冗談でも本気でもないけど
ねぇ、オレのものになって?






僕のピアスガール











「ねぇ、何故貴方はいつもここに来るの?」
「決まってんじゃん?君がいるからだよ」
ニ人だけが知ってる秘密の隠れ家。
仕事が終わるとオレは必ずここに寄るし、
彼女も何故かいつも迎えてくれる。





決して温かい言葉をかけてくれるわけじゃないけど、
君といると心が安らぐんだ。
名前も知らない、年齢も知らない。
お互い何も知らないけれど
心のどこかで繋がっている。
なぁーんて、オレは勝手に思ってるんだけど。





「オレたちってお互い何も知らないのに何で一緒にいるんだろ」
棒読みのセリフ。
風があまりにも冷たくて凍えそうだ。
「貴方があたしのこと好きだからじゃない?」
隣に並んで星を見上げた。
「反対でしょ。君の力に惹きつけられちゃうんだよねー」
「何の力?」
「愛のちか・・・・ら?」
自分自身に訊ねるように首をかしげる。
「そんなものないけど?」
そう言い切ってしまう君が愛しい。










身体の芯まで冷えてきたけど、部屋に戻る気はない。
ただ寄り添うように並んで、星を見ているだけ。
ただ空白の気持ちを、一緒にいることで満たそうとしているだけ。





夜の闇は全てを飲み込んでしまう。
夜の力を知るのは、夜に生きる者たちだけ。
夜の街では強い者だけが勝つ。
生き残る。
たとえ全てを無くしたとしても。
「あたしは二十四時間生きてるわ」
そんな話をすると、君は笑ってこう言ったっけ。
「昼間も夜も呼吸しているわ。生きているのよ?」
「夜は昼間とは違うよ?」



誰も守ってはくれない。
優しくもない。
社会も秩序も、ただ風のように通り過ぎるだけ。










彼は夜の街に生きる。
全てを消して壊したくて。
だから彼女は昼の街を生きる。
全てを元に戻して守りたくて。

僕たちは対極にして一対なんだ。









































「オレのものになって?」




















「・・・・・・・・嫌」










「そう言うと思った」
そう言って左手に隠していたプレゼントを差し出す。
きらきら星が揺れるピアス。
昨日偶然見つけた、君に似合いそうなピアス。





「これをあたしに・・・・・・・?」
にっこり笑って、うんうんと頷く。
「・・・・・穴あけてないんだけど」





知ってるんだ。
口ではそうは言ってるけど、
そのときの君の心情ったら。
でも君ももう気づいたんだね。
別れのサインを。









「このピアスが似合うようになったら迎えに来るよ」
「今さっきオレのものになって?なんて言ったくせに」
「攫って欲しいの?」
「あたしに待てって言うの?こんなときだけ子供扱いする」
「僕が戻ってきたとき、君がとびきりの美人になってたら・・・・」
「あら?今は美人じゃないって言うの?」
「僕が夢中になるほど素敵な女性になってたら、考えてあげるよ」
「何よエラそうに・・・・・そのときは攫ってくれる?」
「そのときになったらね」











「君に幸あれ」
唇が少し触れるだけの軽いキス。
唇が離され瞳を開いたときには、
彼はもう夜の闇に溶けるようにして消えていた。

















その夜から怪盗キッドは秘密の隠れ家には現れていない。
その数年後、赤髪の少女は両耳に星を宿した。
きらきらひかる、流れ星。
女を磨くための、素敵なおまじない。











































でも本当は夜が怖いんだ。
そんなこと言ったら、君は笑うかい?
ねぇ、僕のピアスガール。