In the rain






梅雨はキライだ。
今年の梅雨いりは早いらしい。
まだ五月だというのにこの天候。
どんよりした雲、止みそうもない雨。
何故だかブルーになる。
毎年この季節になると思い出す忌まわしいあの記憶。





ノースリーブのワンピースを少しずらし、
目の前の鏡の中の自分の姿を見る。
肩には一つの銃痕。
「まだ消えないか・・・・」
大きく息を吐き、もう一度見つめる。
禍禍しい傷跡。











「よっ!何してんだ?」
不意に誰かの声。
慌てて鏡をのぞいて後ろを確かめたらコナンの姿が。
「工藤君?!」
ここは博士の家。
彼が遊びに来てもおかしくはないけど・・・
「おまえ・・・そのキズどうしたんだよ?」
(見られた?!)
慌ててワンピースを戻し隠したが、もう遅かった。



「本当にどうしたんだよ?」
肩をつかまれ揺らされた。
「何でもない」
「また奴らか?」
「違うわ」
「このまえの杯戸シティホテルでの傷がまだ消えないのか?」
「違う・・・・」
そんなんじゃない・・・・





「あたしにかまわないで!!」
唇を噛み締めて彼を睨み、表に飛び出した。
この降りしきる雨の中を。
傘もささずに。
「灰原!!」
後ろで彼の叫び声が聞こえた。











こんなのただの八つ当たりだった。
彼は何も知らないのに。
いつものように心配してくれただけなのに。



履いていた黒のサンダルの右の踵が取れてしまった。
右の足だけ地面につけてみた。
冷たい。
アスファルトの地面は何故こんなに冷たいのだろうか。
この止まない雨も、
何故こんなに冷たいのだろうか。



















上を向いて雨に打たれていた。
冷たい水の雫が顔にかかる。
足音が聞こえる。
誰かが走ってくる音。
近づいて、その音の主はあたしの腕をとった。
「何してんだよ・・・・?」
「雨に打たれているのよ」
上を向いて雨に打たれたままあたしは答えた。
「・・・・おまえ変だぞ?何があったんだ?」
「別に何もない」
可愛くない態度。





「言っただろ?オレはおまえを守るって・・・・」
そう言って、彼は優しく微笑んだ。
何かモヤモヤしたものが消えていくような気がした。
私は彼の肩をかり、静かに目を閉じて、語り始めた。
この傷跡のことを。











「三年前のちょうどこの時期、ジンに撃たれたのよ」
「ジンに・・・?!」
「あの研究を一番最初に止めるって言いだしたときよ」
「三年前から止めようと思ってたのか・・・・?」
「えぇ・・・・あたしは何の為にこんなことをしてるんだろうって思って」
「それでジンに・・・・・?」
「そう・・・」
私はもう一度ワンピースをずらし、彼にキズを見せた。
「醜いでしょ?一生消えないわよ?」
彼は何も言えないみたいだった。



そりゃそうでしょうね、こんなキズを持った女の子、誰だって。
すると彼はポケットからハンカチを取り出して、
キズのあるところを覆い隠した。
「これなら見えないから気にしないだろ?」
にっこり笑って。











どうしてこの人はこんなに優しいのだろう。
周りはもっと冷たいものだと思ってた。
どうしてこの人はこんなにも暖かいのだろう。
本当は怖かった。
あの時自分を撃ったジンの殺気に満ちた恐ろしい冷酷な顔も。
周りの非難の目も。
貴方の中途半端な優しさも。





全て怖かったの。
あたしはずっと独りだった。
これからもずっと独りで生きていく。
そう思ってたのに、
どうしてこの腕が必要なんだろう。










あたしは彼の首に手を掛け、抱きついた。
彼は全てを受け入れたように。
優しく包み込んでくれた。
何故か独りじゃないって、そう思えた。



「帰ろう・・・・」
「・・・・・うん」














雨は相変わらず止まなくて冷たかったけど、
アスファルトの地面の冷たさは感じなく、
つないだ彼の手は暖かかった。



降りしきる雨のなかで、
あたしは彼の体温だけ感じていた。