みんなの夏休み日記3

〜服部平次の場合〜











「で、何で哀ちゃんがおんの?」
「いいじゃない、別に。お土産いらないの?」
「いります。欲しいです」
信州限定のお菓子を頂き、口にくわえる。
なかなか美味い。



さてさて今は八月。
夏真っ盛りということで、海にやってきた。
青い空。白い入道雲。
隣には・・・
「オレは快斗とスイカ割りに来たんやけど?」
「何でヤロー同士でスイカ割りしなきゃいけないわけ?」
紅い水着が眩しい哀の姿。
そうなのだ。
別に快斗が好きだから一緒にスイカ割りに来てるのではない。
あぁ、もちろん快斗は友達としては好きなんやけど。





今日はナンパに来たのだ。
それなのに隣に哀ちゃんがおったら出来ないではないか。
悟られないように努めて冷静に振る舞う。
「・・・・・・・・あたしなら勝手に遊んでいるから、どうぞご自由にナンパを」
が、バレとる?
今日海に来た理由を何故貴女が・・・
「今日のナンパは成功するといいわね」
「はいっ?」
動揺して語尾が上がる。
「あら・・・だってこの前のナンパは失敗したのでしょう?」
ズドーン。
どこで聞いたかわからないが、哀は何でも知っていた。
「哀ちゃん・・・どこでそれを」
つい一週間前にもスイカ割りと称して海にナンパしに来たのだ。
その時は新一は事件に追われ、哀ちゃんは避暑に行ってたハズ・・・
オレはその時の様子を快斗にしか話しておらんハズ・・・
「――――――――快斗っ!!」
隣でスイカをのんびり眺めている快斗の首を絞める。










「全く・・・・・・その年になってナンパ?」
そんなニ人を冷めた目で見下し、哀は呆れている。
十代の健全なオトコノコには当たり前の行為です。
と言いたかったが、信用を失いそうだったので止めといた。
もうすでに信用はないかもしれんけど。
「あ・・・哀ちゃんもスイカ割りする?」
やっと呼吸が整ったのか、絞められた首に手をやったまま快斗が誘う。
「ナンパはするつもりないけど?」
「ナンパは今日は平次、しないってさ」
「今日はって何や?」
ますます信用を失いそうだ。
「あら邪魔したみたいね」
「ナンパはまた今度ということで、スイカあるしやろうよ?」
「そうね・・・あ、工藤君も呼べば?」
「いいなぇ、どうせヒマなんだろうし」
「おぅ!そうしよ、そうしよ」
こうなりゃヤケや。















ということで。
結局新一も呼び出し、四人でスイカ割りをすることになった。
「ホレ、自慢の剣道の腕見せてみろよ?」
新一は着くなり早速オレに目隠しをさせた。
「じゃぁ、やりますか」
目隠しのおかげでさすがに世界は真っ暗。
声だけが頼り。
「もっと右」
「いや左」
「そのまま真っ直ぐよ」
だが、どれも嘘臭い声があちこちから聞こえる。
誰を信じたらええかちっとも分からん。
というかこの連中は全員アテにならん。
右か。
左か。
他の人の頭打ったらシャレにならん。





・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・





「あぁー!もう止めた!!」
いくら考えても分からないので、目隠しを外す。
「取ったらダメじゃん」
新一の言葉を無視し、そのままスイカの方に向かう。
そしてそのまま




















ドスッ




















「おい・・・素手で割ったぞ、コイツ」
「あら勿体ない」
「いや、哀ちゃんそういう問題では・・・」
すっきり真っ二つに割れたスイカは平次の口に運ばれる。
「シート引いてるから大丈夫やろ?」
そしてそのまま食う。
「勝手に一人で食うなよ」
「えぇやん、別に」
「じゃぁ、我々も食べますか」
「よく熟してて美味しそうね」
スイカは美味だった。
何てったって、オレが朝イチバンに八百屋のおっちゃんから値切って買ってきたモンやからなぁ。
「あ、種飲んでしもうた」
ついうっかりよくやってしまう。
ガムとおんなじや。
「スイカの種食べると腹の中でスイカが生るんだよ?平ちゃん」
快斗が恐ろしいことを言ってくれる。
「そんな子供騙し、もう通用するトシじゃないんやけど?」
しかも平ちゃんって何や。





そんなにでかいやつじゃなかったので、
あっという間に四人の腹の中に収まってしまった。
「もうひとつあるわね」
「何個買ってきたんだよ?」
「ニつ」
スイカをほおばっている平次の代わりに快斗が答える。
「多すぎじゃない?」
小さいと言っても、確かに四人でニつは多いかもしれない。
明日には全員ピーピーいうかもしれない。
「でもスイカと言うたらやっぱスイカ割りっしょ」
食べ終えた平次が口を拭いながら言う。
「何だよその勝手な法則は。しかも会話になってないぞ」
「・・・・・・・じゃぁ、最後ははあたしがやろうかな?」
そう言って哀が腰を上げる。
「じゃぁって何だよ、まとまってねぇぞ?」





「あたしは服部君と違ってちゃんと目隠しつけてやるわよ?」
「はいはい、頑張ってー哀ちゃん」
哀はナゲヤリに言う平次を睨み、目の上にタオルを厳重に巻き付けた。
「さぁ、案内してちょうだい」
棒を振りかざす姿は勇ましいのだが、
反対に恐怖も感じた。
「右」
「左やって」
「そこそこ思いっきり」
何度か空回りした後、
だんだんこちらに近づいてくる。
最初は面白がって、「オレらに当てんなよ」とか言っていたが、どうも様子がおかしい。
「え・・・・ちょっと待て」
止めたが、すごいスピードでこっちに突っ込んでくる。
そして・・・




















ゴスッ




















その瞬間、鈍い痛みが頭に響く。
ものすごく痛い。
よく女性が出産するとき鼻の穴からスイカが出てくるぐらい痛いとか言うけど、何か分かるような気がする。
「・・・・・・・・・・・・・うっ・・・わざとでしょ?哀ちゃん」
痛みを堪えながら、涙目で哀に訴える。
「ん?何のことかしら?」
とぼけた笑顔が憎らしい。
「結局割れなかったな、じゃ、オレが」
「止めれ」
嬉しそうに立ち上がった新一を慌てて引き留める。
絶対コイツも同じことをヤル。
百円賭けてもいい。
「・・・・・・・・・・・・じゃぁ」
おもむろに快斗が指をパチンと鳴らす。




















パキッ




















「これって反則じゃない?」
「つーか根本的な趣旨が間違ってるよ」
お得意のマジックで華麗にスイカを割ってくれたはいいもの、
何か間違ってると思う。










結局、ニつ目のスイカは食べきれず、
阿笠邸に流れたとさ。
めでたし、めでたし。






















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