・・・あたしはくじ運がいいのよ」
「ハイハイ、お嬢様」
卵を器用に片手で割ながら、平次が苦笑する。
綺麗にフライパンに転がし、ジューという音が聞こえる。
今日の朝食当番は彼である。



「今度一緒に競馬場にでも行くか?お姫様」
洗濯物をハンガーにかけている新一がからかう。
彼女の運の良さでお馬さんの予想も当てようとしているらしい。
「で・・・何でオレはまた掃除なの?女王様」
独り淋しく隣の部屋に掃除機をかける快斗。



やはりどいつもこいつも彼女には勝てない。

























この話は、そんな四人が或る晴れた日に繰り広げたコント、いや三文茶番劇である。



















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