second time sympathy...
―後編―
「蘭姉ちゃん、どうして新一兄ちゃんを待てなかったの?」
こんなこと聞いたって困らせるだけなのに。
分かっていても聞かずにはいられなかった。
ほら、困って苦笑している。
「冗談だよ、結婚おめでとう」
心にも思っていないことを平気で口に出来るほど、
オレの心は乾いてしまったのか?
朝見た彼女の涙が、頭から離れない。
ドアの前でコホンと咳払い。
コンコンと二回ノックをして
「失礼します」
「話って何ですか?黒羽先生」
あたしを理科準備室に呼び出すヤツなんて独りしかいない。
「やだなぁ、そんな他人行儀な。いつもみたいに黒羽君でいいのに」
そう言って彼はあの顔で笑った。
全く、ふざけてるんだか真面目なんだか。(きっと前者だけど)
「いたいけな女生徒をこんなところに呼び出すなんて職権乱用ですよ」
「どっちがいたいけなんだか」
「彼、授業態度が悪すぎなんだけど」
「呼び出す相手、間違えてません?」
「あたし、彼に同情してたんです」
「・・・・・・・・・うん?」
「だから傍を離れられなかった」
「アイツのことが好きなんだろ?」
「えっ・・・・・・・・・?」
「傍を離れなかったのは同情とかじゃなくて、ただ好きだったからじゃないの?」
ただ、好きだった。
ただ、傍にいたかった。
「違う?」
快斗の意地悪な顔が見える。
「違く・・・ない」
好きだったから。
それだけの理由。
気がついた時にはもう遅かった。
残酷にも、もう戻れないところまで溝は深まってた。
担任に拉致られた木曜日の放課後。
「君さぁ、前期の化学2ね」
「まだ期末も終わってないんですけど?」
「そんなにふてくされないでくれる?今までの人生リハーサルだと思えばいいじゃん」
「人生にリハーサルなんてねぇよ」
「だ・か・ら!今まではこれから哀ちゃんと共に生きる人生の下準備だったんだよ」
「工藤新一が下準備だぁ?」
「そう、君はもう江戸川コナンとして生きていくしかない・・・・・・・運命なんだよ」
「殴るぞ貴様」
真面目な顔してそんなこと言い出した悪友を、本気で殴りたいと思った。
「試練の間違いじゃねーか?」
「そうとってくれてもいいよ」
「役に立たない担任だな」
「ハハ・・・・全くだ。わざと君の前に現れたりね」
「わざとかよ」
「・・・・・嫉妬してたんだろ?」
「はっ?!」
「オレにも哀ちゃんにも」
この男は何を言い出すんだろう。
「哀ちゃんは、ちゃんと前を向いて新しい人生の一歩を踏み出して生きているよ?」
彼女のいつも真っ直ぐな瞳を思い出す。
何でアイツは酷い扱いを受けても、文句ひとつ言わなかったんだろう。
「それに比べて君は後ろ向き」
「・・・・・・何が言いたい?」
「哀ちゃんが何も言わないのは君を待っているからだよ」
アイツがオレを待ってる?
「二人で背中向けてないで一緒のスタートラインに立てばいいのに」
そう言って、アイツはオレと同じ顔で笑った。
今更一緒のスタートラインなんか立てるかよ。
あんなに傷つけて泣かせたのに。
『嫉妬してたんだろ?』
―そうだよ、悪かったな。
「灰原っ」
夕焼けに染まったグランドで彼女を見つけた。
振り返った彼女の頬には、夕日のオレンジ色がかかっていた。
そんな彼女が初めて綺麗だと思った。
「嫉妬してたんだ」
「はっ?!」
彼は急に何を言い出すんだろう。
「おまえだけはずっとオレのこと見ててくれるって、どこか自惚れてた」
「・・・・・・・江戸川君」
「幸せになっていいよ・・・・・・・黒羽のとこでも、どこでも好きなところに行けばいい」
『江戸川』と呼んだ彼女に最大の感謝をこめて。
「解放するよ・・・・・・今までごめん」
そう言って、泣き笑いの顔になる。
しゃがみこんだ彼の頭を、同じように自分もしゃがみこんでポンポンと叩く。
初めてこんな彼が愛しいと思えた。
「じゃぁ、あたしは此処に居るわ・・・・・・・此処が好きだから」
これからもずっと君の傍にいるよ。
あたしの居場所は『江戸川コナン』の隣しかないから。
全てをリセットしても君の傍にいるよ。
―sympathy
[同情、共感]
共に生きて同じものを感じよう。
今やっと、一緒のスタートラインに立てた。
二回目の人生、ここから再スタート。
完