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 これは、一体何なのだろう。高校生探偵・工藤新一は、男にしては大きな目と割と小さめな口を大きく開けたまま思った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 始まりは一本の電話だった。
 突然の事件の依頼。
 
 電車の中では女子高生に痴漢に間違われ、
 道の途中で迷っているお婆さんを駅まで送り届け、
 依頼人と待ち合わせした喫茶店で産気づいた妊婦を助け、
 挙句の果てには依頼人にすっぽかされて、
 くたくたになって家に帰ると勝手に他人が上がりこんでいた。
 
 
 
 他人と言ったら怒られるだろうけど、上がりこんでいたのはあまり親しくしたくない友人と可憐な美少女で、
 親しくしたくない友人―黒羽快斗はクラッカー片手にヘラヘラ笑っていやがる。
 普段は愛想の無い彼女も、にこにこ笑って凄まじい惨劇となっている部屋に招き入れる。(オレの家だっての)
 オレはオレで、「これ誰が片付けるんだろう」などと冷静なことを考えていた。
 
 
 
 
 
 「何でおまえらこの家に入れたんだよ」
 鍵はきちんと朝、かけたはずである。
 職業柄か、かけ忘れるなんてありえない。というか完璧主義★な工藤新一である限りありえない。
 
 「怪盗キッドが開けてくれたんだよ」
 「嘘付け」
 「いや、ホントに」
 「何でおまえ知り合いなんだよ?」
 「知り合いじゃないよ、さっきこの家の前でウロウロしてたんだよ」
 「嘘付けよ」
 「嘘じゃないよ、おまえこそ知り合いなんじゃん?」
 「知り合ってたらとっくにお縄につけてるっての」
 「トモダチ売る気?」
 「怪盗キッドと友達になる気はないけどな」
 「新一君ヒドイっ!」
 「何でおまえが傷ついてんだよ?」
 
 「工藤君・・・・・深く考えちゃダメよ」
 彼女のこの一言でこの議論が終わったのは言うまでもない。
 
 
 
 
 
 「それにしても本当に怪盗キッドがうちの前ウロウロしてたのかよ?」
 料理に夢中になっている彼女の背中を眺めながら(赤いエプロンが可愛いぞ)
 隣の席でちゃっかりつまみ食いしている快斗にこっそりと耳打ちする。
 
 「やん、くすぐったいv」
 「殴るぞ貴様」
 ヤローにそんな色っぽい声を出されても困る。というかむしろ気持ち悪い。
 
 「ホントだってば!哀ちゃんも見たもの」
 「あいつオレの家調べたのか・・・・」
 「案外ストーカーだったりして」
 「ふぐっ・・・!!」
 
 「そうね、きっと怪盗キッドはゲイだったのよ」
 焼きたてのケーキをテーブルに運びながら、哀がぼそりと呟く。
 オレはその言葉にウケたけど、何故か隣で快斗はこけていた。
 
 
 
 「偵察してただけじゃないのかな」
 「何でおまえ今度はキッドの肩持つんだよ?」
 「いや・・・怪盗キッドの名誉のために誤解を解こうと・・・・」
 「あら、本当にゲイかもしれないじゃない?何度か仕事で会った工藤君に恋心を抱いたのかもよ?」
 「ハハ・・・モテる男はツライね」
 「ヤローにモテてもな」
 
 
 
 
 
 まぁ、そんなわけでパーティーは始まった。
 愛想の無い彼女が珍しくほろ酔い気分で赤くなっている隣で、何故か快斗は青くなっていた。(飲みすぎか?)
 
 
 
 
 
 ふいに、リビングの隣の客間の扉が半開きなのに気がついた。
 近づいてそっと扉に手をかける。
 
 「あっ・・・ダメ!工藤君」
 なんて灰原が慌てて止めようとするが、(オレの家だっての)
 「新ちゃんっ・・・・実は猫拾ってきちゃったんだ!!」
 なんて黒羽がふざけたことほざいて注意を引こうとしたけれど、(だからオレの家だっての)(新ちゃんって何だよ)
 
 客間からは出てくるわ出てくるわ、どっかで見たことあるような衣装やらカツラやら何やら怪しいものまでズラズラと。
 
 
 
 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・
 
 
 
 信号の無い横断歩道で困っていた(ふりをしてた)お婆さんも、アイスティー飲んでいたら急に産気づいた(ふりをした)妊婦も
 全部コイツの変装だったのか。
 
 
 
 「怒っちゃいやんv」
 見つかったものは仕方ないというように(要は開き直り)ヤツはにっこり笑った。
 「次ハートマーク使ったらマジでこの家の庭に埋めるぞ」
 だからそれにつられて、オレもにっこり笑いかけてやる。
 ちょうど良く、この家には凶器がありふれている。
 
 「まぁまぁ、黙っていたあたしも悪かったことだし」
 「そうだよ!何でおまえ黙ってたんだよ」
 「黙ってたというか、あたしが時間稼ぎのために黒羽君に頼んだんだけど?」
 
 どうやら黒羽がオレの注意を引きつけてる間に、灰原が忍び込んで飾り付けやら料理やら準備していたらしい。
 
 生クリームがたっぷり塗られたシフォンケーキにフォークをさして、「あーん」なんてやってくれちゃってる彼女に絶句する。
 彼女の厚意(嫌がらせ?)をありがたく頂戴し、差し出されたフォークからケーキを頂く。
 砂糖控えめの生クリームが、やけに美味しく感じた。
 
 
 
 
 
 まぁ、コイツらがここまでオレの誕生日を祝うために働いてくれたってことはよく分かったから、
 黒羽のハリウッド顔負けの特殊メイクと女優顔負けの名演技に免じて許してやろう。
 
 今日は何故かものすごく気分がいい。
 黙っていても笑いが腹の底からわきあがってくるようだ。
 人生日々良好。
 
 
 
 
 
 「それにしても、おまえの誕生日企画とはえらい違いだな」
 「愛の差じゃん?」
 
 
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